主張

「文官統制」の廃止

歴史に背く戦争体制づくりだ

 安倍晋三内閣は、防衛省の内部部局(内局)の背広組(文官)が自衛隊の制服組(自衛官)をコントロールする「文官統制」の規定を廃止する防衛省設置法改定案を閣議決定し、国会に提出しました。軍部に強大な権限を持たせ、暴走を許した戦前・戦中の反省から生まれたシビリアンコントロール(文民統制)を掘り崩す重大な法案です。集団的自衛権行使容認の「閣議決定」の下で進む「海外で戦争する国」づくりの危険な動きの一環でもあります。

制服組が大臣を直接補佐

 現行の防衛省設置法12条は、防衛相が制服組トップの統合幕僚長や陸海空各幕僚長に指示や承認をしたり、陸海空自衛隊や統合幕僚監部の監督をしたりする際、背広組幹部の官房長と局長が防衛相を補佐するとしています。これは1954年の防衛庁・自衛隊発足時からある規定で、「文官統制」の仕組みの一つとされてきました。

 改定案は、「文官優位」の根拠とされてきた現行法12条の規定を変え、官房長と局長は統合幕僚長や陸海空各幕僚長と同等の立場で防衛相を補佐するとしました。また、自衛隊の運用を担当する内局の運用企画局も廃止し、統合幕僚監部に一元化します。部隊の作戦行動などの問題について「文官統制」の枠を外し、各幕僚長が直接、防衛相を補佐することになります。

 中谷元・防衛相は、「文官統制」について「私は(同規定ができた)その後生まれたわけで、当時どういう趣旨(で作られた)かどうかは分からない」と述べつつ、軍部の独走という過去の反省から生まれたとは「思わない」と断言しています(2月27日)。これほど無責任な発言はありません。

 「文官統制」の規定が戦前・戦中の教訓から生まれたことは、これまでの政府統一見解や国会答弁からも明らかです。

 シビリアンコントロールに関する政府統一見解(65年)は「旧憲法下において、いわゆる(陸海軍の)統帥権が独立し、軍の作戦用兵に関する事項が天皇大権に属する」など「軍に関する事項について、内閣の統制の及び得ない範囲が広かった」ことが「不当に国政に影響を与えた」と指摘しています。その上で、現在の自衛隊は「旧軍の時代の体制と全く異なり、…政治優先ないし文民統制の原則の下にある」とし、これを保障する体制として現行法12条の規定と同じ仕組みを挙げています。

 54年の防衛庁設置法を改進党(当時)代表としてまとめた中曽根康弘氏も防衛庁長官時代、「軍事と政治がばらばらになったのが大東亜戦争の悲劇」などと述べ、シビリアンコントロールでは「いろいろ部隊、各幕に対して指示を与えるときも内局が審査」するなど「内局を通してやるというシステム」が「非常に大事な要素だ」と述べています(70年4月15日、衆院内閣委員会)。

海外派兵に即応するため

 中谷防衛相は、今回の改定でシビリアンコントロールは「より強化される」とうそぶきましたが、制服組の影響力が逆に増大するのは明白です。中谷氏が明言しているように、狙いは自衛隊の作戦行動の「迅速性」(2月24日)を高めるためであり、海外派兵などへの即応体制の強化です。自衛隊を「海外で戦争する軍隊」にする体制づくりは許されません。