朝日 桜田さんが会長に選ばれたのは、えっと……いつ頃でしたっけ?(笑)。もういろいろあり、時間が経ち過ぎて覚えていないものもありまして、はい。新体制に関する会議は2011年の1月から始まったんですが、そのときからとにかくメチャクチャだったんです。まず、これまでのことを繰り返さぬように「これからは皆の声をキチンと受け止める合議制の形でやっていきましょう。よって、皆さんも忌憚なく意見をして、話をしてください」ということで、最初の会議は「誰でも来ていいですよ」ということに敢えてしたんです。
また、ボクらからの話もありますし、内部告発の件で特にお世話になった八景ジムの渡辺(喜彦)先生に会議冒頭で、資本主義、権利、平等、自由、合議制などの基本原則の定義について説明をしてもらいました。これらは活動の基本事項ですが、正確な意味を理解しないと正しい行動はとりづらいですし、そうしたモノをキチンと理解していなかったからこそ、修斗はおかしなことになったわけですから、そこをまずキチンと把握して整理しようと。しかし、そこでそんな話をしてもらったことで「アイツはいったいなんなんだ?」みたいな話になってしまったところもあったようで。
――余計な警戒心を生んでしまったわけですね。
朝日 その会議は、述べたように誰でも参加できるものにしたんです。それまでとは違い本当の意味での合議制の元やっていくつもりでしたから。ところが、格闘技界の現状理解のレベルが、ボクが想像するレベルに至らない人たちもとても多かったんです。地方の方々の中には若林さんの言葉だけを聞き、それを絶対的に正しいと思ってやってきた人たちもいる。ベラトールの話をしたときもまず「ベラトールって何?」と理解されなかったりもする。言うなれば「赤信号のときに横断歩道を渡っちゃいけない」ということを知らない人に信号の説明をするような具合だったんです。
――それで内部分裂するまで対立してしまったんですか?
朝日 なぜ話が通じないかといえば、「朝日昇は悪党だ」「修斗を乗っ取ろうとしている」と言うような雰囲気になぜかなっていたことも大きな要因だと思います。若林さんや修斗の運営側は正しくて、それに立ち向かうかたちのボクは「テロリスト」というような構図に捉えられていたかもしれません。それにプラスアルファで、自動車業界の話し合いの中で、洞穴に棲みポルシェを知らない人たちにポルシェの話をするように、そんな方々にベラトールの話をしたって理解なんてされない。格闘技界は修斗だけが正しく、修斗がすべて。実際は何が行われているかも知らず、ありもしない三権分立をありがたがりながら。
ALIVE代表の鈴木陽一さんにも2011年初頭はボクの話すことを理解してもらえず、ボクとは対峙する立場にありました。しかし、日沖くんがUFCに出場し、鈴木さんもUFCに実際に触れたことにより、ボクの話すことを理解してくれましたが。
――要するに朝日さんがクーデターを起こしたと捉えられたんですね。
朝日 その当時、周りからもいろいろな話を聞いていましたが、そういうように捉えられている風潮は明らかに存在していましたし、とにかく不思議でした(笑)。また、ここでポイントになってくるのは当時修斗コミッションの人間だった鈴木利治、プロモーターのサステインの坂本(一弘)の存在ですね。若林さんが外されたことで、次は自分たちだと思ったのではないでしょうか。ボクは誰かを消すつもりで行動を起こしたわけではないんですけどね。組織に必ず害を及ぼす問題があったから告発をし、良くなるための次の策を提案しただけなんですが。
――当時の浦田昇さんが修斗のコミッショナーとして創始者の佐山聡さんから任せられていましたよね。
朝日 「株式会社修斗」設立やベラトールとの提携話も浦田会長には直接話をしました。浦田会長に書面を渡す際には鈴木利治を通さないといけなかったんですが、ボクはそのルールを守りました。それが結果的に最悪のケースを招いたんですが……そうした話し合いは 何度か行われましたが、浦田会長、古くから修斗に関わってきた後藤達子さん(故人)、鈴木利治、ボクが必ず席に着き、ケースにより桜田さん、株式会社修斗やベラトールの話を繋いでくれたシュウ・ヒラタさんが参加しました。
「株式会社修斗」の企画書には、「修斗コミッションを廃止し、株式会社修斗の一部門の審判部とする」と言う項目も記載していました。なぜならば、修斗コミッションといっても、修斗協会となんら変わることのない名目だけのモノだったからですね。おそらくですが、まずそこが修斗コミッションの鈴木利治には引っかかったんだと思います。
――追い出されるんじゃないかということですか?
