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『箱入り息子の恋』はその積み上がった山にさらに載せられた新しい一作。とびきりピュアで、イノセントで、ロマンティックで、好感がもてるラブコメディの傑作だ。
本作の天雫健太郎(星野源)は、市役所に勤めながら地味で目立たない生活を送る男。趣味はおたまじゃくしの頃から育てているカエルの飼育と、テレビゲームだけ。それもたいして楽しんでいるようには見えない。
昇進とも縁がなく、恋人も友人もなく、職場でも孤立している。当然、恋人いない歴=年齢の童貞だ。いやあ、同じように34歳独身のぼくとしては身に詰まされる設定なんだけれど、映画は当然、そこでは終わらない。
この「何もない男」にひとつの出逢いが待っているのである。健太郎は両親がかってに参加した代理お見合いの会をきっかけに、盲目の令嬢、菜穂子(夏帆)と知り合い、急速に惹かれていくのだ。
菜穂子の母親の助力を得て、健太郎と菜穂子のぎこちなくも微笑ましい逢瀬は続く。しかし、それはやがて彼女の傲慢で横暴な父親の知るところとなり――。
こうしてあらすじを書き出せば、どうということはない話である。よくある「禁じられた恋」のバリエーションであるに過ぎない。
しかし、映画の魂は細部に宿る。この作品はディティールの描写が実に素晴らしい。スタッフたち、キャストたちはじつに瑞々しい感性でいくつもの名場面を生み出した。
健太郎が35歳、菜穂子が26歳と、必ずしも若くはないふたりだが、童貞の健太郎にとっても、盲目の菜穂子にとっても、これが文字通りの「初恋」である。
映画はふたりが少しずつ少しずつ、初めての恋に落ちていくようすをリリカルに描き切っている。いや、ほんと、胸がきゅんきゅんしちゃいますよ。
男性でも女性でも文句なしに楽しめる作品なので、デートムービーには最高の一本といえるだろう。ぼくは母と出かけたけれどね。何か文句でも?
それはともかく、コミカルでありながらシリアスで、切ない涙と明るい笑いに満ちた、ちょっと好きにならずにはいられないような一作だ。いま近くの劇場で上映しているひとは、見に行っても損はないはず。
おそらくこの映画を観ただれもが記憶にのこる名場面として挙げるのは、牛丼の吉野家の場面だろう。
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