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五味隆典や山本KID徳郁など多くの格闘家を指導した木口宣昭先生が2021年9月にお亡くなりになりました。格闘技界の発展に尽力した木口先生のご冥福をお祈りすると共に、木口先生と最もマンツーマンでトレーニングをしたと言われる奇人・朝日昇さんに思い出話をうかがいました!


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――
先日お亡くなりになった木口先生の思い出話をうかがいます。

朝日 木口先生が亡くなったことは、大河内衛から何年かぶりに来たメールで知りました。「木口先生が亡くなったみたいです」と。

――
ああ、シューティング黎明期に活躍した大河内さんから。木口先生がご病気だったことは知らなかったんですか?

朝日
 なるべく逃げていたんですよ(笑)。会ったらヒジの腱をガッと掴まれたりして、たいへんだから。あれ、ホントに痛いんですよ!ペンチで挟まれたようにまったく離れず「あたたたた......」となるんです!

――まるで『刃牙』の花山薫ですよ(笑)。

朝日 これ、ホントの話ですからね。善理俊哉っていうボクシングをメインに活動しているライターがいるんですけど、数年前に木口先生が主催するコンバットレスリングの世界大会を取材したいってことで紹介したんです。善理が会場で木口先生に「木口スペシャルってなんですか?」と質問した瞬間、キラリと目が輝き、腕を捕られてヒジの腱を掴まれ「これが木口スペシャルだよ」と教えられ、そのまま投げられそうになったみたいなんですが!(笑)。

――初対面の相手に(笑)。

朝日 そのときは「これはヤバい」と逃げたそうなんですが、場内アナウンスで「お呼び出しを申し上げます。善理俊哉様、木口会長が本部席でお待ちしております」と呼び出されたと。(笑)

――
ハハハハハハハハ!

朝日
 木口先生には「朝日、オマエのジムには行ってないな」とよく言われたんです。木口道場の出身者が運営する他のジムには行き、木口トレーニングを指導していたようなんですけど。ボクは「木口先生、すいません。ボクのジムは先生の家から遠いので……」と地理的にラッキーな言い訳をして(笑)。木口先生からは「オマエとは一番スパーリングをやったな」ともよく言われていました。と言うか、一方的にボクがやられていただけなんですけど!

――
亡くなるなんて思わないぐらいの超人ぶりですよね。

朝日
 ホントですよ!「先生は70、80歳になっても逆立ち腕立てを100回やる」と言ってたんです、昔から。実際にやったでしょうし。おそらく水垣(偉弥)が練習した最後の世代なのかな?と思いますけど、水垣本人も言ってますよね。先生が60代の頃に差し合いをやっても勝てなかったって。 

――水垣さんに聞いたら「差しでジムの隅まで押されっぱなしだった」「袈裟固めでタップした」「 初めて木口先生のトレーニング受けた日の帰りに原付でジムに行ってたんですが、スタンド外した瞬間、支えられなくて原付の下敷きになりました」ってこで。伝説は本当だったんだなと(笑)。

朝日
 だから先生の伝説ってフェイクじゃなくてガチなんです。2000年代に入ってからも「先生は五味やノリ(山本“KID”徳郁)には絶対に負けない。アイツらの弱点はわかっている!」と言ってましたからね。

――
最高です! 朝日さんが木口先生に会ったのはいつなんですか?

朝日 三軒茶屋のスーパータイガージムに通っていた頃です。 いま魔裟斗選手のジムがあるところですね。もう34年くらい前の事だから、今日本人No.1の堀口(恭司)くんが生まれる前の話ですよ。 

――
先生は何歳ぐらいだったんですか? 

朝日
 いくつだったんでしょうか? 「何歳なんですか?」なんて聞いたこともなかったですから。 あの頃のスーパータイガージムって、他の人の名前もよくわからなかったんですよね。だいたい佐山(聡)さんがみんなにあだ名をつけていたように思うんです。佐山さんが桜田(直樹)さんのことを「砂かけ」と呼んでいたのは、砂かけばばあに似てたからでしたし。ボクらは「砂かけ先輩」って呼んでいたんですけど(笑)。

――
敬ってるだかなんだかわからないですね(笑)。

朝日
 で、月曜日が木口先生のレスリング教室、金曜日がビクトル古賀先生のサンボコースだったんですが、両方とも出てました。

――レジェンド揃い踏み!

