まるで寝ている間に
悪の組織から小さな箱に押し込められ
階段を何度か落とされたかのような
そんな体調だ!
(奴らの目的は何だ?)
昨日まではまったくそんな不調は無かった!
私はよほど夢中に
この三日間をひろぎ続けたのだろう!
また今年も「沖縄」で
「デルシネ・キャラバン」が走り出した!
那覇の泊(とまり)港から高速艇で約1時間!
到着した場所は人口600人の島
「座間味(ざまみ)」島だった!
これまで各所を巡った「デルシネ」だったが
離島での上映は初めてだ!
それだけに上映メンバーの一人である
「ゲイブ」こと芸人「ガブリエルみき」の
はしゃぎっぷりもただ事ではなかった!
ちなみに彼女は毎年沖縄入りするたびに
その呼び名が
「ゲイブ」から「アグー」に変わるので
以降は「アグー」と表記する!
港の目の前にある会場に機材や小道具を運び込み
翌日の上映に向けて準備に取り掛かっていると
デルシネ担当吉本社員の通称「ペルフェクト坂口」が
会場裏の小さなお店で
素敵な物を買って来てくれた!
これだこれだ!
二年前に初めて「デルシネ」上映で沖縄を訪れた際
「こまちゃん」こと「ミルクボーイ駒場」君が
”沖縄に住んでいた子供時代によく食べたアイス”
としてこれを私にご馳走してくれた!
それ以来
私はこの「きなこもち」アイスの大ファンだ!
昨年「デルシネ」で沖縄に行った際には
これが食べたくて那覇の街を
3〜4時間さまよったものだ!
沖縄の人々は
「どこでも売っている!」
と言うのだが
実は観光客が行くような場所には売っていない!
ほぼ駄菓子に分類されるアイスキャンディーで
関東・東北で言う「三色トリノ」
関西で言う「王将アイス」
などと同フィールドにある!
試しに関西で
「王将アイスが食べてみたい!」
と言ってみるといい!
「どこにでも売ってるやろ!」
と言うだけで
どこで売っているのかは誰も具体案を出さないはずだ!
そうした全国例に漏れず
「きなこもち」アイスもまた
駄菓子特有のそこはかとなくチープな味なのだが
我々の住む内地では”似たような物”すら存在しない!
なので私は毎回これを食べる事で
自分が沖縄にいる事を強く感じるのである!
そんな私の”味ひろぎ”をこっそり知っているあたりが
社員「坂口」に
「ペルフェクト英語で言うパーフェクト」
という形容詞が備わる所以の一つである!
沖縄での「デルシネ」も3回目となれば
全てが余裕に満ちている!
かつてのような
「あれはどうしよう?」
とか
「こうなった場合どうしますか?」
などという会議は不要だ!
我々はそれだけ多くの失敗と成功を繰り返してきた!
そのため撮影準備などさっさと終わってしまい
もうその日にする事は何もなくなった!
みんなで宿泊するペンションの一室に集合し
オリオンビールや泡盛で翌日の成功を祈願した!
そしてその勢いで
満天の星空の下
ちょいとした恐怖スポットなどを
わいわい探検した!
その様はもう完全に大学映画部の合宿である!
毎年「スタッフの目印が欲しい」と願い出るのだが
吉本興業は相変わらず「デルシネ」への関心が薄いため
我々は今回断りもなく強行手段を取った!
『ひろぐ』にはしばしば登場し
「バットマンのイラスト清書」で話題となった!
デザイナーの「はまつ君」に依頼し
スタッフ支給用の
「エル・シュリケン」Tシャツ
通称「シュリT」を作ったのだ!
先ほどの「きなこもち」アイス写真にも登場し
この写真では「こまちゃん」「アグー」と並んでいる
悪人相の男は一体何者か?
実はそもそものメンバーであった
”あまりにもいい奴”な沖縄芸人「ボンボ」が
急遽東京に移住してしまった!
そんな「ボンボ」の欠員を埋めるべく
今回送り込まれて来た沖縄吉本所属のピン芸人が
写真ですごんでいる
「どさんこ室田(むろた)」である!
街で急に話しかけられたら怖いような顔をした彼だが
「プロレス」ファンならば
ちょいと笑ってしまうだろう!
何をどう認めるのかは知らないが
レスラー「後藤洋央紀(ごとう・ひろおき)」選手本人が
”認める”と言い放った
オフィシャルな「にせ後藤洋央紀」である!
なのに別に「プロレス」な芸はしない!
「北海道」出身の彼はどういうわけか
”座間味村観光大使”という肩書きを持っており
「座間味」で彼を知らない島民はいない!
なかなかのくせものにして最強の助っ人だ!
