2014年3月4日
”人間風車”ビル・ロビンソン死去

どこから私の中にそんな勇気がわいたのだろうか?
未だに自分でもわからない!
ただ日本にいるからという理由だけで
「人間風車」と呼ばれる伝説のレスラー
「ビル・ロビンソン」
俳優としての舞台出演を依頼したのは
1999年の事だった!

「あなたにやって欲しいのは
 とある国家の要人
 ”ニコラス・マクファーソン”という役です!」

私の言葉を聞いて
いきなり彼の表情が曇ったのを記憶している!
役が気に入っていなかったのは明らかだった!
格闘家として生きていれば
ビジネスマンのように表情を隠す必要はない!
面白ければ笑うし
不愉快ならばそれを顔に表す!
彼はそんな人だった!

私がストーリーを語り続けると
次第に表情が和らいだ!

「実はそのニコラス・マクファーソンは偽物でね!
 会見する日本の要人を暗殺しようとする
 殺し屋なんです!」

そのフレーズを聞いて人間風車が笑い出した!
そりゃいいね!
というような事を言ってくれた!
そして小さく自分だけに

「ニコラス・マクファーソンねぇ・・・。」

とつぶやいた!
そして私が話し終えると

「楽しみだよ!」

と言って握手してくれた!

Piperの第2回公演となった舞台
『Nicholas McPherson(ニコラス・マクファーソン)』
興行的には歴史的大失敗となったその作品は
私にとって生涯最大の名誉とも呼べるものとなった!

「ビルって呼べよ!」

と何度言われても
私だけはそれができずに
「ミスター・ロビンソン」
と呼んだ!

東京公演を上演した青山円形劇場の前に
ソフトクリーム売りのスタンドが建っていた!
人間風車は毎日楽屋に
ソフトクリームをなめながら現れた!
大きな体で小さなソフトクリームを掴み
大声で
「Good Moring!!」
と叫びながら楽屋に現れた!
「朝でもないのに
 どうしてみんな”おはようございます”って言うんだい?」
と聞かれ
「それが日本のショー・ビジネス界の挨拶なんですよ!」
と教えると
「じゃあ俺もやらなきゃな!」
と嬉しそうに言った!
なので我々への挨拶はいつでも
「Good Morning!!」
だった!

初日舞台の幕が降りた楽屋で
「今日の俺はどうだった?」
と尋ねるので
「パーフェクトでしたよ!」
と言うと
いきなりものすごく怒り出した!

「俺が育ったレスリングの世界でも
 俺はまだパーフェクトなんか出した事がない!
 俳優として初めて立った舞台で
 パーフェクトなんて事はあり得ないだろ!」

びっくりするほど怒鳴られた!
なので!

「ならばあなたは私が指定した立ち位置に
 私が指示した歩数で立てなかった!
 そのために
 他の全員が位置を変えなければいけなかった!」

と指摘すると

「床にいつもは無いはずの邪魔な物があったんだ!」

とものすごく反論して来た!
彼が得意する
イングランドのランカシャー式レスリングは
「Catch as Catch Can」
と呼ばれている!
彼との舞台に関する議論は
いつだってまさに
「Catch as Catch Can」!
”取って取られて”なものだった!

ある日のこと!
人間風車が私におかしな事を聞いてきた!

「後藤よ!
 ちょっと尋ねてもいいかい?」

どうぞ!

「最近うちの留守番電話に
 ドリーからいっぱいメッセージが入ってるんだが
 途切れ途切れで何を言っているのか
 よくわからないんだよ!」

ドリーはどなたですか?

「お前ドリー・ファンクJr.を知らないのか?」

知らないはずがない!
この『ひろぐ』を読んでいる人も
ビル・ロビンソンは知らなくても
ドリー・ファンクJr.を知っている人は
とんでもなく多いだろう!

で?

「ドリーが日本に来るとか来ないとか
 雑音の中で言ってるんだが
 どうかな?
 来るのかな?」

まさかビル・ロビンソンから
ドリー・ファンクJr.のスケジュールを
尋ねられるとは
思ってもいなかった!
スタッフの誰かが
たまたまプロレス雑誌を持っていたので
調べてみると
どうやらとあるプロレス団体が
ドリー・ファンクJr.と共に
その弟テリー・ファンクを
つまりは「ザ・ファンクス」名義で
呼んでいる事がわかった!
なのでそれを伝えた!

「そっか!
 じゃあきっと飲みに行くぞ!
 後藤も一緒に来るかい?」

私は無理だと答えた!
ビル・ロビンソンと
ドリー・ファンクJr.と
テリー・ファンクと
後藤ひろひとは
4人で飲むメンバー構成ではない!

