ぼくにとって今年は映画の年だった。いままであまり劇場に足を運ぶこともない男だったが、今年はネットでおもしろそうな作品を探しては、月に2本ほどのペースで通った。

 もちろん、その何倍もの作品を観ているシネフィルは少なくないだろうが、ぼくとしてはこれだけたくさんの映画続けてを鑑賞することは人生で初めての経験である。

 そして、じっさい、今年は観るべき映画がたくさんあったと思う。スタジオジブリの巨匠たちが続けざまに発表した『風立ちぬ』に『かぐや姫の物語』、韓国映画の『王になった男』、インド映画の『きっと、うまくいく』などが印象にのこっている。

 そのラインナップに、きょう、また一本、新しい作品が加わった。アルフォンソ・キュアロン監督の野心作『ゼロ・グラビティ』。

 無重力を意味するタイトルの通り、すべてのものが重力のくびきを離れた宇宙空間を舞台に、壮絶なサバイバルストーリーが展開する(原題はよりシンプルに『GRAVITY』らしい)。

 いままでいくつもの映画にこの言葉を使ってきたが、いや、これはほんと、紛うかたなき傑作。おそらくこれから長い間、宇宙映画の最高のマスターピースとして記憶され、称えられつづけることだろう。

 興行的にも大成功を収めているようだ。そうだろう、そうだろう。ぼくにしてからがわざわざ公開初日に観に行ったわけだからね。

 監督・脚本・制作・編集のアルフォンソ・キュアロンは、メキシコシティ出身のメキシコ人映画監督。ぼくが初めて見たこの人の映画は、1995年発表の『リトル・プリンセス』だった。

 何となくレンタルして何となく観てみただけのディズニーのファミリー映画なのだが、これが傑作で、実に美しい映画だった。嘘だと思ったらだまされたと思って観てみてほしい。その壮麗な想像力に驚かされるだろう。

 ディケンズの小説の舞台を南米に移し替えた『大いなる遺産』もすばらしかった。少年時代から青年時代へ至る、愛と喪失の物語――ほんとうに才能がある監督だと感嘆させられた。

 その後、キュアロンは『ハリー・ポッター』なども撮っているのだが、これはあまり関心がないので、ぼくはスルーしている。

 2006年の『トゥモロー・ワールド』も、個人的には悪くなかったのだが、何しろ地味な映画で、ビジネスとしてはどうだったのだろう。

 キュアロンはいまその才能を認められたと思しく、大がかりなコンピューターグラフィックスを駆使した映画を撮ることができる立場にあるようだが、かれはその予算を大味な派手さではなく、ひたすらに画面の緻密さにつぎ込むタイプのようだ。

 リアルな宇宙描写を尽くした『ゼロ・グラビティ』ではその資質が完全に活かされている。「だれも見たことがない宇宙映像」といっても、この場合、過言ではない。

 もちろん、人類が宇宙に進出してから長い年月が経っているわけで、それは理屈の上ではぼくたちが知っている光景ではある。しかし、そのじっさいに映画として観てみると、異様な美しさ、苛酷さは、まさに想像を超えている。