RIZINの煽りVや「RIZIN CONFESSIONS」などRIZINの演出を統括する佐藤大輔インタビュー。PRIDE時代「煽りVアーティスト」と崇められた男が17000字でRIZINの現在を語る(聞き手/ジャン斉藤)
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――12月10日の朝倉未来vs弥益ドミネーター聡志カード記者会見後にホテルの廊下で、ちょっと長めの立ち話をしたじゃないですか。
――皇治vs亀田和毅が内定してて「今年の視聴率はまあ大丈夫だろう」と。結局そのカードは消滅したんですけど(笑)。あのとき「RIZINが流行ってるよね」という話になって。
佐藤 はいはい、「RIZINに流行ってる感あるぞ」と。まあ、流行ってるなんていうと「調子に乗ってる」と思われそうですけど(笑)。もちろんPRIDEやK-1のときの大ブームとは質や規模が違うことはわかってるんだけど。最近はRIZINというだけで跳ねている感じはあったし、大晦日を受けて強く感じてますよね。
――RIZINがブランド化してるってことですね。
佐藤 今回の大晦日でRIZINは5年目でしょ。時間はかかりますよね。PRIDEやDREAM的なハードルを破壊して「違う世界」にするには。フジテレビの関係者も言ってましたけど、時間はかかる。堀口恭司、朝倉兄弟、那須川天心、K-1軽量級選手、Youtuber、女子格闘技ですよ。5年前の毎分トップ(瞬間最高視聴率)は曙vsボブ・サップ2ですからね。風景が様変わりした。
――曙vsボブ・サップの景色をようやく塗り替えた(笑)。PRIDEやK-1も人気が出るまで時間はかかりましたね。PRIDEのゴールデン中継が始まったのは2003年からで、1998年の旗揚げから20大会以上かかってましたし。
佐藤 ここからRIZINがさらに爆発させるとなったら、ひと工夫もふた工夫もお金も必要なんだろうけど。常連さんから新規の若いファンまで楽しめる、いまの雰囲気はなんか悪くないなって。
――大晦日の視聴率も悪くなかった、というかよかったですよね。
――堀口選手と海選手の2人ってそこまで世間に露出してなかったのに、10%超えの瞬間最高まで行きかねないカードに磨かれたわけですね。
佐藤 だから流行りかけてるのかもしれない。
――榊原さんも事前に口にしていたようにRIZINの集大成といえるカードということですね。大輔さんは煽りVやRIZIN CONFESSIONSの制作だけではなく、地上波中継の統括もされてるんですよね。
佐藤 そうですね。自分がコントロールしてないものは何もないです。今回の大晦日中継にあたり、5時間45分の中継構成案を当然ながら何週間もかけて事前に作ってるんですよ。
――秒刻みのスケジュール表!
佐藤 もちろん試合が早く終わったりするから予定通りには進まないんだけど。今回はまず全体5時間45分の中を4部に分けて、生放送4試合+所英男vs太田忍が第3部にあたるんですよ。その第3部が放送される20時から22時30分までの2時間半でしっかり数字を獲ろうと。そのほかの時間帯に関しては捨てるわけじゃないんだけど、プライオリティは3部にあったんです。で、いつの頃からか、フジテレビ側の要請でRIZIN地上波は生放送をベースにしようと。昔と違って情報や映像の周り方が超早いでしょ。
――フィニッシュシーンの動画なんかがツイッターですぐに流れちゃいますよね。
佐藤 あっという間に出回る。RIZINはPPVもやっているし、録って出し(当日編集の録画放送)だと番組としての価値が昔に比べても数段、落ちるんですよね。なので生放送をベースにしようと。なるべく何試合も生放送する。ただ生放送を多くすることのリスクも当然あって。1試合生放送をやると決めたら30分は時間を取らなきゃいけない。でも、試合は10秒で終わる可能性もあるんですよ。じゃあ残り29分50秒をどう回すのかと。どこにCMを入れるのかと。CMの尺と順番は変えられないんです。
――ボクシングの生中継なんかも1ラウンドでKO決着しちゃって、放送時間が余っちゃうことはよくありますね。
佐藤 生放送って番組として本当にリスクがあるし、CMの入れ方も難しいし、全体平均視聴率を上げるにはギャンブルそのもの。入場も潰さざるをえないこともある。ファンにとっては「入場がカットされた」って不満だろうけど、そこは放送の事情からして難しいんですよね。
――入場から煽りVまですべて見たいなら、会場観戦かPPVを見るしかないですね。
佐藤 あたりまえですが地上波はCMのおかげで成り立ってるから。
――録って出しも編集しながら、生中継の対応もしていくって超大変ですね。プロ野球だったらイニング終了にCMを入れれば済みますけど。
佐藤 今回でいえば浜崎朱加vs山本美憂は1ラウンドで終わったけど、すぐに次の試合に進行できなかったのは、CMがあったから。そこは会場やPPVからすると申し訳ないけど、休憩時間になっちゃいますよね。あと、生中継前に長い休憩時間ができるなら、大会開始をもっと遅くすればいいって考えるかもしれないけど、そうはいかなくて。もしも前半戦の全試合がフルラウンドの判定になったら、いまの生放送開始時間でギリギリだから。ホントに生放送って大変。
佐藤 これがね、俺はいまだにわからないと思ってるんですよ。しっかりと無駄な部分を省いて、録って出しのほうが数字が獲れるじゃない?っていう考えもある。でも、ピークというか、毎分トップ(瞬間最高視聴率)はやっぱり生じゃないと獲れないんだろうなと。 2020年のいまや生じゃないスポーツ中継ってなんだろう?と思うし、やっぱり生のほうが巻き込み方が違ってくるから、これからも生中継のスタイルは避けられないのかなと。会場のお客さんには待ち時間でストレスを溜めてしまって「本当にごめんなさい」ですよね。視聴率を獲ることだけに頭を絞れば、注目選手の試合が3ラウンドの激闘をやったら万々歳、1ラウンド衝撃KOで終わったら全スタッフ大慌て……っていうギャンブルをやり続けるしかない。
――PPVもRIZINにとって大きな柱じゃないですか。生中継をやることの影響はないんですか?
