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RIZINの煽りVや「RIZIN CONFESSIONS」などRIZINの演出を統括する佐藤大輔と、ジャズ・ミュージシャンで文筆家の菊地成孔氏の対談。16000字であなたの脳みそを煽ります(聞き手/ジャン斉藤)
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・「魔法の煽りVをつくる男」 RIZIN演出統括・佐藤大輔17000字インタビュー
・朝倉兄弟とYouTube論■菊地成孔
・プロレスラー、SNS、リアリティショー……この3つを背負うのは重すぎる■菊地成孔
佐藤 こうして菊地さんと対談するのは10年ぶりになりますね。感慨深いですよ。
菊地 感慨深いですか。
佐藤 だってあれから格闘技の仕事が続けられているってことですから。何回も諦めかけましたけど。
菊地 ハハハハハ、諦めかけたんですか?(笑)。
佐藤 ホントですよ。
菊地 10年前ということは東北大震災のあとくらいですかね。
佐藤 あとです。対談したのはKAMINOGEだったけど。
菊地 あのときはアウトサイダーがいかに面白いかという話を佐藤さんにしていたと思いますよ。
佐藤 そうですね。アウトサイダーの良さ、面白さを語っていて……あのときアウトサイダーに朝倉兄弟っていましたよね?
菊地 いや、朝倉兄弟がアウトサイダーに上がる前ですね。
佐藤 ああ、そうですか。朝倉兄弟じゃなくて、リングス軍団と対抗戦をやったりとか、米軍が出たりして面白いぞって話でしたね。でも、ボクの耳には菊地さんの話が全然入ってこなくて「ホントに面白いの?」って。いまやRIZINがアウトサイダーになってしまったという(笑)。
――いまのファンからすればアウトサイダーといえば朝倉兄弟ですけど、それ以前の黎明期のことですね。
菊地 初期のアウトサイダーですよね。 DVDの1~2本目だと客席にボクが映ってますけど、毎回会場まで見に行ってました。あまり行かなくなった頃に朝倉兄弟が台頭し始めて、リングスの広報の方から「朝倉兄弟というヤバい奴が出てきたから、ぜひ見に来て何か書いてください」と。でも、大した理由もなく行かなかったんですよ。 「イヤだ」という強い意志があったわけじゃなくて、その日の大会に時間的に間に合わなかったとか、あるいはアウトサイダー全体に少しづつ興味を失いつつあって、アウトサイダーの拡大路線に対してアクティブさが下がってましたね。運命とは一手違いで、あのとき見に行ってたら朝倉兄弟をずっと見てきた人生になっていたかもしれない。そのあと朝倉兄弟がRIZIN入りしたという噂を聞いて……RIZINの大晦日は毎年見てるんですけど。
佐藤 ありがとうございます!
菊地 それきっかけで朝倉兄弟のYouTube なんかも見てますし。
佐藤 地上波あってのRIZINと言われてますけど、じつはこの2~3年なんとなくRIZINが盛り上がってる感じがするのはYouTubeの力が大きいんですよ。選手が勝手にYouTubeに乗ってくれたという。
菊地 そこは世の中的には自然の成り行きではありますよね。「この続きはTELASAで」とか、地上波の番組がインターネットに誘導するエサみたいになってますし。『アメトーーク』という強い番組ですら特別編はネットで流れるわけじゃないですか。
佐藤 そうなんですよね。RIZINも下支えしているのはやっぱりYouTube だなって。コロナ直撃は興行的には大ダメージなんですけど、YouTubeのおかげでファンの熱は意外とずっと続いていて。「YouTuber格闘技」ですよ。
菊地 すんげえ昔に、谷川さんが「これからはYouTube格闘技があってもいい」って発言してて、その時点では完全なフライングでしたけど、無意識のうちに現実化したっていうところが、懐かしの“黒魔術”ですね(笑)。
―― RIZINってコロナになってから元気になりましたよね。もちろんこれだけ延期だ入場規制だと続くと経営は大変なんでしょうけど、熱だけでいえば。
佐藤 そこで頭を下げやすくなったというのはあるよね。たとえばクラファンもそう。あと外国人が呼べないことをいいことにより完全に箱庭化して、そこのケンカを楽しむ。正直「これでいいのかな……」って不安もあるんですけど。
――RIZINはこれまでワールドワイドに展開しようとしてましたけど、「日本人vs外国人」よりも「日本人対決」のほうがYouTuber効果も手伝って煽れるし、双方のファンが憎しみあって燃えるところもあるんじゃないですかね(笑)。
佐藤 そうだねぇ。朝倉未来vs斎藤裕で盛り上がっちゃったわけだからね。でも、プロレス業界はどうなんですか?
