僕が中学生ぐらい(オイルショック期)は日本全国で東映映画が独特の隆盛を誇り、僕より2歳上の杉作J太郎氏の「三角マークの男たち」はその集大成的名著だが、銚子の人間は特に東映映画を愛した。ヤクザと漁師でいっぱいだったのは僕の実家だけではなく、東映館だった。そこから流れた勢いでやらかした客も多かったはずだ。僕が洒落た都会的な<東宝>愛国少年になった理由の一つでもある。

 

 銚子の人間、特にヤクザと漁師が東映を愛したのは、もちろん、ヤクザ映画、反社映画、ルーザードッグ映画の量産もあるが、「三角マーク」の後ろに割れる波濤が、我らが犬吠埼だからである。実際にスリーピースで「ここがカメラ位置」という定点に立ち(ちょっと危険だが立てる)、くわえ煙草に両手ポケットインで、片足を前の岩にかけて染み切っている男たちも山ほど見た。


 

 犬吠埼海岸周辺は時代によって大きくキャラが変わった。時代によってはゲトーがあった。時代によっては日本で屈指のサーフスポットだった。時代によってはそこそこの観光地だった。今は単に死んだ観光地だ。


 

 その頃、特に東映映画に限った話ではないけれども、喧嘩の助走を描く時、<相手が無茶を言った>と捉えた人物が必ず言ったセリフに 

 

 「お前、一回病院行って脳みそ診てもらった方がええんちゃうか?」 

 

 というものだ(類型多数。原型みたいなつもりで書こうとしたが、もっと良い言い回しがあるような気がする)。


 

 さっきまで僕は、「脳波検査室」で、検査着を着て、頭部にいくつものシールドを貼り付けられ(なんか粘性の何かで)、脳波の測定をしていた。


 

 パーキンソン病は脳の病気で、頭部検査をいくつか受けるのだが、もうはっきりと「脳波検査室」と書いてあり、拘束衣まではいかないけれども(でも黒いしデザインはカッコいい。こういうのを「バエル」というのであろう。インスタさえやっていれば)、そこそこサグな服を着て横たわると「ああ、オレはとうとう<病院で脳みそ診てもらう>日が来たな。と思う。