朝日
 古賀先生もすごかったですよね。冷戦時代のソ連で日本人がサンボで勝ちまくるってヤバイですよ。

――
佐山聡にビクトル古賀、そして木口宣昭がいるってとんでもないジムですね(笑)。

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朝日
 木口先生のレスリング教室のメニューもすごかったですよ。ホントにつらい。レスリングのテクニックも多少は教わりましたが、それよりもまず身体を鍛えるんです。そのうち佐山さんから「今度、横浜の木口道場でシューティングクラスもやるから誰か行く奴いるか?」と。そこで「家が近いからボクが行きます」と木口道場に移籍する事になったんです。あとは港太郎、伊藤裕二、草柳(和宏)の4人で。場所はTBS 緑山スタジオの近くの酒屋とコンビニの裏の倉庫。とても狭くて、リングよりもう少し広かったくらいだったのかな?そこに中学生だった山本美憂、小学生だったノリや聖子も、ちびっ子レスリングクラスに来てましたね。先生はシューティングクラスには毎日来るわけじゃないけど、先生が来るときはマンツーマンのトレーニングも多かったです。ボクなんか野球部上がりの格闘技を始めて2年目の19歳とかだったからボコボコにされて。

――具体的にどんな内容なんですか?

朝日
 練習中の基本は、まず息をしないこと。

――
えっ!?(笑)。

朝日
 でも、それは論理的にわかるんですよ。100メートルで走るときなどは呼吸をできるだけ少なくするような無酸素運動じゃないですか。 MMAや格闘技でも相手を一気に攻めるときは10秒から20秒ぐらい無酸素運動ですよね。その状態を持続させたほうが強いってことだと思うんです。で、木口先生のトレーニングはどんなメニューかというと、例えば腕立て、腹筋、背筋、ジャンプ、バービー、ダッシュ。この6種目をアトランダムで1ラウンド1分半で数ラウンド全力で行なうサーキットがあります。この1分半のあいだは呼吸をしてはダメ。酸素を吸っちゃいけないんです。 呼吸した数だけダッシュです。

――
そんなムチャクチャな!(笑)。

朝日 絶対に呼吸をするに決まってるし、ダッシュのときも呼吸をしたらダメなんです。呼吸した数、ダッシュです。 だから永遠に終わらないんですっ!

――
永遠に続く木口トレーニング(笑)。

朝日
 首を鍛えるブリッジワークも20分から30分くらい、いろいろなメニューをやるんです。基本的な数種のブリッジ返りなどから、腕を使わず首だけで木口先生を吊るしてマットを周回したり、木口先生を乗せてのブリッジはもちろんとして、ブリッジした状態でベンチプレス40キロなどもやったり。フラフラになったあと木口先生に袈裟固めで抑え込まれた状態から「ブリッジで返せ!」なども。先生の脇が顔面に押し付けられてラッパ状態で呼吸もできず、もう地獄です(笑)。

――聞いてるだけでイヤになります(笑)。

朝日
 そんな感じのメニューを1時間45分くらい、時に雄叫びを上げながら全力でやったあと「さあスパーリングをやるぞ」と。

――
えっ、ここからが本番!?

朝日
 それもまたキツイんですよ。先生はレスリングの実力は世界クラスですからね。ボクなんか野球しかやってなかった19歳のチビじゃないですか。 もうボロ雑巾を超える扱い。

――
やっぱり強いですか。

朝日
 カニですよ、カニ。石のカニ!

――
石のカニ(笑)。

朝日
 他のレスリングの選手って構えもいいし、動きからなにから綺麗でカッコいいじゃないですか。木口先生はガニ股でどっしり構えて、まるでカニみたいなんですよ。 しかし、おもいっきりぶつかっても、あのカニはまったく微動だにもせず、逆にあっという間に粉砕されてしまうんですよ!

――
まあ、カニがレスリングをやったらヤバイですね(笑)。
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