恒例となっている笹原圭一広報のRIZIN振り返りインタビューです!(聞き手/ジャン斉藤)





笹原
 今回のRIZINはいろんなことが起こりすぎて……準備中に皆さんから「大変ですよね」と聞かれるたびに「いや、無理です。もうやめます」って冗談っぽく返事していたんですけど、じつは半分くらい本音でしたよ!

――ハハハハハハ。秋のRIZINといえば、台風が直撃して興行どころじゃなくなるのが恒例ですけど。

笹原
 今年は台風はぶつかりませんでしたけど、今回はRIZINそのものが台風みたいで、その暴風の中で翻弄されていた感じですね……(遠い目)。

――
RIZINそのものが台風(笑)。コロナ禍の中で8月の2連戦からRIZINは再開しましたけど、1ヵ月半のスパンでは準備が間に合わないところもあったんですか。

笹原
 というわけではないんですが、想定外のことが次々に起こっちゃいましたね。その中でカード発表が遅いとお叱りを受けていますが……本当に仰るとおりで返す言葉もないんですけど、一応言い訳をさせてください(笑)。すでに内定していて「このタイミングで発表する」ということを選手に事前に伝えてあったり、いきなりゼロから決まるというより「こんな方向で調整していますから」みたいことを伝えていたりして、選手には準備をしてもらっているんです。とはいっても選手からすれば正式発表されないと心が落ち着かないですし、とくに瀧澤(謙太)選手は相手が決まらず相当ヤキモキしていたとは思うんですけど。

――
瀧澤選手は参戦決定していたけど、相手は大会6日前まで決まらなかったですね。

笹原
 なんとか金太郎選手に決まって……本当に申し訳なかったです。この場を借りて……まぁこの場が、Dropkickでいいのかとは思いますけど(笑)。

――
ひどい!でも、反論できない!

笹原
 とにかく、次回は、こんなことがないようにします!、今回は瀧澤選手のカードの件だけではなく……なんか同時多発的に色んなことが起きて、ひとつの問題が解決してホッとしたときに「いや、絶対にこの後もまた何かあるはず。油断しちゃダメだ」みたいなことを社長(榊原信行)とも話していたんですよ。

――
TBSの超高視聴率ドラマ『半沢直樹』の撮影が遅れたことで最終回が1週ずれ込んで、RIZINの地上波中継とバッティングした件も……大和田専務ばりに土下座してでも回避したい時限爆弾ですよね(笑)。

笹原
 まあ『半沢直樹』はズレ込むんじゃないか……っていう噂は聞いていたんですよ。でも人間って、自分の都合の悪いことを無視するじゃないですか(笑)。「まぁぶつかんないでしょ〜」ってたかをくくっていたら「……もう終わった」と思いましたよ……。

――
格闘家、格闘技関係者、ファン全員が「……もう終わった」と思いましたね(笑)。でも、聞くところによれば視聴率は悪くなかったそうですね(このインタビューは大会翌日に収録)。

笹原
 全然悪くなかったです。『半沢直樹』なんて恐れるに足らず、こっちには井上直樹がいますよおお!

――
井上選手は今回のRIZINに出てないですよ! 

笹原
 ウチの直樹は、相手が常務だろうが、頭取だろうが、必ず一本取って勝ちますから。もうこうなったら1000倍返しだぁぁ! 

――
『半沢直樹』と井上直樹がヤバイことはよくわかりましたから、早く視聴率の結果を教えてください。

笹原
 平均で6・2パーセント、瞬間最高が天心vs皇治の8・9パーセントです。

――
『半沢直樹』最終回の裏のわりにはいいじゃないですか!