――新日本プロレスの場合、北米侵攻シフトを組みつつあったところでのコロナでしたからね。運の悪いことに組み立てたアングルもすべて裏目に出てしまって。
菊地 幾星霜はさんでIWGPの歴史も編纂したうえで、とはいえ、昭和の新日本とはえらい違いですね。インターナショナルだった日本プロレスが新日本プロレスになるとカール・ゴッチさんしかいなくてドメスティックにやるしかなくて、日本人で回したところで成功したのに。
佐藤 たしかにそうですね(笑)。新日本って格闘技の先を行ってるだけじゃないのかなって。 RIZINも鎖国状態だと早晩行き詰まるよ。 そんな感じしない?
――うーん、UFCというかアメリカ市場には敵わないから、コロナじゃなくてもいずれ国内路線の道は……。
佐藤 まあ、そうだね。
菊地 各県のヤンキー比べという競技の構造上、ドメスティックでやらざるをえなかったアウトサイダーみたいなものの面白さもありますけど。いまは大義名分があるじゃないですか、ドメスティックには。今年のフジロックはドメスティックなんですよ。海外からは誰も呼ばすに邦人だけでやると。
佐藤 それでもいいメンバーですよね。
菊地 フジロックが今年大成功して大満足になったとしたら「これでいいじゃん」ということになる。本当はダフトパンクの日本における解散公演は昨年のフジロックでやる予定だったけど、 コロナでできなくてそのまま解散しちゃったからって言われてますしね。
佐藤 うわ、コロナは罪深いですねぇ。
菊地 そういう悲喜こもごもがありつつドメスティックでやっていけるかどうかは、マーケットが評価するんでしょうけど。新日本には外国人のスターが誰もいなくて、猪木さんが作ってくしかないっていう感覚はよかったんですよね。ともあれRIZINのいまのテーマはYouTubeとコロナということですよね。
佐藤 そうです、その2つです。
菊地 かつて映画という巨大産業がテレビという新興勢力が出てきたときにどういう態度を取っていたか? という歴史があるじゃないですか。映画は最終的にテレビに負けたんですけど、テレビが新興勢力だった時期はプライドを保っていたんです。撮影所にいる人たちが「テレビドラマを撮ってきます」っていうと嫌味言われるとかね。それがテレビにすがらないと映画を見に来る人がいなくなるという時代になってしまった。いま地上波がインターネットという新興勢力にどういった態度なのか?という話ですね。
佐藤 RIZINは YouTubeに部分的に擦り寄っていますよね。シバターのRIZIN登場はその代表例で。
菊地 大晦日の傾向は加速してるわけですか。
佐藤 加速してますけど、完全にYouTube をやっちゃうと、すべっちゃうんですよね。 地上波マナーを守らないと、何か変なことになるんですよ。
菊地 そこは「この人、面白いな」とを気づいたらYouTuber だったとか。まずはパラサイトする、というようなかたちですよね。
佐藤 ただ、なんでも選手をコントロールする気はなくて。RIZINがうまくなんとか続いてるのは、 ボクらがあまり我を出してないんですよね。朝倉兄弟にこうしろ、あれをやっちゃダメとか言わないし、 彼らが言うことをただただ聞くわけでもないし。
菊地 YouTubeや配信でいえば、オリンピックもざっくばらんに言っちゃうと会場観戦してる人は賑やかしで、 見てる人のほとんどがテレビを通してじゃないですか。 もともとオリンピックは中継で成り立っていたわけなので、会場観戦はほんの一部の特権的な人だけで、世界中の人たちはテレビで見ていたわけだから、 今回の無観客ということをコロナへの恐怖とニコイチでなんとなくマッシュアップして、無観客オリンピックは意味がないと言われますが、 とっくに無観客で大丈夫だったんじゃないかって見方もできますよね。万博みたいに期日が半年ぐらいあって、世界中の人が見に来るんだったら別ですけど。
佐藤 たしかにテレビで見るものがオリンピックですね。
菊地 ボクが会場で見たことのあるオリンピックは、1964年の東京オリンピックなんですよ。
佐藤 うわ、会場で見てるんですか。
菊地 1歳のときですけど。佐藤さんは何歳ですか?