朝日 いわゆるつまらないちっぽけな利権と、合わせて、なんらかの後ろめたいことがあったんだとも思います(笑)。浦田会長にボクは言ったんです。「家出をしたバカな長男坊が大きなおみやげを持って帰って来ました。今たくさんの人が苦しんでいますし、おそらく未来はもっと厳しくなります。皆が求めているのはこれですし、時代は絶対にこうしたかたちを求めるようになります。ぜひお話し合いだけでもしませんか?」と。浦田会長からは「朝日、おまえはこの話に命を懸けられるのか?」と言うような具合に聞かれたんです。あのときは「なんで、この話をポジティブな方向に捉えるのではなく、そんな風に聞くんだろう?」とは思ったんですが、「朝日が修斗を乗っ取ろうとしている」と吹き込まれていたんですね。
浦田会長はご病気で体調もよくありませんでしたし、判断も難しい状況であったと思います。ボクは「今、世界ではMMAという名のもと、以前とはまったく違う大きな流れとなり勃興して来ています。その中で修斗がどう存在すべきか考えなくてはならないんです。もう過去の牧歌的な時代ではないんです。もしボクがジャマならば、ボクを話し合いから外してかまいません。しかし、修斗の問題はこうした話もまな板に乗せないばかりか、それを受け取る窓口さえよくわからないところなんです。この企画も権利を持つ皆さんで話し合ってもらって結構です。ボクはただ話をお持ちしますので、その窓口を教えてください」などとも言ったんです。
――朝日さんは外れてもいいと。
朝日 はい。この話を聞いた後藤さんからは「浦田、これは宝クジじゃないの?」と言われたことは覚えています。ボクからは「みんなを助けてやってください。まず先方と話し合いだけでもしませんか? NOならば、その場でそう答えていただいてかまいませんし、話し合いをしたならば、違った可能性が生まれるかもしれません」と話をしましたが。
2年ほど前、修斗の権利者のひとりである中村頼永さんから「久々に会おうよ!」と言われ、桜田さん、川口、ボクの4人で会ったんです。ボクが修斗のプロデューサー時代、頼さんはいつも近くでボクを見ていましたが、会うのはたしか16〜17年ぶりくらいでした。そのときには、株式会社修斗やベラトールとの提携の話もし、それについてのボクの真意も話しました。それに対し、頼さんからは「昇、それ、鈴木利治が佐山さんに報告した内容とまるで違うよ……。なんで、あのときオレに言って来てくれなかったの……」と。よって「組織の順番を守りました。いきなり頼さんに話すことは順序が違いますし、”浦田会長に書面を渡すには鈴木利治を通せ”と言われたんです。だから、それを守りました」「その企画案に、修斗コミッションを廃止する旨も記載したしていたの?」「はい」「それだよ……鈴木利治、佐山さんにウソを報告してたわ……」など話しました。今も言われるんですが、特に川口とボクが佐山さんと話をすることを修斗の一部の人間は非常に恐れているそうです。ボクらはなんなんでしょうか?(笑)。
――朝日さんの味方はいたんですか?
朝日 一連の修斗の会議で 、真っ向から戦い続けたのは4人です。桜田さん、渡辺先生、PUREBREDの池田久雄、ボクですね。密室の中で、4人対大多数の、もう訳のわからない戦いですよ。そうした流れの中、あまりにも理解がされないため、個人的なメールの中でボクが「田舎もん」と言ったことも問題になりました。正直、あの騒動の中では数回ぶっ倒れもしたんです(笑)。
ALIVEの鈴木さんともいろいろと言い合いのようなかたちになったこともありますが、常に論理的に丁寧に話をしているつもりなんですが、やっぱり人間ですし、完璧ではないので、頭に来るときは頭に来てしまいます。感情論にならないよう注意していますが、あまりにも話が通じなくてどうにもならず、決して他意はない個人的なメールで「何も知らない田舎もんはどうしたらいいんですかね。言葉が通じません」と言うような感じで言ったんです。それが地方の人たちにも渡り「朝日は俺たちのことをバカにしてる!」というように曲解され。本質を捉えることなく、つまらない揚げ足取りに奔走し、本題を忘れ、自分たちを鑑みない。時によく見られる光景ですが、残念でした。
――朝日さんたちの意見は断固として認めないという感じですか?