ここ最近のRIZIN地上波の平均視聴率

RIZIN15  5.8%  那須川天心、堀口恭司vsベンウィン
RIZIN16  6.9% 那須川天心、浅倉カンナvs山本美憂
RIZIN19  5.9%  朝倉海vs佐々木憂流迦、ハム・ソヒvs山本美憂
RIZIN20(大晦日3部構成)3.2% 5.2% 3.7%
RIZIN24  6.9%  天心vs皇治 朝倉海vs昇侍


――数字は通常とは変わらないですが、『半沢直樹』を向こうに回してこの数字は大きいですね。

笹原 先週同じ時間帯の池上彰スペシャルは4パーセントだったのでかなりいいほうですね。やっぱり生中継だった天心vs皇治が3ラウンド判定になったのが大きいですね。

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――内容のいい試合が長引けば、結果が気になるのでチャンネルを回さない……ってことですね。

笹原
 地上波生中継の試合はリングサイドで見ているんですけど、1ラウンドで決着がつかなかったとき、誰にも見えないようにガッツポーズしてました(笑)。

――
ハハハハハハハ。天心選手のいつKOしてもおかしくない鋭い波状攻撃と、それを耐えしのいだ皇治選手の頑張りがこの数字を生んだ。

笹原
 まず天心選手がバケモノですよね。まったく隙がなかった。今回は58・5キロ契約でしたが、当日は皇治選手とはけっこうな体重差があったと思うんですよ。皇治選手はリカバリーしておそらく65〜66キロぐらい。今回那須川選手は水抜きしなかったらしいのでほぼナチュラルなんです。 

――
そうすると当日は5キロ以上、体重差があったってことですよね。

笹原
 キックボクシングのほうが体重差の影響は大きいって言いますし、天心選手がダウンを奪えなかったのはその影響もあったと思います。でも逆に皇治選手のパンチをほとんどもらわなかったわけですからね。天心選手がパンチを打って皇治選手が返そうとしたら、その場に天心選手はいない(笑)。

――
JOJOのスタンドでいえば、時間を止めるディオの「ザ・ワールド」ですよ! 天心選手が強すぎるのは大前提として、この試合における皇治選手の評価が割れていますが、イベントの貢献はかなり大きいですね 。

笹原
 いやあ、本当に大きいです。斉藤さんがツイートしていたように皇治選手は博打に勝ちました。試合としては3-0の判定で天心選手の圧勝なんですけどね。

――
「試合に負けて勝負に勝った」わけでもなく、皇治という存在や商品価値が失われなかったから博打に勝ったということですよね。これが1ラウンドでKOされていたら……。次の試合が見たくなるかどうかで考えれば博打に勝った。

笹原
 試合後の「天心より武尊のほうが強かった」というコメントも話題になっていますが、皇治選手がどこまで計算して言っているのかはわからないですけど、逆に那須川天心の凄さを伝えていたと思ったんですよ。 

――
ほほう。

笹原
 皇治選手はK-1の武尊戦でダウンは取られて判定負けでしたけど、地元・大阪のメインを締めたということもあり、皇治選手の中で完全燃焼できたと思うんですよ。武尊選手の強さも体感できて、皇治選手の表情を見るとやりきった感があったというか。でも今回の天心戦は本当に何もできなかった。武尊戦ほどの充実感がなかったから「天心より武尊のほうが強かった」というふうに言ったんじゃないかなと。そこは「エンターテナー皇治」じゃなくて、「アスリート皇治」としての悔しさが、思わず出たんじゃないかって思ったんですよ。

――
ああ、なるほど。

笹原
 多くの人は皇治選手は単なるパフォーマーだと思っているかもしれませんけど、皇治選手本人はアスリートとして何かを証明したいからこそリングに出てくるわけですからね。勝つ気がないと思っている方は、皇治選手のことを見誤ってますよ。今回もむちゃくちゃ勝つことにこだわっていましたし。

――
そうじゃないとリングで戦えないですよね。大恥をかく可能性だってあるわけですから。 

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笹原
 皇治選手が凄いなって思ったのは、試合数日前にフジテレビ系列の関西テレビの地上波中継が当日ないことが発覚したときなんですよ。

――
関西テレビは阪神タイガースvsヤクルトスワローズのプロ野球中継を選んだんですよね。甲子園ならまだしもビジターである神宮球場の試合をわざわざ流すなんて、阪神は関西ではホントに強いんだなって。

笹原
 この件はボクらも本当に寝耳の水の話でビックリしたんです。関西テレビが阪神戦を選んでも、我々は何も言えないんですけど、皇治選手の地元は大阪ですし、全国ネットで中継されるということで地元のスポンサーもついていましたから。  