佐藤 大晦日のPPV件数は上がったみたいですね。RIZIN史上、PPVが一番売れているはずですよ。地上波で生中継をやろうが関係ないよね、意外と。
――オープニングから各試合の煽りV、入場まで、すべてをちゃんと楽しみたい人はPPVを買うってことですね。
佐藤 やっぱりイベント全体のパブというか宣伝量やカードのバリューに応じて、地上波の生放送あり・なしに関わらず、PPVの売れ行きは上下するってことですね。
――大晦日のあのカードと内容で5000円は安いですよ。RIZINオールスター戦ですし。
――UFCなんかもそのスタイルですよね。見たいカードが1つ2つあるか、ないか。
佐藤 萩原京平vs平本蓮みたいなタトゥーラインはPPVとしては大歓迎で。
――タトゥーライン(笑)。
佐藤 地上波では流さないけど、PPVオンリーのケンカ。ああいうのはみんな大好きでしょ。
――同じ大晦日に試合をしたボクシングの井岡一翔選手の件でも話題になってますが、地上波ってホントにタトゥーに対しては厳しいんですね。
佐藤 明確な基準はないんですよ。俺個人の感覚からすると、萩原vs平本の絵はゴールデンタイムはちょっとキツイかも。
――入れ墨を見慣れている格闘技ファンはある意味、麻痺しちゃってるのかもしれない。
佐藤 やっぱり1万人2万人のコアな世界で同じものを見てると、それがすべてだと思っちゃうんですよ。でも、そうじゃないから。
――地上波って格闘技を知らない人を相手にしなきゃいけないわけですもんね。
佐藤 俺自身、日本人のタトゥーに関して偏見はないんだけど、そこはタトゥーの面積もあるのかなあと。やっぱり背中に和彫ガッツリを流すことにはちょっと勇気がいるよね。ただ、ドレスコードはTPOに応じてだから、23時以降に萩原vs平本を入れようとするために最後まで頑張ったんですよ。
――へえー、萩原vs平本をなんとか流そうと。
佐藤 「この試合は絶対に盛り上がるから23時以降に流そう」と。だけど、フジテレビ側の責任者は「よくわかるけど今回は様子を見よう」と。井岡選手くらいのタトゥーだったら全然いいんじゃない? って思っちゃうけど、それでもあれだけ騒ぎもなったわけだから。
――23時以降ならOKというのはどういう考えなんですか?
――佐藤大輔コード。
佐藤 だって『11PM』で、おっぱい出してるじゃん(笑)。
――『11PM』が終わったのは30年前の1990年のことですよ(笑)。井岡選手の騒動で地上波のタトゥー解禁は遠のいた感じが……。
佐藤 そこなんですよ、斉藤さん。たとえば萩原選手と平本選手の2人が朝倉未来戦まで登ってきたら、放送せざるをえないでしょ。タトゥーは放送禁止という明確なルールがあるわけじゃないから。
――デビュー戦は負けちゃいましたけど、平本蓮はその常識を覆す色気があるなって。
佐藤 平本蓮はかっこよかったでしょ。あのまますくすく育ってほしい。厳しい環境なんか与えなくていいから。全員に甘やかされてモンスターに育ってほしい(笑)。
――ハハハハハハハハ!