朝日 とにかく、まったく話が通じなかった、と言って過言ではないと思うんです。会議にはパラエストラ小岩の大内敬がなぜか議長というような立場になってもいたんですが(笑)、それ自体もう意味がわからない。「君は何?」と。修斗協会の通帳は若林さんが持っているということで、これはパラエストラの関係者が持ってくるという話だったんですが、いつになっても持ってこないんです。そこで男・桜田劇場が始まり、ある会議の冒頭で「パラエストラの人間に聞きたい。お前らの上の立場に就いている人間が昇に酷いことをしたのになぜ誰も昇に謝らないんだ? なのに、またなんだか議長を勝手にやる人間はいるわ、通帳を持って来ると言いながら持って来ない人間はいるわ、いったいどうなってるんだ?」と話をしたんです。
――その段階になっても金銭問題の実態は把握できてなかったんですね。
朝日 ボクは若林さんに中指を立てられたんですが、まあ、もうどうでもよかったです(笑)。しかし、誰からもどこからも謝罪のひとつすらなかったんですよね。パラエストラ関係者は謝罪の一つもせず、 にも関わらず、そのパラエストラの人間がなんだかいつの間にか議長として会議を進行し始め、通帳を持って来ると自ら口にしながら持ってこない。反省の色がまったく見えないと言われても仕方ないでしょう。桜田さんが怒っても彼らは下を向いて黙ったままでしたが。会議が終わった後に中井(祐樹)は謝りに来ましたけどね。中井からは「修斗を世界に殉ずるものにするためにはどうすべきでしょうか?」と言うように聞かれたので、「ちと話そうよ。」と2人でドーナツを食べに行きましたが、おいしかったです(笑)。
――3人以外の理解者はいなかったんですか?
朝日 わかってくれている関係者や選手は他にもいましたが、真っ向から最後までブレることなく、ドンキホーテのように巨大なおかしな風車に戦い続けたのはこの4人ですね。なぜかあの頃は川口がこの話し合いにいなかったのですが、川口がいたならば、もっと良い方向に持っていけたかもしれません。徳郁(山本KID)にこの話をした時は、普段はまったく返信して来ない徳郁が「これなんすよ、修斗に必要だった話は。飯喰いながらでも、ゆっくり話聞かせてください!」と珍しくすぐに返事が来ました(笑)。
またまた揚げ足を取られたらイヤなので慎重に言葉を選びますが、徳郁のようなちゃんとした立場の選手はボクの話は100%に近い数字で理解してくれましたね。この話がどれだけ凄いことなのか、必要なことなのかをわかってくれました。修斗がUFCやベラトールに続く組織になれるかもしれなかったんです。そこまでいかなくとも、いまのようなことにはなってないと断言できます。
これはいまだに忘れられないんですが、会議の席である人間が手を上げて「朝日さん、ベラトールってなんですか?」って聞いてきたんです。だから「ここはトップの会議です。最低限の知識を持っていない人は出席しないでください。あなた方がそんなレベルならば、下の人間が不幸になりますし、世界をもっと見てください。世界で修斗がどう生きるべきかを考えてください」とさすがに言いました。すると、向こうの方から「朝日さんの言ってることは難しすぎて何を言ってるかわからないんです。ボクらにもわかりやすく言ってください」と。だから「あのね、ここはトップの会議で君らを教育する場ではないの。誰でも参加なんかできないの。それだけの知識や意識を持たない人間が参加なんかしちゃダメなの。でないと、下の人たちが不幸になるでしょ。君らがまだ何もできないなら、参加できる資格を有するまでまず勉強して来てください」など答えましたが、そんな姿勢や意識レベルで出席ができ、事実として、こんな低レベルの質問が発せられていたんです。
――修斗が修斗ではなくなってしまうと恐れたんですかね。
朝日 会議の場以外メールなどでも事細かに説明もしていました。総合格闘技がMMAと呼ばれるようになった世界の中で、修斗はどう生き残っていくべきか?と。若林さんが曲解して伝えていたかもしれないですが、佐山さんは修斗を総合格闘技だと定義してやっていました。それが今はMMAという単語に英訳、変換されただけなんですから。その中でどうやって対応していくかが問われていくわけですよね。サッカーでもJリーグはJリーグだけでやってるわけないじゃないですか。サッカーという競技の中の一つのJリーグ。野球だって同じですよね。
――世界の枠組にどう合わせていくかですね。
朝日 サッカーや野球を見てわかるように、これからの選手はどんどん世界に出て行きます。そして、そうした世界の場で勝つことが競技人口を増やすことにも繋がるわけです。しかし、まずこれが理解されない。議長席に座る大内が「朝日さん、ボクも世界を見ています。柔術で世界を見ました」とある会議で言ってきたんです。よって「それは柔術の話ですよね? 参考にはいいですが、MMAの世界をまず見てください」。なんでしょうか?この会話(笑)。話にならないし、もう一つ大きな問題が盗聴行為です。会議の模様を勝手に録音して全国に流してる人間がいたんです。