佐藤 ボクは74年生まれの今年47歳です。
菊地 ボクは高田統括本部長と一緒の58歳です。
佐藤 あ、なるほど。ボクはミルコ・クロコップと一緒ですね(笑)。
菊地 あの東京オリンピック以降はテレビでしか見ていない。世界中の人にとって地元でやらないかぎりはテレビで見るもんでしょっていう。オリンピックが無観客であることに対してそんなネガティヴになる必要はなくて。
佐藤 ちなみにボクはオリンピックをやったほうがいい派なんですよ。
菊地 ボクもですね。
佐藤 あ、そうですか。東京オリンピックをやったほうがいいという理由は完全にポジショントークなんですけど 、オリンピックが開催されることで他の興行もやれるんですよね。オリンピックをやらないと全部潰される可能性があるから。
菊地 ボクもポジショントークプラスけっこうギリギリですけど、今年のフジロックはオリンピック担保ですよね。去年のフジロックは中止になりましたけど、オリンピックがやれるんだからフジロックもやれるだろうと。オリンピックが担保になってる側面はゼロではないと思います。
佐藤 オリンピック後にフジロックですもんね。
菊地 ボクはオリンピック開催に関する社会的な流れというか、ネットの趨勢はわからないんですけど。今回のオリンピックに近代史上一番前衛的なものになると思ってまして楽しみなんですよ。
佐藤 シュールなオリンピック(笑)。
菊地 いままでいろんなオリンピックがあったじゃないですか。 ミュンヘンみたいにテロリストが選手村を襲うという悲劇があったり、モスクワのときは冷戦の影響で西側の諸国がボイコットしたり、 あるいはナチスがベルリンオリンピックを政治利用したり。日中戦争があったから東京が蹴って中止にしたこともありました。ボクのアンチ・オリンピックに関しては、おそらく誰よりも早くて、石原(慎太郎)さんが都知事選の公約ぐらいの強さでオリンピックを誘致するということで、それに際して歌舞伎町を浄化するんだとなったあたりから、ボクはずっとアンチ・オリンピックの立場を取り続けてきたんです。実際に「次のオリンピックはろくでもないことが起こる」と書いてきて。
佐藤 エッセイでもそうやって書かれてきましたよね。
菊地 アンチ・オリンピックで一冊、書いちゃいましたからね。そのオリンピックは神の采配によって中止になったんですけど、「まだ菊地さんはオリンピックにアンチなんですよね」ってずっと思われていて。つい先日、ある通信社から「今回のオリンピックをどちらかというとクサしてくれ」みたいな、はっきりとは口にはしませんけど、アナタそういう本を出してますよねという目配せインタビューがあったんです。 「でも、ボクが腐していたオリンピックはもう終わったんですよ」と。
佐藤 ハハハハハ、1年前に(笑)。
菊地 そうです。「今年のオリンピックは次のオリンピックなので期待しています」という話をしたら通信者の人はじゃっかん困ってまして(笑)。「少し元気になりました」と言って帰りました。だいぶ話はしたんですが、記事はすごく小さくなっちゃいましたね。今年のオリンピックは大失敗する可能性はあるんですけど、逆に大成功する可能性もあって。選手も3年待たされたら腐るでしょうけど、1年ぐらいだったらちょうど盛り上がってるところで突っ込んで演技をするんじゃないかって。
佐藤 ボクもめっちゃ盛り上がると思うんですよね。
菊地 なので、いまオリンピックをやっても意味がないとか腐してる人たちはバカとは言わないけど、考えが足りないと思ってますね。
佐藤 ハハハハハハハ。よくわかります。 やったらやったで、どうせ死ぬほど盛り上がりますよ。みんな開幕式から見るに決まってますし。
菊地 「どうなることやら」という興味ですよね。
