
「AI時代に必要なのは『ケンタウロス思考』だ!」の続きです!(#1,#2,#3)
このシリーズでは、みんな大好きサイエンス誌に掲載された最新のレビュー論文をもとに、AIを単なる便利ツールとして使うのではなく、人間の思考を拡張する「チームメンバー」として扱うための実践法を考えていきます。AI時代に私たちが鍛えるべきなのは「AIに正解を出させる力」ではなく、「AIと一緒に考える力」なのではないか?というのが、このシリーズの大きなテーマであります。
そのために、このシリーズでは、実際にAIとどう向き合えばいいのかを、単なるプロンプト術ではなく、手を動かしながら考えていくことにしております。ということで今回は、さらに「AIに役割を与える」ってワークをやってみましょう!
AIの「うーん、なんか答えが浅い」問題を考えてみよう
AIを使っていて、こんなことを思った経験はないでしょうか。
- 「便利なんだけど、出てくる答えがなんか浅いなー」
- 「悪くはないけど、そのまま使うには微妙だなー」
- 「結局、自分でかなり直すことになったなー」
- 「AIに聞いたのに、逆に判断が増えた気がするなー」
私もこれは日々経験していることで、デカいプロジェクトにAIを使うと、とたんに「逆に作業の工程が増えた!」みたいになるケースがしばしばであります。
この現象が起きる原因はいろいろありますが、なかでも大きいのが「AIに役割を与えていない!」って問題です。たとえば、AIに対して、こう頼む人って多いじゃないですか。
- この文章を改善して
- この企画についてどう思う?
- いいアイデアを出して
まぁ、これでもそこそこの答えは返ってくるんだけど、この聞き方だと、AIはだいたい「なんとなく親切な一般人」みたいにしか振る舞わないんですよ。なんとなく相談に乗ってくれるけど、専門的に突っ込むわけでもなく、厳しくダメ出しするわけでもなく、最後は「どちらも大事ですね」みたいに丸く収める……ような人のことですね。その結果、文章も直す、アイデアも出す、褒めもする、批判も少しする、でも、どれも中途半端……ってなアウトプットが出てくるわけです。
で、これはAIが悪いというより、こちらがAIに対して「あなたは今、何の役割で考えてください」と指定していないのが問題なんですよ。部下に指示を与える時に「なんかいい感じにやっといて」とだけ伝えて、企画も調査も確認も仕上げも全部まとめて丸投げしているのと同じっすね。
そこでケンタウロス思考では、AIを単なる便利ツールではなく、思考チームのメンバーとして扱います。チームメンバーとして扱うってのは、AIに具体的な役割を与えるってことでして、よく使われるのは、
- 編集者
- 批判者
- 調査員
- 読者代表
- 反対意見担当
- 構成作家
- 事実確認係
- 戦略担当
などがあります。このように役割を与えることで、AIの出力は一気に使いやすくなるよー、ってのが「ケンタウロス思考」の考え方なわけですね。AIに思考上の役割を与えるのが、ケンタウロス思考の第3ステップであります。
ただし、AIは“なりきらせても賢くならない”ので注意が必要である
が、ここで重要な注意点を押さえておきましょう。それは、「AIに役割を与えても、AIが賢くなるわけじゃない」ってところです。
ここで言う「役割を与える」ってのは、AIを使うテクニックとして昔からよく言われてきたもので、
「あなたは優秀な編集者です」
「あなたは偉大な物理学者です」
「あなたは一流のマーケターです」
みたいに、AIに特定の属性を与える方法であります。いわゆる「ロールプロンプト」ってやつで、AI活用術の世界ではかなり定番のテクニックになっております。
が、近年の研究(R)では、この定説に対しては疑問視するケースも増えてまして、こいつの結論をざっくり言うと、「AIに役割を与えても、AIの根本的な正答率や推論能力はほとんど上がらない」という感じになります。何でも、この研究によると、
あなたは偉大な物理学者です。
のような指示をして、具体的なアウトプットの質をチェックしてみたところ、物理の問題への回答のレベルには特に変化がなかったらしいんですな。要するに、AIは「物理学者になりきったから物理に強くなる」わけではないってことでして、これは大事なポイントとして押さえておきましょう。
となると、AIに役割を与えるのは無意味なのか?って気になるかもですが、もちろんそんなことはありません。ここで重要なのは、役割によって変わるものと変わらないものを分けることでして、まず、役割によって変わりにくいものは以下のようになります。
- AIの根本的な知識量
- 推論能力
- 専門問題への正答率
- 事実確認能力
- 未知の情報を正確に知る力
これらは、単に「あなたは専門家です!」と言っただけでは、基本的に大きく上がりません。肩書きを与えられた瞬間に、AIの頭脳がアップグレードされるわけではないですかね。
一方で、「役割」によって変わりやすいものもありまして、
- 回答のトーン
- 説明の細かさ
- 出力形式
- 見る観点
- 優先する情報
- 指摘の厳しさ
- 読者への見せ方
こちらはかなり変わるわけです。たとえば、
あなたは教師です。
と頼んだ時には、AIは説明的に、順を追って話そうとしますし、
あなたはエンジニアです。
と頼めば、技術的な観点や実装手順を重視しやすくなるし、
あなたは批判的な編集者です。
と頼めば、文章の弱点や読者の離脱ポイントに目を向けやすくなるわけです。つまり、「役割」が変えているのはAIの“知能”ではなくて、AIの出力の方向性なわけです。もう少し言えば、AIに役割を与えるってのは、AIを賢くする技術ではなく、AIの注意をどこに向けるかを決める技術である、ってことですね。
この理解が大事なのは、悪いロールプロンプトと良いロールプロンプトの区別がしやすくなるからです。たとえば、悪いロールプロンプトの例としては、
あなたはノーベル賞級の科学者です。
以下の健康法が正しいか判断してください。
みたいなものがあります。こいつの何が悪いかと言えば、このプロンプトだと、AIに「ノーベル賞級」と言っているだけで、具体的な検証手順が示されてないとこです。これだとAIは、なんとなく専門家っぽい口調で答えてはくれるんだけど、正答率そのものが上がる保証はゼロ。むしろ、専門家っぽい言い回しになったおかげで、こちらが「なんか正しそうだな」と感じちゃって、もっともらしい専門家風の語り口にだまされるリスクすら増えかねないんですよね。AIが賢くなったのではなく、賢そうに見えるようになっただけかもしれないってことですな。
一方で、良い使い方の例を挙げておきますと、
あなたは批判的検証係です。
以下の主張について、正しいと決めつけずに、次の観点でチェックしてください。
1. 根拠が明示されているか
2. 因果関係と相関関係が混同されていないか
3. 反対の研究結果がありそうか
4. 一般化しすぎていないか
5. 実践する場合のリスクは何か
結論を急がず、まず検証ポイントだけを挙げてください。
みたいになります。この場合、重要なのは「批判的検証係」という肩書きそのものではなくて、
何を見るか
どの順番で見るか
何を出力するか
何をしないか
が明確になっていることです。つまり、良いロールプロンプトってのは、AIに立派な肩書きを与えることではなく、AIに担当する観点と作業手順を与えることだとお考えください。
そこで、まずは自分のAIの使い方をチェックしよう!
では、正しく「AIに役割を与える」ために、まずはいまの自分がAIをどう使っているかを確認してみましょう。