事の発端はある晩の事だった!
記録によれば20:30に
ある一通のLINEメッセージが届いた!
それは松竹芸能所属の芸人
「代走みつくに」君からのものだった!

「すみません!
 これは決してイタズラLINEではございません!」

そんな丁寧な書き出しだと
逆に警戒してしまうのだが
言葉はこう続いた!

「はい!
 気持ち悪いと思います!
 とは思いますが
 ほんの少しでも目を通していただければ幸いです!
 失礼いたしました!」

実に彼らしいへりくだった態度だ!
「LINE乗っ取り」などではなく
間違いなく「代走みつくに」君からの物だ!
私の警戒心は解け
送られて来た二枚の画像を開いてみる事にした!

それらを見た私は
すっかり無言になった!
返事も返す事ができなかった!
とにかく意味不明な手書きの図だった!

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私の返事を待つ事もなく
彼からまたメッセージが届いた!

「上が代走みつくに作”万波急行電鉄”!
 下がコンチェルト池水作”山急電鉄”です!」

目にしている図が
なんだかわかっていないのに
「コンチェルト池水」なる
聞いた事もない名前を持ち出され
私の困惑は上昇した!

特にコメントも返せないままに
日付が変わった!
なんだ?
送られて来たあの2枚の路線図は
一体なんなのだ?
あれのどこをどう見たらいいのだ?
私は一日中悩んだ!
仕事をしながらも時々あの謎の路線図を見ては
ちょいと悩み
また仕事に戻った!

そもそも私は
「万波(まんなみ)急行電鉄」も
「山急(やまきゅう)電鉄」も知らない!
一体どこの土地の路線図だと言うのだ?

だがその日も終わろうという頃に
私はうっすらと異常に気付き始めた!
「万波急行電鉄」には
「三塁ベース」などという駅がある!

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そんなおかしな駅名があるものか!
とすると・・・!!!!!!!!

「みつくに君!
 これはひょっとして!
 実在しない路線図を描いたという事かね?」

彼の答えは「はい」だった!
私はあまりのショックに
しりこ玉を飛ばした!
なんだ!
なぜそんな事をするのだ?

私に趣味が多い事は
『ひろぐ』読者は当然ご存知だろう!
一説によれば
「後藤ひろひとから全ての趣味を除けば
 椎間板ヘルニアしか残らない」
とも言われている!
これまでの人生で
かなり多くの趣味を経験した!
「インフルエンザ」を表にもした!
「熱帯魚雑誌」の俳句コーナーにも没頭した!
いくつもいくつも趣味に熱中した!
だーが!
しかーし!
ありもしない路線図を描く事に関しては
聞くのも見るのも始めてである上に
趣味としての最大の条件
”それをやってどれほど楽しいのか?”
が全く想像できなかった!
かつての日本人が外国人の姿に怯え
”鬼”や”天狗”といった伝説を生んだように
私は次第にこの見た事もない路線図が怖くなった!
しかし怖い心霊写真ほど何度も見てしまうのと同様に
私は生活する中で
何度も何度もこの奇妙な路線図を眺めた!
「これは楽しいのか?」
「これを描くと幸せな気分になれるのか?」
自問自答を続けながら
数日が過ぎた!

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「ちゃぶ台」駅から
「ぽっくり登山線」に乗り
「ぽっくり谷」で乗り換えずに終点まで行くと
そこには「ぽっくりニュータウン」がある!
途中の駅名「茂辺路」「一之谷」から察するに
ずいぶんと険しい山間部を走っているのだろう!
名前に「登山線」とつくからには
そもそもは登山客が使う路線だったに違いない!
察するところ「大水溜温泉」への旅行客が
利用していた路線だったはずだ!
だがある時!
この付近に革命が起こった!
「ぽっくりニュータウン」の誕生である!
なるほど!
観光列車だったはずの路線が
中心地「万波中正(まんなみちゅうせい)」
で働く人達のための
生活列車へと変わっていったのだ!
どんな路線にも歴史がある!

・・・ん?
・・・おや?
私は妄想で描かれた謎の路線図を眺めながら
いつの間にか旅をしている!
「ぽっくりニュータウン」に住む人達が
どうにかして
楽に「万急終地(まんきゅうしまいち)」
に行けないものかと案じたりしている!
久々の休日には
「レダマライン」に乗って
「シーレダマ」にでも行ってみようかと
思い始めている!

これは!
そうか!
これはとんでもなく面白い事だ!
眺めているだけでそんな気持ちになるのならば
描いてみれば
更に楽しいに違いない!
そう気づいたのは
謎の妄想路線図が届いてから4日目の事だった!

なんだかわかるのに1日!
面白いと思うのに3日!
布に力強く水をかけても
布を強く払えば水ははじき飛ぶ!
しかしゆーっくり水をかけたら
それは払ったぐらいでは乾かない!
謎の妄想路線図は私の心の中に
じっくりじんわりと浸透してしまった!

私は「代走みつくに」君に
こうLINEメッセージを送信した!

