Vol.293 結城浩/ハンロンのかみそり/不得意なことのメリット/自分という大きな本を書く - 仕事の心がけ/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2017年11月7日 Vol.293

はじめに

おはようございます。結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

 * * *

『数学ガール6』の話。

最近はずっと『数学ガール6』を書いています。

ようやく先週、第6章をまとめてレビューアさんに送りました。 現在は第7章に突入しました。

予定では第6章は2017年10月中にまとめるつもりだったのですが、 11月まで入り込んでしまいました。 10月の終わりには、以下のイラストのような気分でした!

 ◆わーん、もうすぐ月末!

2017-10-25_last.jpg

結局、2017年10月34日……じゃなくて、11月3日にまとめました。

『数学ガール6』は第10章までなので、 残りは第7章、第8章、第9章、第10章ですね。

何とか今年中に脱稿したいのです……!

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トイレットペーパーの話。

生物学者のHiroshi Sasakiさん(@popeetheclown)が、 こんなツイートをしていました。

 トイレの紙切れ問題に対する、とてもアメリカらしいソリューション。

 https://twitter.com/popeetheclown/status/922975337746706433

投稿された写真は、 トイレの中にトイレットペーパーホルダーを 約20個(!)設置して、 トイレットペーパー切れを防ごうというものです。

日本のトイレだと、ロールが二個収納できるホルダーはよくありますが、 それを(力まかせに)増やしたものといえるでしょうか。

この写真を見て「なるほどね」と思いつつ、 「これってうまくいくのかな」とも思いました。

「ペーパーが切れたらいや」だから、 「たくさんのペーパーをストックすればいい」 というのは確かに良い考えのようです。

でも、いくらたくさんのペーパーをストックしても、 使い続けていたら、いつかは切れることになります。 そのときにペーパーが適切に補充されなければ、 結局はペーパー切れが発生してしまいます。

たくさんのペーパーをストックすることは、 補充回数を減らす役には立ちますが、 補充回数をゼロにはできません。 ちゃんと補充するという「運用」は残るのです。

結城は、先ほどのツイートに対して、 「すべての紙が切れてたら

 『運用の大切さ』

と見出しがつきそうですね」 とリプライしました。すると、 「実際、ほとんどが切れかかっていたこともありました」 とのお返事をいただきました。なんと!

「運用」が大事という話では、

 「薬を飲んで病気を治す方法」

というものがあります。 どういうことかというと、 薬を飲んで病気を治すためには:

 ・良い薬を手に入れること
 ・その薬を忘れずに飲み続ける仕組みを作ること

という二つが必要だというのです。 もちろん「その薬を忘れずに飲み続ける仕組み」が、 「運用」に相当します。

似た話は、いくらでも考えられますね。

 「問題集を使って学力を上げる方法」

というのは:

 ・良い問題集を手に入れること
 ・その問題集を使って継続的に勉強すること

という二つが必要ですね。

「運用」を考えるのは、とても大事なのです。

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新聞の公正さの話。

あるとき、結城は、

 「新聞というメディアは公正さが必要ではないだろうか」

という主旨の話をネットに書いていました。 すると、

 「新聞に公正さを求めるなんて誤りだ」

という主旨の意見がやってきました。

確かに現実問題として、 新聞に公正さはないのかもしれません。

だったら、新聞社自身はどう考えているんだろう、 と結城は思いました。

現実問題がどうか、というよりも新聞の理想の姿として、 公正さは必要だと思っているのか、どうか。

そこで、日本新聞協会の新聞倫理綱領を見てみると、 以下のようにありました。

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 新聞は歴史の記録者であり、
 記者の任務は真実の追究である。
 報道は正確かつ公正でなければならず、
 記者個人の立場や信条に左右されてはならない。
 論評は世におもねらず、所信を貫くべきである。
 日本新聞協会 新聞倫理綱領
 
 http://www.pressnet.or.jp/outline/ethics/
 
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これはたいへんいい主張である、と結城は感じました。 特に「報道」と「論評」を分けているところがすばらしいと思います。 「報道」するときと「論評」するときの基準を明確に分けており、 「公正」は「報道」の方に登場していますね。 これはもっともです。 「論評」の方は新聞としての主張を行うことになりますから、 「公正」を押し出すわけにはいきません。

上に書いたのは「日本新聞協会」のものですが、 おそらく各新聞社にも同様の綱領があり、 その中には「公正な報道」という趣旨のことが書かれているはずです。 少なくとも朝日新聞と読売新聞にはありました。

ですから結城は、 新聞に対して、少なくとも新聞の「報道」に対して公正さを求めることは、 まちがっていないと思っています。 なぜなら、新聞自身が「公正な報道」を掲げているからです。