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コメント
コメントを書く凄く深いインタビューで、読み応えがありました。
朝日選手のクインテット参戦を観てみたいです。
ようやく最後まで読んだけど、これは若林さん側もしくは近しい人の話も載せて欲しい。でも難しいだろうな。。
あの当時若林さんのやっていたことは、アマチュア修斗の運営、レフリー、プロモーター、ジム運営、とにかく仕事量が半端なかった。当時後楽園レベルの格闘技は認知度が低く、ちょっと考えれば絶対儲かるような仕事ではなかったのは皆わかっていた。
おそらく横領するより自腹を切ることが多かっただろう。
組織としての健全性よりも若林さんがいなければ回らない。ということを皆わかっていたはずだ。
なのに朝日さんは、「世の中の組織とは。」「法人とは。」と字面だけの一般論を持ち出して糾弾しただけ。
みなそりゃ組織として健全になって欲しいけど、現実問題、そういった余裕がないことは格闘技ジムや興行関係者はみなわかっていたのだ。
なのに朝日さんはそうした、世の中の建前と裏側がわからない純粋まっすぐ君で、とにかく世の中的に間違っていると言うだけ。
事実そうなのだが、じゃあ糾弾したのなら、その後の運営をリスク負ってやってくれたのかっていうと結局誰々〜に〜言われたのだの、言い訳ばかり。何もせずにルミナに任せて口だけ。
若林さんはどんなに悪く言われてもそれを跳ね返して運営を続けてましたからね。
アマチュアは続けることに意味があって、そのおかげで堀口もいるわけだから。
確かに若林さんは忙しく会計など脇が甘かったのはしょうがない。スポンサー獲得の欲のなさ、頑固で苦手だった人が多かったのも事実。けどあれだけ修斗、いや日本の総合格闘技に貢献してくれた人間を2018にもなって支離滅裂な人に貶めれてしまうのは残念だ。
いまの若い格闘技ファン、RIZINを楽しんでいるファンは五味、川尻、堀口、石渡、活躍している選手が修斗がなければ、若林さんの貢献がなければ生まれなかったであろうことを覚えていて欲しい。
それにしても偏ったインタビューだ。酷い!
ドクトルが議長だったなんて知らなかった!このときだっけ?坊主にしたのは。あんまよく覚えてないけど、なんかの揉め事に巻き込まれてドクトルが坊主になってたのはびっくりした思い出。
>おそらく横領するより自腹を切ることが多かっただろう。
これはどうでしょう?
それこそ、赤字で自腹を切っている状況なら、朝日さんの追及にその旨を堂々と答えればよかったのでは?
>若林さんは忙しく会計など脇が甘かったのはしょうがない。
これは言い訳にならないのでは?
それに、収支を出せと言われて、あまりの業務多忙で帳簿作成が出来てないなら、そう弁明するしかないじゃないですか。
それをどんな追及をされたにしろ、中指立てますか、公共の場で?
K1でもリングスでも修斗でも悪いことしていれなくなった人を擁護する人間がいるんだな
手癖悪くて腹黒くて最悪だよ
選手目線で格闘技で生計を立てるため改革路線の朝日と、修斗原理主義というか組織の現状維持を望む守旧派との争いだったんですかね。
結果として若林がいなくなってアマ修の大会が激減したので、当時はよくわからにけど若林がいた方が良かったと思う下の人間は多かったと思います(内部分裂でそれどころではなくなったという事でしょうが)。
UFCはもちろん、今ではRIZIN、ONE、PFLとベラトールより下の団体への踏み台となってしまっている修斗の現状を見ると、朝日のベラトールと提携するという発想は素晴らしかったと思いますけどね。
アマもやりプロレスラーのいなくなったパンクラスの方がレベルも高くなってきた気がしますし残念です。
修斗については歴史書や証言集がなかなか無くて、当時を地方の片田舎で過ごしてて情報も少なかった自分にとって、連続インタビュー良い勉強になります。反論インタビューも是非期待してます。
なんでスカパーやJスポーツが手を引いていったのか、、、想像するだけで純粋さと関係各位の愛憎善悪のカオスがたまらなく面白いです。
田舎の某修斗系道場の代表がびっくりするくらいMMA業界のこと知らんのを見ると、この話はおおむね真実なんだろうな
今回も面白かった
けどもう朝日さんはお腹いっぱいなので、田中健一先生の
インタビューをひさびさに読んでみたいです
中指事件の前に「何だかおかしな団体になっちゃったな」と思い所属選手ともどもフェードアウトした私には身につまされるインタビューでした
微力ながら残って朝日さん達の味方であるべきだった