佐藤 萩原選手もいいよね。面もいいし、色気もある。このまま強くなったら面白いことになるなあっていう。ホントに周囲の声とか気にしなくていいと思うんですよ。未来先生もあんまり「格闘技好きです」「今年は格闘技に集中します」みたいなこと言わなくていい。もっとふてぶてしく自分を貫いてほしいです。
――試合後のコメントは妙に謙虚でしたよね。
佐藤 全然気にしなくていいのにね。みんな勝手にやろうよって。物議をかもした堀口選手の「再戦はやる必要ないでしょ」も全然それでいいし。変に優等生になる必要はないよね。かといって試合終わってノーサイド、は美しいからそれもいい。
――大輔さんは自由にやっている皇治を参戦当初は嫌ってなかったですか?
佐藤 いまは大好き(笑)。あんなに自由で大人なファイターいないですよ。
いファンが増えてきてるじゃないですか。そういう層が佐藤大輔インスタライブを見て「K-1を嫌ってる!」って本気で怒ってるツイートがたまに流れてくるですよ(笑)。
佐藤 俺が立ち技全般に敵対する風なポジショントーク遊びなんてもう20年前からやってることなんだけどね(笑)。
――ボクなんかすると「おっ、またやってるな!」って感じなんですけど(笑)。
佐藤 立ち技どうこうよりも、那須川天心はもはや愛してるんですけどね(笑)。那須川天心って立ち技の選手じゃないでしょ。この感覚わかりますよね?
佐藤 もはや那須川天心というマンガだから。立ち技にかぎらず、最近人気の地下格闘技系のラインが大好きかっていうと、べつに……で。じゃあ、UWFやPRIDE流れの異種格闘技路線が大好きかといえば、そういうものも嫌いではないんだけど。
――そこは個人的感情抜きにして、煽りVで格闘家たちを料理していると。
佐藤 榊原さんも、そういう若者たちも自由に遊ばせてますよね。あの包容力はRIZINの大きなポイント
ですよ。
――榊原さんも個人的な好みはあるんでしょうけど、話題になるものは、なんでもガンガン食べますからね。
佐藤 そこは俺もそうなんですよ。皇治選手も平本選手も最初はよくわからなかったから。全然見たことないものを「これきますよ、佐藤さん!」「凄いですよ」って勧められると、「知らんわ!!」って横を向いちゃうという(笑)。
――でも、いまは?
佐藤 皇治くんも蓮くんも大好きですよ。
――ハハハハハハハハ。大輔さんも自由で大人ですね(笑)。
佐藤 ホントにね、あの2人はみんながオススメするだけありますよ(笑)。「知らんわ!」と言っていた頃の自分に説教したい。
――最近のRIZINはキャラが揃いまくってますね。女子が薄いくらいで。
佐藤 女子だと◯◯とかRIZINに来ないかなあ。浜崎朱加vs◯◯とかやりたいよね。
――面白そうですよね。無理そうですけど。
佐藤 いや、どうなるかわからないよ。
――男子だったら意外と誰も語ってないですけど、△△がRIZINに出たら人気に火が付きそうですけどね。
佐藤 △△? 知らんよ! ハハハハハハハ!
――オススメされると嫌う(笑)。
佐藤 男子のバンタムとフェザーはそうですよね。女子ですよ、外国人いないとかなり厳しいのは。
――これで浜崎選手がハム・ソヒを追いかけてONEに移籍していたら、どうなっていたのか……。
佐藤 浜崎さんの残留は凄く大きいですよ。
――今回の大晦日は視聴率への手応えは事前にあったんですか?
佐藤 目標は常になんですけど、現場の俺たちは高望みはしてなくて。ズバリ「去年よりいいこと」。だって去年の数字で番組が終わらなかったんだから、それ以上、穫れば終わらないでしょ。まあ終わっちゃうときもあるんだけど……とにかく目標は「番組が終わらないこと」。
――重い言葉……ホントそうなんですよね。
佐藤 平均10%取れなくたって終わらなきゃいいの。こういうことを言うと榊原さんに「志が低い」って怒られるんだけど(笑)。格闘技界にとって地上波はなくちゃダメだし、火を消さないために頑張ってますよ。今回の大晦日でいえば、前回よりいいだろうなとは思ってた。
――去年の数字はRIZIN大晦日史上最低だったじゃないですか。あの数字が出たときはどう思いました。
佐藤 ガックリきた。堀口選手の欠場で柱がなくなったことは大きいんだけど、「こんなもんか……」とは残念だったけど。
――そういう流れの中で、9月の天心vs皇治が「半沢直樹」最終回の裏で健闘して。
佐藤 悪くなかった。そして視聴率の新しい指標「キー特性」(13~49歳の視聴者層)がよかったんですよ。だからそういう意味では大晦日も悪くはないだろうなって。どの番組とは言わないけど、視聴率が高くても「キー特性」が低い番組ってけっこうあるんです。これはスポンサーには売れない番組という評価になってしまう。
――「100年続く大晦日」(笑)。いや、ホントに続いてほしいですよ。
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