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「長生きしたいですか?」と聞かれたら、たいていの人は「まあ、できれば」と答えるはず。しかし、ここで大事なのは、ただ生きるのではなく、どんな状態で長生きするのか?でしょう。

 

たとえば、もし自分が100歳まで生きられるとしても、最後の20年が寝たきりで、認知機能も落ち、毎日どこかが痛く、病院通いが人生の中心になるとしたら、それは本当に「長寿の勝利」と言えるのか?という問題であります。実際のところ、今の日本には、長生きはしているけれど、人生の最後に長い不調期間を抱える人が少なくないですからね。

 

一方で、世の中には、98歳になっても自分で車を運転し、友人と外に出かけ、趣味の絵を描き、ひとり暮らしもこなしている人がいたりします。たとえば、健康寿命と精密医療の研究で有名なスクリプス研究所のエリック・トポル先生は、実際の事例として、自身が診た患者さんのモデルケースを紹介しております(R)。

 

  1. L.R.さんという女性の事例:98歳にもかかわらず、これまで大きな病気の経験はゼロ。診察のために病院へ来たときも、自分で車を運転して来たため、付き添いはいなかった。生活ぶりもかなり活発で、ひとり暮らしをしているし、友人たちとカードゲームやラミーキューブを楽しむし、油絵を描くし、1000ピースのジグソーパズルをするしで、めっちゃアクティブ。

    夫を亡くした後こそ一時的に落ち込み、体重も減り、趣味への関心も失ったものの、シニア向け住宅に移って新しい友人や芸術仲間と出会ったことで、また元気を取り戻したとのこと。L.R.さんには加齢に伴う心臓の硬さが確認されたが、治療は比較的シンプルで、その後も症状なく過ごせている。


  2. R.P.さんという男性の事例:62歳で冠動脈バイパス手術を受け、その後も狭心症、ステント治療、心房細動、アブレーション治療、肩関節置換術後の小さな心筋梗塞、COVID肺炎など、さまざまな病気を経験している。ただし、重い心血管疾患がありながら、バイパス手術、ステント、薬物治療、アブレーションなどによって、98歳まで生きている。

 

ご覧のとおり、両者はどちらも98歳まで生きたものの、その生き方はだいぶ異なっております。L.R.さんは98歳でも大病をほぼ避けて元気なのに対して、R.P.さんは多くの病気を現代医療で乗り越えてきたわけっすね。

 

もちろん、R.P.さんは現代医療の成功例としてナイスなわけですが、彼のように「病気になってから救う」だけでなく、L.R.さんのように「病気をそもそも遅らせる・防ぐ」方向へ進むべきではないか?と考えたくなるのは当然の話。寿命よりも「健康寿命」のほうが大事なのは間違いないですからね。

 

念のため、健康寿命について説明しておくと、

 

  • 寿命は、「何歳まで生きたか」を表す数字
  • 健康寿命は、病気や障害に大きく邪魔されず、ちゃんと動けて、考えられて、生活できる期間を指す。

 

ってことです。たとえば、100歳まで生きたけど75歳で寝たきりになった人と、92歳まで生きて88歳まで自立して生きていた人がいれば、後者のほうが健康寿命は長く、それゆえに「人生の質」という意味では高いだろうと考えられるわけっすね。もちろん、どちらが幸せかは本人の価値観によりますが、少なくとも医学や公衆衛生の目標としては、ただ寿命を伸ばすだけでなく、病気に苦しむ期間を圧縮することが重要だろうってことです。

 

 

 

老化を止めるより、まず病気を遅らせることを考える

では、健康寿命を最大限に伸ばすためにはどうすべきか? アンチエイジングの話になると、どうしても派手な方向に行きがちなものでして、たとえば、

 

  • 老化は治せる!
  • 若返り薬が来る!
  • NAD+で細胞が復活する!
  • 老化時計を戻せ!
  • 120歳まで生きよう!

 

みたいなものをよく聞きますな。確かにここらへんの老化研究はめちゃくちゃ面白くて、現実でも細胞老化、エピジェネティック時計、ミトコンドリア、慢性炎症、幹細胞、部分的リプログラミングなどの研究はかなり進んでおります。

 

ただし、ここらへんの成果が民間におりてくる日はまだ先なので、私たちがスーパーエイジャーを目指すためには、より現実的なアプローチが必要になるわけです。そこで大事なのは、先端医学に意識を向けるよりもまずは、

 

  • 心血管疾患
  • がん
  • 糖尿病
  • 認知症
  • 神経変性疾患
  • 慢性腎臓病
  • 自己免疫疾患

 

といった、人生後半の質を低下させるような病気を、いかにもっと早く予測し、もっと早く介入し、発症を遅らせるかを考えたほうが実りは大きいわけです。

 

これはかなり大事な視点でして、「老化を治す」と言われるとなんか怪しいですけど、「心筋梗塞のリスクを20年前から見つける」「がんを早期に検出する」「糖尿病を手前で止める」「認知症の兆候を発症前に見つける」と言われると、かなり現実味が出てきますからね。実際のところ、健康長寿の世界には、昔から「compression of morbidity」って考え方がありまして、日本語にすると「罹病期間の圧縮」みたいな感じですね。これは、ざっくり言えば、

 

長く元気に生きて、最後の病気期間だけを短くする

 

という発想でして、たとえば、こんなイメージです。

 

パターン80代まで最後の期間
よくある老化 60代から不調が増える 20年近く病気と付き合う
目指したい老化 80代までかなり元気 最後の数年だけ不調が出る

 

もちろん、現実はこんなに単純じゃないんだけど、健康寿命の目標としては、かなりわかりやすいんじゃないでしょうか。「若返りを目指そう!」ではなく、「人生後半の病気をもっと遅らせよう!」って目標に変えると、急に話が現実的になりますからね。

 

 

 

スーパーエイジャーになるための5つの武器

それでは、私たちがスーパーエイジャーを目指すためには、どんな指針を守ればいいのか? そのために、エリック・トポル先生は、以下の5つの指針を挙げておられます。