そんな「むろちゃん」の口癖は
「僕サザンが好きなんすよ!」
である!
さて!
デルシネ成功祈願祝杯を上げ過ぎた翌日!
なんとか朝食をとった我々は
観光大使「むろちゃん」の案内で
ペンションから徒歩20分ほどの所にある
「古座間味ふるざまみビーチ」へと散歩に出かけた!
以前もロケハンで訪れた夢のような場所だ!
日本本土ではなかなかお目にかかれない
珊瑚礁の海岸で
水面に海底の模様が見える!
あまりにも美しい海だった!
ここでいい気になって「アグー」が撮影した
”にせグラビア写真”は
現在彼女のTwitterやFacebookなどで
燃え上がりそうな酷評を受けている!
深夜にインターネットで
巨大ナメクジや巨大ウミウシなどの写真を検索し
「おおおーっ!」
と喜びの声を上げるような人は
是非「ガブリエルみき」のSNSを検索してみるといいだろう!
ほぼ同じジャンルの写真に出会えるに違いない!
はてさて!
呑気な散歩を終えて会場入りしたところで
我々はやっと仕事らしい事を始めてみようと決心した!
過去の数々の反省から
シーンの追加を決断したのだ!
しかもそれは毎回現地で撮影するという愉快な作戦だ!
という事で追加シーンのために出演を依頼した相手は
舞台『ドーナツ博士とGo!Go!ピクニック』開場時に
客席を歩き回って大人気を博した
あの「ウェルカム・ロボット」である!
前回とはちょいと体格も性別も変わられたようだが
使用説明書を読んでみると
ドーナツ博士が組み込んだ人工頭脳(容量700MB)はそのまま
との事である!
今回の役回りは悪の手先だ!
撮影中から島民や観光客に写真を撮られ
さっそくの人気者であった!
無事に追加撮影も終了したところで
「座間味」の観光協会から依頼があった!
「よければエル・シュリケンさんとロボットで島を歩いて
イベントの宣伝をしてもらえませんか?」
最高にわかりやすいプロモーションだ!
人口600人の島では
そうした珍事があれば
すぐに島中で噂が広まると言う!
我々はさっそく珍事を起こすべく
島を練り歩く事にした!
どうだこの珍事は!
ホエール・ウォッチングで有名な「座間味」だが
こういう通行人は
鯨よりもはるかに珍しいはずだ!
子供達はわいわい寄って来てくれるし
通り過ぎる自動車は
「何事か?」
と速度を落としてくれた!
なかなかの宣伝効果である!
同じイベントのお笑いコーナーで出演する
「きゅうちゃん」こと「馬と魚」君も
宣伝のために会場前でギターを弾き始めた!
静かな島が次第ににぎやかになり始めた!
かくしていよいよ「デルシネ」開始だ!
「”出る映画”って一体何?」
島中から実に多くの物好き達が集まってくれた!
子供達もいっぱいである!
ところが!
この子供達というのが
本土や都会ではちょいとお目にかかれないぐらい
じっとしていない怪獣軍団だった!
話は聞かないし
走り出したら止まれないので
仕方なくグルグル回っているし
それはそれは驚くほどの暴れん坊ばかりだった!
しかし私がそれに腹を立てるような事は一切なかった!
むしろそんな子供達に出会えた事を
幸せに感じた!
「座間味」という島は高齢化とは無縁なのだそうだ!
島の魅力に吸い寄せられ
日本中から若い夫婦が移住して
小さな街を成している!
自然は多いし犯罪は少ない!
みんなが友人でみんなが家族のような
そんな人間関係で人々が暮らしている!
となれば子供を育てるには抜群にいい環境だ!
都会での子供の育て方は
「人がいっぱいいる場所ではお行儀よく!」
が基本だ!
しかし本来であれば
子供にとってそれはあまりにも不自然である!
フェスティバルで人が多く集まっているという事は
そこは楽しい場所であるはずだ!
楽しい場所で”楽しくしてはいけない”という教えに対して
もし子供達から”なぜ?”と問われたら
私にはうまい回答が見当たらない!
「楽しい時に楽しくないふりをしたら
どんないい事があるの?」
と聞かれて一体どう答えろと言うのか!
恐らくその質問に答えは無いと私は考えている!
嬉しい時には笑う!
悲しい時には泣く!
そうした自然な情動を否定する教育は
ただ単に戦時中の負の遺産でしかない!
感情と行動を結ぶ確実な線を
おかしな教育が断ち切ってしまうために
”嬉しいからみんなで殴る”
とか
”悲しいから誰かを殺す”
といった間違った配線が発生しているのだ!
「座間味」で子供を育てる親たちは
実に正常な子供を育んでいると私は感じた!
