「もしドラ」がヒットした時、ぼくは本というものの作り方を体得したように思った。本というのは本当に求められるものを作れば何らの細工もなしに売れる。それで、今後は死ぬまで本を作って生きていこうと思った。ようやく自分の天職ともいえるようなものに出会えた――そんな気がした。

ところが、その後に出す本はあまり売れなかった。より正確に言うと、段々と売れなくなった。2冊目より3冊目、3冊目より4冊目と、売上げが下がっていった。
その間、他の仕事はそれなりにうまく回っていたので、本の売上げだけが下がっている格好となった。もちろん、「もしドラ」が売れたことの反動もなくはなかったのだが、そうした状態が3年も続く頃になって、次第にある一つの考えを得るようになった。それは、「時代が変わっている。それも想像以上の早さで」ということだ。

時代は変わった。音もなく、しかし急激に、がらっとその様相を一変させた。
たった3年で、何もかもが変わってしまった。もう以前のやり方は通用しなくなった。出版のトレンドがすっかり変わってしまったのだ。
そのため「もしドラ」のやり方が通用しなくなった。2009年には通用した本の作り方が、2013年には通用しなくなった。だから、「本の作り方を体得した」という感覚は、必ずしも間違いというのではなかったが、もう一つの事実というものを、ぼくは見逃していたことになる。それは、「本の作り方は時代によって変わる」ということで、今の時代においては、4年前のやり方はもうすっかり通用しなくなっていたのだ。

これを知るのに、実に3年かかった。大変な道のりだったが、気づくことができたのは幸いだったと言えよう。
それから、ぼくは本の作り方というものを少しずつ変えていった。この1年は、新しい仕事のやり方を構築するのに費やしてきた。そうして、徐々にそのメソッドを組み立てていったのである。


そんな時、堀江貴文さんが自身のブロマガで「ミリオンセラープロジェクト」なるものを始めた。メンバーの一人は、「もしドラ」の編集者であった加藤貞顕さんだ。
その話を聞いた時、すぐに「面白そうだな」と思った。というのも、ここ1年のぼくのテーマは「今の時代に対応した新しい本を作ること」にあったので、「100万部売ることを目標に本を作る」という堀江さんのコンセプトは、ぼく自身の取り組みと大きく被るところがあったからだ。

それで、ぼくもそのプロジェクトに興味を覚えた。そのため、ある種の思考実験として「ぼくだったらどんな企画を立てるだろう?」ということを考え、それを人に話したり、ブロマガの記事で発表したりもしたのである。

堀江貴文さんのミリオンセラーを勝手に企画する(3,663字)

そうしたところ、夜間飛行の井之上達矢さんが、この取り組みを面白いと思ってくださり、一緒に本を作りましょうと声をかけてくれた。それで、新しい本を作ることになったのだ。11月5日に発売する、「部屋を活かせば人生が変わる」である。

Amazon.co.jp: 部屋を活かせば人生が変わる: 部屋を考える会

この本には、ぼくの考えた「今の時代に対応した新しい本の作り方」を詰め込んだ。それは、3年に及ぶ苦闘の中で得ることのできた「時代は大きく変化している」という気づきと、その後の1年間にわたる研究の末に編み出したものである。

では、その「今の時代に対応した新しい本」とは、一体どういうものなのか?
これについて、ポイントは3つある。

1つは、作者の気配が薄くする、もしくは完全に消す――ということだ。
今の時代は、以前のように作者が前面に出る本の作り方は難しくなった。もちろん例外はいくらでもあるが、そもそも、読者が作者のファンになったり、その発言を楽しみにする機会が減っているのだ。
これを別の言葉でいうと、「作者が主役の本は求められていない」ということだ。そうではなく、「読者が主役の本が求められている」のである。
だから、今度の本では作者の気配はとことん消し去った。そうして、読者が主役であることに徹底的にこだわった。いうなれば、「作者の本」から「みんなの本」へとシフトさせたのだ。
そのため、作者もぼく一人ではなくし、みんなで作った。作者名が「部屋を考える会」となったのはそのためである。

2つは、新しい価値観を提示する――ということだ。
今は、変化の時代である。だから、本には新しい時代の新しい価値観の提示が求められる。その要求に応えることこそが、今の時代に対応した新しい本の作り方だ。
ただ、こういうと「そんなの、古くからある当たり前の手法だ」という反論をお持ちになる方もいるかもしれない。しかし、それに対してぼくが考えたのは、「これまではその当たり前のことが当たり前に行われていなかった」ということだ。だから、なかなか本が売れないという状況が続いたのだ。
そこで、この本ではこれまでの「物を大切にする」という価値観に対し、「空間を大切にする」という新しい価値観を提示することに、何よりこだわった。それを妥協することなく、とことんまで突き詰めたのである。

3つは、「変化」をテーマにすることだ。
その本自体が、読む人にとって「変化の媒体」となることを目指した。読む前と後とでは、読んだ人自身が大きく変化するような本を作ろうとしたのだ。
――というと、これもやっぱり「当たり前のこと」のように聞こえるかもしれない。なぜなら、「変化」というのはオバマ大統領が「チェンジ」という標語を掲げて以来、ここ5年ほどのブームだからだ。実際、世の中には「変化」をテーマにした本に溢れている。

しかしながら、それらの本をつぶさに見ていくと、あることに気づかされる。それは、そのほとんどが「内面」の変化を促すものということだ。しかしながら、それに比して「外面」をテーマにしたものは驚くほど少ない。そこにポイントがあったのだ。
「外面の変化」というのは、見た目にも分かりやすく、また面白い。にもかかわらず、それと真っ向から向かい合った本は意外に少なかった。
そのためこの本では、「外面的な変化」に徹底的にこだわった。本を読む前と後とでは、読者の外面に大きな変化を促すようなものにしようとしたのである。

そんなふうに、この本にはここ1年の間に積み上げてきた、「新しい本の作り方」の全てを注ぎ込んだ。その意味で、ぼくにとっては「新しい挑戦」ともいえるものとなったのだ。

ところで、そんな新しい本の話を縦横に展開するニコ生を、今夜放送する。

茂木健一郎vs岩崎夏海・緊急対談「裏ミリオンセラープロジェクトvol.8天才とは何か?」

ゲストは、なんと茂木健一郎さんである。どんなお話を聞けるのか、ぼく自身、今から楽しみだ。