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RIZIN5連敗中から抜け出した矢地祐介のセコンド八隅孝平インタビュー。矢地祐介はいかにして復活を遂げたのか(聞き手/ジャン斉藤)


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――
RIZIN.29では、矢地祐介選手の煽りVに八隅さんが登場されていた場面が印象的でした。試合ではセコンドにも付かれていましたが、そもそも矢地選手との関係性はどこからスタートしたんですか?

八隅
 ロータス世田谷で月曜と金曜にプロ選手が集まって組技の練習をしているんですけど、そのときに元クレイジー・ビーの(田村)一聖くんと横山(恭典)くんから「みんなでMMAの練習ができる場所を探している」と聞いたんです。それで「空いてる時間だったらロータス使ってもらっていいよ」と。そこでどんな練習しているのか気になったので一度見学をさせてもらって……。そのあとに「練習を見てくれる人がいないから見てもらえませんか?」と。それが始まりですね。

――
つまり、クレイジー・ビーから離脱した選手たちがロータスで練習をしているわけですね。

八隅
 そうです。

――
それは、いわゆる試合に向けた戦略を含めて見てほしいと?

八隅
 そこも含めて、コーチとして練習を仕切ってくれということなんですけどね。それは矢地選手だけじゃなく、クレイジー・ビーをやめた人たちや出稽古に来ていた人たちも含めてですけど、「気がつくところがあったら言ってくれ」と。

――
それは、仕事として?

八隅
 そうです。だから、いまはウチでは矢地くんと田村一聖くんが練習に来てますね。

――
とはいえ、彼らはロータス世田谷所属というわけではないんですよね?

八隅
 まあ、まだわからないですけど、今後も「フリー」というのはあんまりよくないから「チームを作ってやれば?」とは言ってます。べつに無理にロータス所属にならなくてもいいとは言ってあって。ここ以外だと、リバーサルジムで宮川(峻)くんに打撃を見てもらっている感じですし。

――
なるほど。そんな中、先日の川名TENCHO雄生戦は、八隅さんの戦略が勝利につながったという声が挙がっています。

八隅
 戦略といっても、戦略はあんまり決めてなかったんですけど。まあ、練習していることをやろう、と。それだけを濃くしていった感じです。

――
あの試合、以前の矢地選手と比べると戦い方が随分違う印象でした。どの場面でも冷静というか。

八隅
 まあ場面、場面で「こういうときは、コレをしよう」と、もともと持っていたものを整理してあげた感じですか。それを「いまはコレだよ」とリングサイドで声をかけていたという。

――
それ、いままでは整理されてなかったということなんですか?

八隅
 と思いますね。それが整理されてないまま戦っていたから、スランプに陥っていたというのもあると思います。

――八隅さんから見て、一番整理できてなかった部分はどういうところでした?

八隅
 うーん、まず試合に対する心構えですかね。

――
あ、そこから!

八隅
 煽りVでも言いましたけど、本当にどうやって勝とうとしていたのか……。まあ、これはウチに来た全員に言えたことなんですけど、なんのために練習しているのかがわからないというか。

――
旧クレイジー・ビー勢の戦績が落ちてきてたのは、そこにも原因があったんですかね。

八隅
 それは、ボクはずっと見てきたわけじゃないからわからないですけど。ただ、ボクが見たときに感じたのはそれでした。試合を見直しても、結局そう感じたし。だから「もう一回整理しよう」と。みんなに、どうやって勝ちたいのかというのを質問しましたね。

――
そこから始めたんですね。それは、個人面談みたいな感じで?

八隅
 いや、みんなのいる前でやりましたよ。あのときいたのは横山恭典くん、田村一聖くん、松本光史、あとほかにもいたような気がしますけど。

――
その人たちに「どうやって勝つの?」と。そのとき、矢地選手はなんと?

八隅 最初「わかりません……」と。

――
えっ!? 

八隅
 「そういえば、どうやって勝とうと思っていたのかわかってなかったです」と。だから「だよね?」と。「そこだよ」と言いました。

――
それって格闘家としてのスランプだから「わからない」のか、それとも何も考えつかなかったのか……。

八隅 後者だと思います。でも、試合はしなきゃいけないじゃないですか。つまり、わけのわからない受験勉強して受験しているのと一緒ですよね。これ、合格しようと思ってないのに、なんでこんな勉強をやってるんだろうみたいな。

――
でも、練習では詰め込むだけ詰め込んでいるという。

八隅
 そうそう。

――
それって、八隅さんご自身の経験だったり、いままでそういう格闘家を見てきたからこそ気づけた部分だったりするんですかね?