騒げ子供達よ!
我々は大阪から楽しみを持ってやって来たのだから!
そんな子供達なのだが
「デルシネ」の上映が始まると
驚くほど静かになって
真剣な眼差しでスクリーンに見入っていた!
上映前には
「みんなの力で完成させたこのへんてこな映画は
静かに見る必要なんかありません!
隣の人への迷惑など考えず
いっぱい騒ぎながら見てください!」
と私が説明しているにも関わらず
大人も子供も食い入るように鑑賞してくれた!
もちろん自分達の登場シーンには
スクリーンを指差して大喜びしてくれたし
こちらが用意したギャグにも
実に素直に反応してくれたのだが
あれほど一生懸命に
『エル・シュリケンvs悪魔の発明』
を見てくれたのは
「デルシネ」始まって以来かもしれない!
上映後に
タキシード姿の「エル・シュリケン」さんを呼び込むと
まるで「ビートルズ」か
「エルヴィス・プレスリー」が登場したかのように
子供達が一斉にステージ前に走り込み
「エル・シュリケン」さんに握手を求めた!
イベントの総合司会でもある「むろちゃん」が
懸命に司会を続けるのを完全に無視して
子供達はステージ上に手をいっぱいに伸ばして
「エル・シュリケン」さんの名前を叫んだ!
「エル・シュリケン」は戸惑いながらも
舞台の上から子供達の手を握った!
私は胸の中に熱いものを感じた!
それは昼間に散歩した海岸以上に美しい光景だった!
喜んでくれたのは子供達ばかりではなかった!
漁師をしている陽気な男性が私に話しかけてくれた!
「あんなにすごい人たちが出ている映画だとは
思ってませんでした!
俺はあの人たちと共演した
って人に話してもいいんですかね?」
それこそが「デルシネ」の本質だ!
私は観客全員にそう言ってもらうために
個人的な友情を利用して
多くの人達が喜んでくれるキャストへ
出演を依頼したのだ!
「もちろん!
なんなら”映画で主演した”と言ってもらっても
監督である私は否定しませんよ!」
彼はとても嬉しそうに笑いながら
私に手を振って去って行った!
ほんの20メートルも歩けば
街灯の明かりがなくなる海辺の夜道に立ち
私は彼を見送った!
子供達もまた
何か怪獣と戦うヒーローのようなポーズを決めながら
暗がりに消えて行った!
きっとその日から2〜3日ほどは
「エル・シュリケン」ごっこをして遊んでくれるのだろう!
私はその確信に思わず微笑んだ!
二年前の『ひろぐ』で私はこう書いた!
「失敗しても悔しくない事は
成功しても何ももたらさい!
失敗して悔しいと思えれば
それはその人が”正しい事”に挑んでいる証である!」
私や「デルシネ」に関わるスタッフが
”正しい事”に挑み続けているのは
まず間違いない!
てっとり早いお金や話題が欲しくて
いい加減な物を観客に見せている連中とは
決して一緒にされたくない!
観客の事を何一つ考えず
私情やしがらみなどで作った作品を
さも高尚な物のように見せている連中とは
文字で並ぶ事すらもお断りだ!
私は「デルシネ」を上映するたびに
エンターテイナーとは何をするべき存在なのか?
という問いの答えを一つずつ手に入れている!
今週末にはまた「沖縄」に飛び
今度は「浦添市」で「デルシネ」の上映を行う!
次に手に入る答えは
一体どんなピースなのだろう?
翌朝「座間味」を発つフェリーを待っていると
「座間味」村長が見送りに来てくれた!
「沖縄の他の場所はどうでもいいです!
座間味の事だけをこれからもよろしくお願いします!」
ここでありきたりの別れの挨拶をされたら
がっかりするところだったが
この村長の言葉は
素晴らしく嘘のないご機嫌な一言だった!
私はいずれ「デルシネ」の新作を作る事ができれば
必ず「座間味」に戻る事を約束した!
はてさて!
「デルシネ」のために延期となった
本ページにおける動画生配信
『語るひろぐ』有料登録制は
3月20日の20時より配信する事となった!
ゲストとして迎えるのは
滋賀県が生んだ名女優
「吉本新喜劇」の「末成由美」ねえさんだ!
「ゆみねぇ」と言えば
「王立新喜劇」のみならず
「PIPER」旗揚げ公演で主役を演じてくれた女優で
私とは実に関わりの深い存在だ!
彼女と1時間じっくり語り合ってみたいと思う!
「ごめんやしておくれやして・・・」はもちろん
「いんがすんがすん」や「らはーん」
といった理解不能なギャグの起源も尋ねてみるつもりだ!
どうぞお楽しみに!