
「スーパーエイジャーの科学」の続きです!(#1,#2,#3)
このシリーズでは、年をとっても脳と体が元気に動きまくる“スーパーエイジャー”の最新研究をもとに、いくつになってもピンピンした状態を保つための知見を考えております。
さて、「老化ってのは、年を取れば自然に進むものだからしょうがない!」みたいに思われがちでしょう。実際のところ、年齢を重ねれば筋肉は落ちるし、血管は固くなるし、物忘れも増えるし、どこかしらガタが来るので、そうなるのは仕方ないところであります。
が、最近の老化研究を見てますと、「年齢だから仕方ない!」という見方にはちょっとした異議も出てまして、それというのも、心臓病、がん、認知症、糖尿病、自己免疫疾患など、人生後半に増える病気を眺めていくと、そこには共通して顔を出す問題がありまして、それが、ご存じ慢性炎症であります。「最高の体調」でもさんざん強調したポイントですね。
もちろん、炎症そのものが悪って話ではなくて、風邪を引いたときに熱が出るとか、ケガをした場所が赤く腫れるとか、ああいった現象は、免疫システムが外敵や損傷に対処している証拠であります。炎症がなかったら、感染症にも傷にも対応できないので、われわれは生き残れなかったでしょう。
ただし問題は、このシステムが必要もないのに、うっすら長く動き続ける場合。火事を消すための消防車が、火事が終わったあとも毎日ちょっとずつ放水していたら、家のほうがダメになっちゃうみたいなもんで、炎症も慢性化すると問題のタネになっちゃうんですな。
年をとって起きる病気についても話は同じで、近年の老化問題では、免疫系の乱れがかなり重視されております。たとえば、心筋梗塞や脳卒中の原因になる動脈硬化は、単に「血管にコレステロールが詰まる」ってだけではなく、血管の壁で起きる慢性的な炎症が大きく関わっております。血管の内側にLDLコレステロールなどが入り込み、これに対して免疫細胞が「異物だ!」と反応し、処理しようとして炎症が発生。この反応が長期化すると、血管壁は傷つき、プラークが育ち、最終的には血栓や心筋梗塞につながるわけです。
がんも似たような話で、本来なら、私たちの免疫システムは、体内で生まれた異常細胞を見つけて処分してくれるはずであります。しかし、監視がうまく働かなかったり、がん細胞が免疫から逃げる技を身につけたりすることで、腫瘍が増殖していくんですね。
さらに、アルツハイマー病やパーキンソン病についても、脳内の炎症、いわゆる神経炎症が重要な役割を果たすと考えられてますし、関節リウマチや多発性硬化症、ループスのような自己免疫疾患では、免疫システムが完全に道を見失い、自分の関節や神経や臓器を敵扱いして攻撃し始めるのが原因だったりします。つまり、炎症ってのは、
- 血管が燃えて心臓病になる
- 脳が燃えて認知症になる
- 自分が自分を燃やして自己免疫疾患になる
- 火事が監視の穴を作り、がんになる
という具合に、免疫と炎症の乱れは、人生後半に増える病気のあちこちで発生しているわけです。こうした免疫の機能不全は、身体の老化を加速させる主要な原因でして、どうにかしておきたいところなんですよね。
「免疫力を上げる」がちょっと危ない理由
ここで気をつけたいのが、「じゃあ免疫力を上げればいいんですね!」という発想であります。免疫システムは、外敵と戦うための仕組みなんだから、強ければ強いほど感染症にもがんにも強くなれるはずだ! だから、ガンガン免疫を活性化すればいい!って考え方ですね。
実に筋が通った考え方のような気がするわけですが、残念ながら、話はそう単純じゃなかったりします。というのも、免疫システムってのは、単純な「人体の攻撃力」を意味するシステムではなく、かなり精密な識別装置でもあるからです。敵を見つけて排除する力は必要なんだけど、それと同じぐらい、「これは自分の細胞だから攻撃しないでおこう」「この炎症はもう役目を終えたから止めよう」と判断する能力も大事なんですよ。
そのため、この調整がうまくいかないと、免疫は外敵だけでなく、自分の関節、皮膚、腸、神経、血管、膵臓などまで攻撃をスタート。その結果として、関節リウマチや多発性硬化症、1型糖尿病などが発生しちゃうわけです。また、感染症への反応が過剰になれば、本来は病原体を退治するための炎症が、肺や血管や臓器を傷つける側に回ってしまうこともありますしね。
