4d2297b4774399b18e9b76b94174baf067859af7

 オーバーラップ文庫の新刊、いえこけい『リーングラードの学び舎より』を読んでいます。

 「小説家になろう」の掲載作品を文庫化したものですが、いやー、面白い。

 ぼくは「なろう」の作品では『勇者様のお師匠様』と並んでいちばん好きかも。

 ランキングでは必ずしも上の方までは行かなかった作品なのですが、内容的には秀逸です。

 まあ、第1巻の時点ではすべての真価は発揮されていないのだけれど、それにしても抜群に骨太。

 物語の骨格に脆弱さ(ヴァルネラビリティ)がまったく感じられない。

 今回、あらためて読んでいるわけですが、やはり素晴らしい作品だという印象は揺らぎません。

 というか、文庫化にあたってシェイプアップされて、いっそう骨格のたしかさが増したかも。

 ちなみにこの作品の編集さんはぼくの十年来の知りあいですが、この記事はこれっぽっちもステマではありません(笑)。奴に借りはねえ。

 物語は、主人公の青年ヨシュアン・グラムが新たに始まる義務教育の教師に専任されてリーングラードと呼ばれる土地へ向かうところから始まります。

 そこでかれを待っていたのは、それぞれに個性的な教師たち、そして生徒たち。

 初めはあまりやる気のなかったヨシュアンですが、さまざまな事件を通じて、しだいに教育に熱中していくことになります。

 そして明かされるヨシュアンの正体。実はかれは――と、まあこれはネタバレということにしておきましょう。

 いくらか察しがいい読者ならすぐにわかることですけれどね。

 いずれにしろヨシュアンは「術式」と呼ばれる魔術的なスキルの達人で、その能力はほぼ超人的な域に達しているとされています。

 派手なチートというわけではなく、実戦で磨きあげた現実的な技術なのですが、この能力を使いつついかにして「次世代」を育て上げるか、がこの物語のメインプロットです。

 そうなのですが――実はこの小説、一見するとその本筋とはまったく関係ないかに見える設定が膨大に存在しています。

 それも本編のなかにさりげなく入れ込まれている。いちばんわかりやすいのは、「白いの」とか「黒いの」といった表現が主人公の語りのなかに頻出してくることでしょう。

 白いの? 黒いの? それがいったい何を指しているのか、本文中では一切説明がないまま進んでいくので、読者は推理しつつ読む必要があります。

 そう、この小説はそういう意味ではまったく読者に親切ではありません。読む力を要求する作品です。

 しかも、クエスチョンに対するアンサーは必ずしもすぐには出て来ません。

 しかし、だからこそ作品世界を読み解いていく面白さがある。

 ちなみに「白いの」は絶対に人気がでると思う。みんな大好き白いの。可愛すぎるぞ白いの。でも、白いのルートはないんだろうなあ、うーむ。

 まあ、とにかくこの背景設定をさりげなく、しかもあたりまえのような手際で物語のなかに散りばめていくあたりのやり方がこの作品の最大の特徴といっていいと思います。

 作者のいえこけいさんはインタビューで影響を受けた作品などを語っているのですが、それを読んでも、その読書歴からどうしてこの作品が生まれたのかよくわからない(笑)。

 これはもう「才能」というしかないのかもしれないけれど、それくらい独創的な作品ですね。

 ただ、文庫版ではいくらか展開が早くなっているぶん、アンサーが早く出て来る印象が強いので、「いったいこれは何のことなんだ?」と悶々とする時間は減っているかもしれません。

 ここらへんは一長一短かな、と思いますね。文庫版のほうがはるかに読みやすいことは間違いないけれど。

 特に弱点といわれていた序盤が修正されていることは大きいです。

 ウェブ版では序盤のバカ王との対話で脱落するひとが大勢いただろうからね。

 普通わからないよな、あのバカ王がほんとうは英邁な名君だなんて設定があるのは。

 そういうわけで膨大な謎と設定に彩られた作品には違いないのですが、しかし、その謎や設定こそがメインなのか?というと、実は「そうではない」。

 この小説の面白さは、