閉じる
閉じる
×
あだちさんにはすでに『ショート・プログラム』シリーズという短篇集があるわけなんですけれど、これはそれとはべつに「高校野球」をテーマにした短編ばかりを集めたショーケース。
古いものは何十年前の作品だったりして、ある意味、資料的価値もある一冊となっています。
それにしても、あだち充という人は凄いですねえ。『少年サンデー』の顔として、少年漫画の最前線に立ちつづけること数十年、累計発行部数は2億冊をかるく超えているはずで、日本が生んだモンスター漫画家のひとりといえるでしょう。
一時代を画す天才はほかにもいるけれど、30年にもわたって第一線でヒット作を出しつづけている作家は稀有。というか、漫画の歴史上、この人しかいないはず。
まあ、あえていうなら高橋留美子がいるんだけれど、高橋さんの作品はやっぱり全盛期のものに及ばない印象が強いのに対し、あだち充はいまなお想像力をアップデートさせている感があります。
あだち充といえば、『ナイン』、『タッチ』、『H2』、『クロスゲーム』、そしていま連載中の『MIX』と、主に高校野球を扱って来た作家であるわけなんですが、同じスポーツを扱っていても内容は一様ではない。
特に目をみはるのがキャラクターデザイン。女の子の容姿やファッションが、その時代、時代でどんどん洗練されていっているんですよね。
『タッチ』の朝倉南も、それはまあ可愛いわけなのですが、やっぱりいまの視点で見ると髪型とか野暮ったいわけです。しかし、最新短編「オーバーフェンス」のヒロインは、これがもう見事なまでに現代的で可愛い。
もう初老に入っているはずの作家が、自分自身を乗り越え、イマジネーションをアップデートしつづけるという事実に、ぼくは感動的なものを感じます。
自己更新する天才――永野護がいう「超一流(プリマ・グラッセ)」ですね。
たくさんいる漫画家のなかには、その全盛期、「黄金時代」においてヒット作を物し、あとはその作品を縮小再生産しているだけの作家もいます。
一見するとあだち充も、同じ高校野球ものをひたすら描きつづけている作家と見えないこともないかもしれません。しかし、違う。あだち充はその時、その時でまったく新しい作品を描いている。ぼくにはそのように思えます。
それが、それこそがほんとうの意味での天才作家の証。
たしかにあだち充の最高傑作といえば、多くの人が『タッチ』を挙げるでしょう。かれはその後、『タッチ』を乗り越えるような作品を描きえていないといういい方もできなくはない。
(ここまで1097文字/ここから977文字)
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。