さらに厄介なのは、免疫反応ってのは、強いか弱いかだけではなく、「どこで」「何に対して」「どれくらいの期間」働くかが重要なところです。たとえば、がん細胞を狙う免疫反応は頼もしいですが、同じような攻撃が健康な組織に向かえば自己免疫疾患になる。感染症への初期反応は必要でも、それがいつまでも消えずに残れば慢性炎症になる。つまり、免疫はアクセルを踏めることより、必要なタイミングでブレーキをかけられることのほうが、長い目で見れば大事だったりするんですな。
簡単にまとめると、
- 免疫が弱すぎちゃったら、感染症やがんに対応できない。
- かといって、免疫が強すぎちゃったら、自己免疫疾患や過剰な炎症が起きる。
- さらに、免疫がズレた方向に働けば、体の一部を延々と傷つけ続けちゃう。
ってことですね。なので、私たちが目指すべきは「免疫の力を高めること」ではなく、免疫を必要な場所で、必要な強さに、必要な期間だけ働かせることなんですな。なかなか面倒な話ですけども、そもそも人体ってのは面倒にできてますからねぇ。
で、免疫について近年の研究で面白いのが、私たちの生物学的な年齢と、免疫システムの老け具合が致しないって事実がわかってきたところです。たとえば、同じ70歳の人がいたとしても、
- 免疫システムがかなり若々しく保たれている人がいる
- 一方で、炎症性の変化が進んで、実質的にはもっと老けた状態の人もいる
って感じでして、実年齢だけでは、その人の免疫システムがどれほど健全に働いているかはわからないんですよ。このような年齢とともに起きる低レベルの慢性炎症は「炎症老化」と呼ばれてまして、人間の体ってのは、高齢になるほど古くなった細胞が炎症性の物質を出しやすくなり、免疫のバランスがじわじわ崩れるのは普通のこと。しかし、こうした変化にはかなり個人差がありまして、生活習慣、感染歴、肥満、睡眠不足、ストレス、運動量、腸内環境、社会的孤立などによって、炎症老化の進み方は大きく変わりうるんですね。なので、近ごろは「免疫年齢を調べれば死亡リスクが予測できる!」などと言われるほどっすね。
そんなわけで、ここから見えてくるのは、
- 「自分はいま何歳か?」よりも、「体内でどれだけ炎症がくすぶっているか?」のほうが老化の進み方を左右する!
という話であります。炎症、怖いですねぇ。
まぁ、現時点では「炎症マーカーを測れば寿命がわかる!」みたいな段階ではなくて、CRPなどの数値が高いからといって、単純に老化が早いとも言えないので、そこは注意してくださいませ。ただし、慢性炎症を減らす生活が、心血管疾患、糖尿病、認知症、フレイルなどのリスク低下につながるのは「ほぼ確」なんで、ここはどうにかしておきたいところです。
では、免疫を適切に働かせるには何をすればいいのか?ってとこが気になりますけども、ここでまず大事なのは「一発逆転の対策はない!」ってことでして、なにせ慢性炎症ってのは、だいたい「生活の小さな乱れ」が何年も積み重なってできあがるものですからね。なので、炎症に立ち向かうためには、派手な一発逆転の対策を使うよりも、日々の積み上げしかないんですよ。
この手の話をすると、CAR-T細胞療法や遺伝子編集、個別化ワクチンなど、つい「一発逆転ができそうな技術」に目が向かいまして、実際のところ、自己免疫疾患に対する細胞療法や、老化した免疫細胞を若返らせる研究などは進んでるんですが、われわれが現時点で使える最強の抗炎症技術は昔から変わっておらず、私が「最高の体調」に書いたことは今も通じるものとお考えください。不老長寿はまだだいぶ先の話ですが、「人生後半に不要な炎症が起きちゃう問題」を減らすことならできますんで。
Lifestyle+(ライフスタイル・プラス)ってなんじゃろ?
さて、以上をふまえた上で、スーパーエイジャー研究で有名なエリック・トポル先生が推奨するのが「Lifestyle+(ライフスタイル・プラス)」って考え方であります。これは、簡単に言うと、食事、運動、睡眠といった昔ながらの生活習慣を、環境や社会的条件まで含めてアップデートして考えようみたいな考え方でして、要するに「結局は、日々の生活がちゃんとしてないと、未来のすごい医療も威力を出し切れないよねー」って話であります。