「みつくに君!
 私のホームページのWEB配信
 『語るひろぐ』に出演して
 あの路線図を私にも描かせてはくれまいか?」

これまで『語るひろぐ』に
複数回ゲスト出演した人はいない!
つまり彼は初の2回目ゲストだ!
そのため”緊急特番”という肩書を添えた!
私は早くこの文化を広めたいという野望に
満ち満ちていた!
かくして昨晩!
衝撃的とも言える『語るひろぐ』が配信された!
彼が師と仰ぐ「コンチェルト池水」君も
番組の途中から現れた!
なんと彼は9歳の頃からこの趣味を営んでいたようで
昨夜は9歳の頃に描いたという路線図を
持参してくれた!
かなり文字も薄れているのだが
「見小」と書いて「みしょう」と読む駅名センスには
既にとんでもない妄想が発症している!
しかも「見小」の隣駅は
「火木(かもく)」だ!

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我々は番組が1時間しかない事も忘れ
ホワイトボードに向かい続けた!
カメラで写されている事も忘れ
3人でわいわい路線を妄想した!

私も脚本執筆の際には
役名・地名・会社名などを
創作しなければいけない!
二人の教師は
”そこにヒントがある”
と教えてくれた!
なので先日上演した舞台
『だーてぃーびー〜汚れたテレビ』
に登場した
「富田市(とみたし)」
というありそうで実在しない地名を持ち出した!
そこには松波耕太という市議会議員がおり
「とみフェス2016」というイベント予算で
アニメのDVDボックスを購入した事が
大きな問題となっている!
劇中の設定ではあるものの
何一つ実在しないからには
立派な妄想ではないか!

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「富田」駅から南下すると
まずは「下冨田」「蒲麻(がま)」という
住んでる人しか利用しないマイナー駅がある!
そうした捨て石的な駅の事を
我々は「捨て駅」と書いて
「すてーしょん」と呼ぶ事にした!
だが次の「木田(きだ)」は「捨て駅」ではない!
「木田」というのはすいぶん栄える町だ!
多くの会社があり
多くの人が暮らすので
「四丁目」「六丁目」「九丁目」と
細かく駅が設けられている!
これは
「まずは自分の好きな路線をモデルになさい!」
という二人の教師からの教えに従い
大阪地下鉄「谷町線」からヒントを得た路線作りの結果だ!
「木田九丁目」が
「市民病院前」という別名を持っているのは
そもそも「薬壺神社(やくつぼじんじゃ)」を中心に
古くから製薬業が盛んだった事に由来している!
「代走みつくに」君による「万波急行電鉄」には
「東岸トマソン」と「西岸トマソン」という駅がある!
これはなんでも「トマソン運河」を渡る渡河線だそうだ!
私はこの名前をとても気に入った!
なので「トマソン運河」を引いた人物
「トマソン氏」による大学を設立する事にした!
海運業界では名門とされる「トマソン大学」には
「トマ大前」駅で降車して頂きたい!
しかしこの路線で最大のにぎわいを見せる場所は
「八反町」である!
公式には「はちたんまち」が正しいのだが
地元の人たちは「はったんまち」と呼び親しんでいる!
かつては着物屋が建ち並び
「ここに来たら布地を八反は買ってしまう」
と言われた事が地名の由来だ!
現在では「PARCO」もある!
「八反町」に着物屋を並べたのは
当時の城主による見栄だったとも言われている!
つまりそこいらは城下町だ!
埋められたいくつもの堀は道となり
現在は地名に「堀」の字を残すだけとなった!
城主に初孫が誕生した時に
その堀に泳ぐ鯉が天空に登ったという伝説が
「女鯉堀(にょりぼり)」という地名を生んだ!
現在ではその色っぽい響きから
風俗街として栄えるようになった!
「座岸紅明西(ざがんこうみょうにし)」駅
まで作ったところで
由来を考える間もなく配信は終了した!

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ひろいだ!
私はひろぎにひろいだ!
こんなに楽しい事を
まだ人生に残していた事を喜んだ!
私と
「代走みつくに」君と
「コンチェルト池水」君の間に
世代を越えた深い友情が生まれた!
なので飲みに行った!
「代走みつくに」君からは
「バイクで来たので飲めません!」
と言われた!

配信現場を見学に来ていた
私のワークショップ「Royal Plant」のメンバー
「サラリー」
今朝になって
あの妄想路線図という新たなジャンルに
「パラレール」という名称を提案してきた!
「パラレル・ワールドを走る路線」
という意味での発案だった!
しかし私は
「パラノイア(妄想狂)が作った路線」
という意味で
「パラレール」という名称を気に入った!
「代走みつくに」君も
「コンチェルト池水」君も
「パラレール」に同意してくれた!

同様に配信を見学していた
デザイナーの「笹田」君が
これを送って来てくれた!

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やってみなければわからない趣味
「パラレール」!
やってみても
わからない人にはわからない娯楽
「パラレール」!
それは私の「Hirogian Spirits(ひろぎの魂)」を
大きく揺さぶったのであった!
さぁ!
あなたも「パラレール」なさい!