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京都の話。

「日本に、京都があってよかった。」というコピーを見かけました。

 ◆日本に、京都があってよかった。
 http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000035115.html

これは、京都市が、全国に京都をアピールするポスターだそうです。 上のリンクでは京都の美しい情景を使ったポスターを多数見ることができます。

ところで結城は「日本に、京都があってよかった。」は、 どうして京都弁じゃないんだろうか、と一瞬思いました。

地域をPRするポスターは全国にありますが、 少なからぬ数が地元の「方言」をフィーチャーしていますから。

でもすぐに、 「日本に、京都があってよかった。」というコピーならば、 京都弁にしないのが正しいし、 またそこが「うまい」ところだと気づきました。

地元の「方言」を使ったコピーは、 その地元の人が「自分の町においでよ」とアピールするものです。 それに対して「日本に、京都があってよかった。」というのは、 「京都以外の人が思わず口にした京都評価」 という姿をしているからです。

そういえば、有名な「そうだ 京都、行こう。」というコピーも、 当然ながら京都弁じゃないですね。

 ◆そうだ 京都、行こう。
 http://souda-kyoto.jp

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引用リツイートの話。

Twitterには、 誰かのツイートをそのままリツイートするだけじゃなく、 コメントを付けてリツイートする機能があります。 Twitter公式では「引用ツイート」と呼んでいますが、 一般には「引用リツイート」と呼ぶこともよくあります。

 ◆既存のツイートのリツイート - Twitter
 https://support.twitter.com/articles/20170062

自分へのリプライならばすぐにわかるのですが、 引用リツイートでコメントされると、 見逃してしまうことがあります。

そこで、自分のユーザ名を入れると「引用リツイート」 を検索してくれるサイトを作りました。 自分のツイートがどんなふうに誰から「引用リツイート」 されているかを見たい人向けです。

場合によっては、 自分が批判されているのを目にするかもしれませんので、 そういうのが苦手な方は使わない方がいいと思いますが……

 ◆引用リツイート検索
 https://depot.hyuki.net/retweet-search/

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アイコンの話。

結城はTwitterのアカウントを二つ持っています。 一つは普段使っている @hyuki で、もうひとつは @hyukibot です。 @hyukibot はTwitterのbotを作る練習として作ったもので、 一日一回、自動的にツイートしています。

 ◆結城浩(自動投稿)
 https://twitter.com/hyukibot

このhyukibotは、普段放置していて読んでもいないのですが、 あるとき見てびっくり。なんということでしょう。 アイコンがたいへん汚くなっていたのです。 そこで、きれいなアイコンに変更してみました。 Before/Afterは以下の画像の通りです。 だいぶきれいになりました!

 ◆アイコンのBefore/After

2017-10-31_hyukibot12.png

汚くなったといっても、 電子ファイルですから経年劣化したわけではありません。 コンピュータやスマートフォンの画面の解像度が大きくなり、 ピクセル数が多いアイコンが主流になったため、 むかし作った小さなアイコンが拡大表示され、 そのためにギザギザ(ジャギー)が目立つようになったのですね。

結城がアイコンにしている「スレッドお化け坊や」は、 2012年にアウトライン化をすませていますので、 任意の解像度での画像ファイルを作ることができます。

「スレッドお化け坊や」は2001年頃にビットマップで作りました。 2012年ごろに「これからずっとディスプレイの解像度は高くなるから、 これじゃらちがあかないな」と思いアウトライン化を行ったのです。

画像のアウトライン化(ベクタ化)というのは、 画像をビットマップとして作るのではなく、 ベジエ曲線などのカーブの集まりとして作るということです。

ビットマップをアウトラインにするツールもあるようですが、 結城は原始的な方法で作りました。 つまり、手動です!

ドローツールとして結城はVisioを使いました。 もとのビットマップを一つのレイヤーで表示しておき、 そこに重ねた別のレイヤーでカーブを描いていきます。

環境をMacに移すときに、 VisioのファイルをOmniGraffleに移し、 現在はOmniGraffleでメンテナンスをしています。 もとのファイルはアウトラインのままにしておき、 アイコンを作りたくなったときに、 必要な大きさのビットマップにしています。

 ◆OmniGraffleで「スレッドお化け坊や」を編集

2017-11-06_icon.png

ネットで活動する人にとってアイコンは重要です。 ビットマップで管理していると解像度の問題が生じるので、 アウトライン化しておくといいですよ。

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それではそろそろ、 今回の結城メルマガを始めましょう。

どうぞ、ごゆっくりお読みください!

目次

  • はじめに
  • 冬物のコートを買いに出て
  • ハンロンのかみそり
  • 自分という大きな本を書く - 仕事の心がけ
  • おわりに