8月28日に愛媛大学で開催される,第6回「物体の落ちる速度を考えよう!」の事前学習用の動画を公開しました。

今回の講座では,アクリルパイプと球,速度測定器(ケニス)をつかって,物体の落ちる速度を考えます。水ロケットの打ち上げにも,物体が落ちる速度は関係していますので,水ロケットの設計にも重要な点でしょう。

科学者は,物事の速度を速くしたり,おそくしたりする方法を考えます。たとえば,物体が落ちる速度をおそくするために,科学者はパラシュートを開発しました。パラシュートをつかうと,とてもゆっくりと落下することができるようになります。

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図1 パラシュートをつかうとゆっくりと落下します

さて,では,どうしてパラシュートをつかうと「ゆっくり」と落下することができるのでしょうか。パラシュートの「なに」が「どうして」落下する速度を遅くするのでしょうか。どうでしょうか。何気なく,そうだと思っていることを科学的に説明することは意外とむずしいのではないでしょうか。

パラシュートをつかうことで落下する速度をおそくすることができるのは,パラシュートが私たちの体重を支えてくれるからです。では,「なに」が私たちの体重を支えるのでしょうか。

空気でしょうか?

しかし,私たちは空気を触ることができません。ジャンプしても空気が私たちを空中で支えてくれることはありません。この問題を考えるためには,第4回で学習した見えない分子のイメージが重要になります。第4回はwavefunction社のSubstancesをつかって,空気を分子の大きさから考えました。

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図2 wavefunction社Substances

空気は,ひとつの物質ではなく,窒素分子78%,酸素分子21%,アルゴン1%,その他分子からできている混合物です。分子はとても小さくはありますが,質量を持った物体です。と言うことは,目に見えない小さな分子が,私たちの体重を支えてくれるのでしょうか。目に見えず,はかりではかることもできないほど小さな分子が,私たちの体重を支えることができるでしょうか。そして,それは私たちの体重を支えるためには,パラシュートが私たちの身体よりもとても大きな事と関係があるでしょうか。

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図3 空気の分子と物体がぶつかることで,落下する速度がおそくなる?

分子は小さくて目に見えません。しかし,分子は私たちの生活に大きな影響をあたえています。そのひとつが,この空気の力,空気抵抗です。空気は地表のいたるところにあって,運動する物体を遅くする方向に,空気抵抗として働きます。たとえば,新幹線やロケットの形が,特殊な形をしているのは,空気の分子とぶつかりにくくする,もしくは空気の分子をそらすようにするためなのかもしれません。

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図4 ロケットの先端は特殊な形をしています

物体の落下には,もうひとつ重要な話があります。そうです。「万有引力の法則」と「重力」です。これらを知っている人は,なぜ物体が落下するのかと言われても,疑問には思わないかもしれません。しかし,歴史的に見れば,物体がなぜ落下するのかについては,みなさんが思うように「かんたん」ではありません。ニュートンが万有引力の法則を「自然哲学の数学的諸原理」で発表したのは,いまから約330年前の話です。いまから,たった300年前,引力の話は一流の科学者同士でしかわからないむずかしい話だったのです。みなさんは最初から「答え」を聞いているので「かんたん」に思えるだけかもしれません。「知っている」「わかっている」という思いこみは,ものを見えなくします。

さて,万有引力の法則は,2つの物体間に働く引力の話です。私たちと地球で考えると,地球の上に立っている私たちに働く力は,引力だけではありません。地球は24時間で1回転していますので,時速約17000 kmという高速で動いています。とうぜん,この力も私たちに働く力のひとつです。そのため,私たちと地球の間には,引力のほかにも,回転による力などさまざまな力が働いています。そこで,これらのちからをすべてまとめたものを重力とよびます。重力は9.8 m/s^2で,これを重力加速度とよんでいます。

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図5 地球は時速17000kmで高速回転しています

地表に立っている私たちには,重力が働きます。そのため,木から落ちたリンゴは地表に向かって落ちていきます。このように重力以外の力が働かずに落下することを自由落下とよび,以下のように表されます。

自由落下の速度=重力加速度×時間

ここで大事なことは,自由落下の速度には「物体の質量は関係ない」ということです。当たり前だと思いますか?
では,雨について考えてみましょう。雨は上空にある雲から,水滴が自由落下によって落ちてくる現象です。物体の質量は速度に関係ないので,水滴の質量は考えなくて良いでしょう。雨雲は高度約300 mくらいにあります。雲から落ちた水滴は約8秒で地表に到達します。このときの速度は以下のようになります。

雨滴の速度(m/s)=9.8(m/S^2)×8(s)=78.4(m/s)

これを時速に直すと時速280 kmになります。新幹線よりも速く雨は落ちてくることになります。これを傘で受け止めるのはむずかしいでしょうね。そう。実際の雨滴の速さは時速30 kmくらいです。

おかしいですね。理論と現実が矛盾しています。なぜ矛盾するのでしょうか。「わかっている」と思っていては,そうした矛盾に気づかなくなるのです。科学の理論はきわめて強力なツールです。しかし,うまくつかわなければ,その力を有効に利用することはできません。だからこそ,学校で勉強することが重要なのです。

講座を通して,科学のおもしろさ,不思議さを感じて貰えればと思います。