弱いなら弱いままで。
映画『草原の椅子』を観て来ました。原作は宮本輝。主演は佐藤浩市。まあ、大人向きの映画ですね。ぼくもこういう映画を見に行くようになったか、と思うとなかなか感慨深いものがある。
帰りにはちょっとお高い寿司屋で寿司など頬張ってきたのですが、こういうことやっているとほんとに大人みたいだという気がする。まあ、いいかげん大人になっていないといけない歳なんですけれどね……。来年35歳。土方歳三が北海道で戦死した歳です。うーん。
映画と関係ない方向に話が進んでしまった。この映画は、ある壮年の男ふたりと女性ひとりが、偶然に知りあった四歳の子供と関係を築いていく物語です。四人は最後には何者かに導かれるように「世界最後の桃源郷」といわれる土地フンザに赴くことになるのですが、この場面はじっさいにフンザでロケをして撮影したのだとか。
見どころといえばそのフンザの荒々しくも峻険な自然ということになるのかもしれませんが、やはり人間ドラマのほうに目が行きます。監督は『八日間の蝉』の成島出で、丹念にひととひとの心の綾を描いていきます。
といっても、リアルなストーリーというよりは、これはファンタジーですね。あまり現実感はなく、地上から5センチばかり浮揚しているようなエピソードの連続に思えます。
そもそも主人公である佐藤浩市演じる遠間と、冨樫がある出来事をきっかけに50歳にして親友になる、という話がどこか現実離れしている。ふつうはサラリーマンと取り引き先の社長がこんな簡単に胸襟を開きあう関係になれないよな、と思ってしまうのです。
あとまあ、四歳の子供を虐待する親たちも、あまりといえばあまりな描写ではある。こちらはまあ、「現実にこんなひどい親はいない!」といい切れない辺りが哀しいところですが、とにかくいっそユーモラスなほどのひどさの描写になっています。
小池栄子の怪演が実に光っていますね。リアリティよりも寓話性を意識しているのでしょう。その演出は効果を挙げていると思います。公式サイトにも「大人のための素敵な寓話が誕生した。」って書いてあるし。
ちなみにこの公式サイト、何を考えているのか話が結末まですべて書いてあるのでびっくりしてしまいました。これから映画を観る可能性があるひとは公式サイトは見に行かないこと。
それはまあ、サスペンスが売りの作品ではないけれど、一応は結末まで気を揉むところをあらかじめ書いてしまうのはルール違反だと思うぞ。いやあ、映画を観に行く前にこのサイトを見なくて良かった。
そのほかは、まあ、いい映画です。ラストのフンザの荒涼たる砂漠を四歳の少年が駈けるシーンが実に素晴らしい。四歳にして人生の哀しみを知っている子供が、その哀しみも嘆きも、すべてを振りきってひとり、駈けていく。そんな場面。
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