――だから皇治選手は試合中止の可能性をSNSで匂わせたんですね……。

笹原
 それくらい皇治選手にとっては大きな問題だった、ってことですよね。最終的に皇治選手もこちらの状況は理解してくれたんですけども、皇治選手はスポンサーに対して申し訳ないから事情を説明する記者会見をやってくれと。 

――
それで榊原さんと皇治選手出席のもと緊急記者会見が行なわれたんですね。

笹原 その前日に社長と一緒に皇治選手の家で話し合いをしたんですよね。

――
榊原さんが選手の家まで行くって、田村潔司を口説くとき以来ぐらいですかね(笑)。

笹原
 今回2回くらい行ってますよ(笑)。その場でいろんな話をして明日記者会見をやろうということになって、会社に戻ったら会見のリリースを流す……という話をしたら皇治選手は「いや、ちょっと待ってください。当日の直前でいいんじゃないですか。 その方が何かあるんじゃないかってみんな注目しますよ」と。それで当日にリリースを流したんですね。

――
それはいい話ですねぇ。ファンも勝手に深読みしますもんね。なんという策士ぶり!(笑)。

笹原
 実際に皆ザワザワしちゃって関係者からも「天心vs皇治がなくなるんですか!?」という問い合わせがありましたからね(笑)。

――
「敵を欺くにはまず味方から欺け」ってやつですね。何が敵なのかはともかく(笑)。 

笹原
 平日の昼間なのに記者会見のライブ視聴者が1万人を軽く突破してましたからね。「ヒマでモテない格闘技ファン」がまんまと大集合ですよ(笑)。

――
そのフレーズ、元ネタがわからないと誤解されますよ! ハッスル、ハッスル!!

笹原
 ただ、皇治選手はすべてを計算してやっているというわけでもないと思うんですよね。

――
そこは天性のものですよね。こうすればみんな驚くんじゃないかっていうことが肌でわかっているというか。

笹原
  以前、斉藤さんが言っていた「皇治=大仁田厚」説ですよね。大仁田さんも計算というよりはセンスじゃないですか。

――
大仁田さんが新日本に乗り込んできてストロングスタイルなファンからブーイングを浴びている姿と被るんですよね、皇治選手は。それでいて電流爆破を受けて……じゃなくて天心戦もちゃんとやり遂げたんだから凄いですよ。

笹原
  皇治選手本人は「タフマンコンテストじゃないから」と言っていましたけど、いやいや、それでも凄いですよ。天心選手の攻撃をかなりもらっていましたからね。試合後、皇治選手はドクタールームでぶっ倒れていて、目の傷を応急処置してもらっていたんですよ。「どうでしたか?」って聞かれたので「会場はむちゃくちゃ盛り上がってたよ」と言ったら「あたりまえやないですか」と。意識朦朧としながら減らず口は叩いてたんですけど(笑)、 本当にたいした男だなぁと感心しました。

――
皇治選手の次の試合も楽しみですね。

笹原
 マッチメイクのしがいがありますよね。こだわりも強いし、言いたいことは言ってくるんですけど、一緒にものを作り上げる感じが共有できる選手ですよね。

――
「交渉」を単なる横暴な「要求」だと勘違いしてるんじゃなくて、ビジネスがわかってるってことですよね。大晦日は朝倉海vs堀口恭司の再戦で内定ですか?

笹原  まぁ、そうなりますね。この試合は本当に超楽しみですけど……海選手の勝利を知った堀口選手は「年末が楽しみだ!!」ってツイートしましたけど、ファンはみんな心配していますよね。「いまの朝倉海に勝てるのかな」という。

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――しかも大手術明けですし……。「堀口選手は釣り好きだから、海に強いよ」という小咄をしたどころで、みんなの心は落ち着かない。

笹原 落ち着かないどころか、堀口ファンから怒られますよ!堀口選手がさいたまスーパーアリーナに入場してきただけで、お客さんはみんな泣くと思うんですよ。「大丈夫かな、もう見てられない」……というぐらいの思いで試合を見るんだろうなあ……。サクさん(桜庭和志)に近い雰囲気ですけど、こんなにファンに愛されたファイター、いままでいないですよ。

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