在阪テレビ局 報道記者 桜宮 淳一
9月4日金曜日。国会会期中の安倍総理がわざわざ大阪へやってきました。目的はテレビ出演でした。総理はまず日曜日放送の「そこまで言って委員会NP」(東京など一部地域では放送なし)の収録に臨んだあと、生番組で全国ネットの「ミヤネ屋」に出演しました(いずれも読売テレビ制作)。そもそも安保法案の参議院の審議が大詰めを迎えているこの時期に、テレビ、しかも大阪まで行って…という、総理の行動に対する批判は自民党内からも出ていますので、わたしはテレビ局に対しての批判を試みたいと思います。ゲストが暴言
まず、「ミヤネ屋」。予想通り、スタジオに友好的な空気をかもし出して、安保法案について厳しく質(ただ)すようなことはありませんでした。コメンテーターの日本テレビ解説委員が「法案が通らないと困る」と主張していたのには、ビックリさせられました。進行のミヤネ氏が「久しぶりに総理の笑顔を見ました」と言ったように、安倍さんは安心して持論を展開、終始リラックスしておりました。
次に、6日放送の「そこまで言って委員会NP」。安倍総理の扱いに触れる前にまず、この番組ではゲストによる、見逃してはならない重大な問題発言があったことを指摘したいと思います。一つはあるゲストが総理に対し「拉致問題が進展しないなら自衛隊を動かしてはどうか」という暴言。もう一つは別のゲストが辺野古の基地問題に関して「沖縄に米軍基地があるから中国は沖縄に手が出せないのだ」という発言。収録番組なのに発言をスルーする制作者の感覚は信じられません。
で、この番組は安保を考えるというよりも「夫人は布袋さん(音楽家)のファンである」「辻元議員にはイライラさせられている」など、バラエティー番組らしい質問を用意してイエス・ノーで答えてもらうという、いわばトークショーのような趣向。「週刊誌の吐血報道は本当か」という問いには、総理が手のひらに向けてゴホッと咳(せき)をし、司会者に見せて笑いをとった場面が象徴的でした。総理の「おちゃめさ」をアピールする場として。よって、当番組に対して「総理にしゃべらせるだけの一方的な内容」だの、「ジャーナリズムの批判精神がない」といった批判は意味をなさないように思います。そういう次元ではない。制作者はそんな声は“左翼偏向的”として一顧だにしません。
“歴史的”番組
今回の「そこまで言って委員会NP」とは、ひとくちに言えば「安倍総理をもてなそう」という趣旨の番組でした。国会にいると「アベ辞めろ!」とか「憲法守れ!」という国民の声がいやでも耳に入ってきます。そこへ大阪のテレビ局からお誘いが入った。「総理も大変でしょう。どうです、大阪へ来て命の洗濯でも…」なんて。結果、総理は今回の番組出演でかなり元気になったはずです。
憲法がないがしろにされようとしているこの時期に、その最高責任者である政治家を、ここまではっきり応援したテレビ番組は初めてでしょう。その意味で“歴史的”な番組でありました。これはもう、メディアという立場を超えた、露骨な政治的行為といわざるを得ないと思います。権力の暴走を止めるのがメディア本来の役割ですが、メディアが暴走したとき、それを止めるのは国民しかいません。(さくらのみや・じゅんいち)