佐藤 開会式は椎名林檎チームにやってもらいたかったなあ。文春スキャンダルでなくなっちゃいましたけど。 開会式をあえてやらないという手もありますよね。ノー煽りでやる競技会。
菊地 それもいいと思います。 MXで中継しているWWE 中継なんかを見ると、観客席にテレビ画面を置いてリアルタイムで応援している人の顔を映し出してるんですよ。
――サンダードーム方式ですね。
菊地 あれって1人1人の顔がアップでくっきり見えるじゃないですか。映画の「サマーウォーズ」じゃないけど、ほらこの人が応援してるよとわかる。オリンピックもこれをやればいいんじゃないかなって。オリンピックがWWE の手法をそのままコンバートしないとは思いますけど(笑)。
――開会式の演出であっても面白そうですね。
菊地 海外のVIPや皇室の方が出るには最適でしょう。それでいえば最近毎日のように市川崑の「東京オリンピック」と NHKが編集した万国博覧会記録会を見てるんですよ。昔は良かったなあって(笑)。
佐藤 最高に煽られる作品ですけどね(笑)。
菊地 映像を見ると当時は貴賓席がちゃんと仕切られてなくて、かぶりつきのところに美智子様がいたり、カットが変わるとスーツを着た王・長嶋が談笑していたり。いまみたいにガッチガチのVIP的に扱ってるわけじゃなくて、それもまた64年とていうのはいい時代だったなと思わざるをえないんですが、2021年のオリンピックが何かを打ち出すだとしたら、皇室の方々がWWEのように画面に顔が出てくるという。各国の王室や首相、大統領なんかも出てくると。
佐藤 プーチンが出てきたら絵になりますよね(笑)。
菊地 いまの状況だったらプーチンは来日できないでしょうから、それで出るしかないし、 世界中の要人が「いま実際にこうやってオリンピックを見てます」という担保にはなりますよね。 まあ、この時期にこんな話をするくらいオリンピックは何も決まってないんですけど。
佐藤 それがまたまた変なワクワクがありますけど。
菊地 いまは何かと予備知識を詰め込みすぎて、みんなアップアップになってるじゃないですか、情報が多すぎて。
佐藤 よくわかります。
菊地 昭和は何も知らずに見て楽しんでいたんですよね。
佐藤 昭和・平成はまだそうでしたよね。PRIDEもボクらインサイダーが発信する情報がすべてだったんです、極端にいえば。いまは情報がバーッとたくさん溢れている中で、さあどうするの?って突きつけられてる気がして。
菊地 全員が情報通の中で凄い神経戦になってるというか。ボクの話だと急に古臭くなるんですけど、昭和・新日本に「はぐれ国際軍団」っていたじゃないですか。そのときは小学生だったから急に「はぐれ国際軍団」と言われても困るわけですよ(笑)。
佐藤 「はぐれ」も「国際」も繋がってないですからね(笑)。
菊地 国際がなぜはぐれたのかもわからない。当時はそういう情報の受け止め方だったんですよね。「わからない」ということに関しては熱狂で埋めてくれる。情報はあとからついてくればいいと。でも、いまって「この事務所から一番近くのタバコの吸える喫茶店」をネットで探せばすぐにわかるじゃないですか。
佐藤 そういう意味では今度のオリンピックは何も「わからない」ですね。
16000字対談はまだまだ続く……
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コメント
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佐藤大輔さんの朝倉未来評が良かったです。
どんな煽りVになるのか楽しみです。
久々の菊地成孔さん面白かったです。
できれば成孔さんのトークは音声で聴きたいですね。雑誌版dropkickのオマケについてた音声インタビューも最高だったし。
やっぱり菊地さんオモシロいな。定期的に登場してもらいたい。
音系ライナーの軸の無さを思いだしたわw