「実は俺もさぁ・・・
 ドリーとは大親友なんだけどさぁ・・・
 テリーには二度と会いたくないんだよ・・・。」

そこからプロレス雑誌でも決して読めない
テリー・ファンクによる
数々のあちゃらか大暴走ぶりが語られた!
二人で大笑いした!

ある日の劇場での空き時間の事!
私がお尻と胸を突き出して
まるでゴリラのような格好で拳を握り
うぉううぉうと叫びながら
楽屋を歩き廻っていると
人間風車から

「そうじゃない!」

という厳しい指摘を受けた!
そして!

「こうだろ!」

と見本を見せてくれた!
ははーん!
確かにそうだ!
我々はそのスタイルで
しばらく楽屋を歩き廻った!
周囲の者はみんなきょとんとしていた!
我々が”ニューヨークの帝王”
「ボブ・バックランド」
の物真似を競い合っていた事は
誰にもわかってもらえなかった!
なので
どちらがより似ていたかの勝敗はつかなかった!

ある日の舞台上!
人間風車が背後から私を掴んで
私の頭に拳銃を突きつけるシーンでの事!
「喜劇王・川下大洋」が
英語の台詞を間違えた!
ちょいと先の台詞を言ったのだったか
ちょいと前の台詞を言ったのだったか
よくは覚えていない!
なにしろ
人間風車が次の台詞を言えなくなる
そんな状態に陥った!
人間風車はものすごく困っていた!
そして拳銃を突きつけながら
私の耳元でささやいた!

「あいつ何言ってんだ?
 俺はどうしたらいい?」

私の役は英語が話せないという設定だったが
演出家として的確な指示を出さなければいけない!
私は彼よりも小声の英語で言った!

「かまわず次の台詞を言って下さい・・・。」


31fc1c283f1d4e4618e2e67a6fbc31960380eb92
東京公演最終日のカーテンコールで
人間風車を舞台に呼び込む際
私はかねてからずっとやってみたかった事を
勇気を出してやってみた!

「いつもなら普通に紹介するんですけどね!
 どうしてもこれをやってみたいんです!」

そして声を張った!

「Former PWF heavy weight champion!
 Legend from Wigan,England!
 Billy “Human-Windmill” Robinson!! 」
(元PWFヘビー級チャンピオン!
 英国ウィガンが生んだ伝説!
 ビル「人間風車」ロビンソン!)

子供の頃に
「ごんぼちゃん」
「よっと」と見ていた通りに
片手をあげて
人間風車が舞台に現れた!

「お客さんに何かメッセージを!」

と言うと

「俳優として舞台に立ってる時は
 猪木と闘った時より緊張したぜ!」

と語って
プロレス・ファンから爆笑と拍手をもらっていた!

つい先日
「スネークピットJAPAN」の
「宮戸優光(みやと・ゆうこう)」さんから
「3月末にロビンソンが来日しますよ!」
とメールをもらっていた!
なんだかとっても会いたい気分だった!
どうしても会わなければいけないような
そんな気がしていた!
けど・・・
来ない事になった・・・。

今日!
なんだかいっぱいの想い出が
私の中に込み上げて来た!
子供の頃に「ごんぼちゃん」から
「この選手は外人だけど応援してもいい!」
という許可をもらった出会いの日から
今日こうしてお別れする日まで
沢山の「ビル・ロビンソン」が
私の中にいた!
英雄だった「ビル・ロビンソン」!
俳優だった「ビル・ロビンソン」!
舞台作品『人間風車』では
童話作家「平川」によって語られる
禁断のストーリーの中で
殺人鬼だった「ビル・ロビンソン」もいた!

今日
風車が止まった。

けどねミスター・ロビンソン!
風は吹いていますよ!
あなたからの風は
私の中で永遠に吹き続けるのです!

本日3月4日を
私だけの祭日
「Mr.Robinson’s Day」
と定めます!
「St.Robinson’s Day」
でもいいかなと思いましたが
あなたは自分が”聖人”と呼ばれる事など
絶対に嫌うでしょう?
まぁ
「ミスターって呼ぶのもやめろよ!」
と言うかもしれませんけどね!
結局あなたを「ビル」と呼ぶ勇気は
私には生まれませんでした!
けどあなたと会おうとした勇気は
私の中の大きな誇りなのです!

ありがとうミスター・ロビンソン!
そして
「額に入れて飾るから送ってくれよ!」
と言われていた
『Nicholas McPherson』のポスターを
結局見つけられなくてごめんなさい!

また来世で!