八隅
 まあ、それもあります。自分もそういうときはあったんで。まあ、当時は気づけなかったですね。ボクもずっと格闘技を続けているからわかってきたことであって。

――
この練習は、何を目的にしているのかとか?

八隅
 そうです。で、彼らは練習時間も凄く長くて3時間ちょっとやってたと思うんですよ。それも意味がないから、やっても1時間半で終わりにしようと言って。

――
はー、それも大改革ですね。

八隅
 それでも充分な練習はできていると思うんですけどね。

――
それ、矢地選手にとっては、あそこまで負けが込んでいるから「じゃあ、3時間を1時間半に」というのは勇気を持ってできたかもしれないですけど、そうじゃなかったら逆に怖かったかもしれないですね。

八隅
 まあ、それも矢地くんだけじゃなくて全員に言えたことなんで。だって、3時間も運動できないですよ。それはもう“トレーニング”になってるから、格闘技の練習をしようと。

――
ああ、格闘技の練習であるべきだと。

八隅
 トレーニングは、個人個人が別のところでやればいいんで。ポイントを絞ってココという練習方法に切り替えたという感じです。

――
その提案には皆さん素直に?

八隅
 はい、それでいいと言ったから、それでやりましょうと。いまも、いろいろ考えながらやってますね。

――
たとえば、矢地選手に対して八隅さんが一番整理した部分ってどこだったんですか?

八隅 自分から組んだときや組み伏せたとき、あと寝て立つときとか、そのへんの対処ですかね。要は、オフェンスで何をしていいかわからないというのを整理した感じですか。

――
え、オフェンスで何をしていいかわからないまま戦っていた感じだったんですか……?

八隅
 そうみたいです。だから、テイクダウンしたら自分のほうが精神的に削れてた、みたいな。

――
矢地選手、そこまで追い込まれていたんですね。

八隅
 心境的には「ヤバイヤバイ、倒しちゃったよ。これどうしよう……」と。

――
……じゃあ、これまでオフェンスだと、とりあえず何か一発当ててKOするしか方法はなかったということなんですかね?

八隅
 それしか、決着をつける方法がなかったんでしょうね。

――
でも一発KOって、1から10までを飛び越える作業じゃないですか。普通だったら「2、3、4、5……」と階段を上がって徐々に攻略していくのがいまのMMAだと思うんですが、その道筋が見えてなかったということなんですね。

八隅
 見えてなかったです。だから、今回はそこがだいぶ違ったと思います。で、実際に一緒に練習をしているから、「自分はこういう組み手を使ってやってるんですよ」というのを見せてあげて、実際にスパーリングをする。そうすると「なるほど!」となるんですよ。「コレをこうすればよかったんだ」というのが、ちょっとずつわかってきた感じですね。

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――逆に、それでよく矢地選手はあそこまで勝ててたのかと感心しちゃいますね。

八隅
 いや、だから凄いですよ。フィジカルを含めて、もともと持っているものが。それを使えてなかったんでしょうね。

――
バッティングフォームを覚えないままホームランを打ってたバッターみたいな感じです(笑)。今回の試合でも、組の部分やテイクダウンの技術など際の攻防が非常によかった印象があって。だからこそ試合をうまく進められた部分ってありますよね?

八隅
 うん、それはまだ全部じゃないですけど、よかった部分ではあると思います。

――
今回、下馬評としては川名店長のほうが優勢でしたけど、八隅さんとしては単純にどうなると思いました?

八隅
 いや、川名さんもロータスで練習したことあるんで、正直一番イヤな相手だなと思ってました。根性あるし技術もあるから、いままでのままの矢地くんだと根負けするなあと思って。たぶん下になって、譲っちゃって……。

――
譲っちゃう。

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八隅
 はい。「まいっか」と。しんどいから譲るし「ここはヤバイから下になっとけ」みたいな。で、「タイミングを見て立てばいいや」とかいう考えに絶対になってたと思うんですよ。でも、今回は組みができる、それがボクがいて一番よかった部分というか。

――川名店長も言ってたんですけど、店長が最初からテイクダウンを狙っていたのは、そういった矢地選手の性格やファイトスタイルを理解したうえで作戦を立てていたということなんですね。

八隅 絶対にそうですよ。ボクは、もっと早くテイクダウンをしてくると思ってましたし、テイクダウンには絶対に来ると思ってました。まあ、あえて矢地くんには言わなかったんですけどね。

――
なぜ言わなかったんですか?

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