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Vol.070 結城浩/フロー・ライティング/マルチン・ルターとスクリーンショット/
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Vol.070 結城浩/フロー・ライティング/マルチン・ルターとスクリーンショット/

2013-07-30 07:00

    結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2013年7月30日 Vol.070

    はじめに - マルチン・ルターとスクリーンショット

    おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

    結城はCodeIQというIT技術者向けのサイトにときどき問題を出しています。 先週の月曜日に出した問題に対して、一週間ほど過ぎてみると挑戦済みは98名にものぼりました。 たくさんの挑戦者が出てうれしい限りです。 あまりにも好評だったので、128名だった受付枠を256名に増枠してもらいました。

    問題は難しすぎると解けなくてつまらないし、易しすぎると解いてもつまらないので 難易度の調整がほんとうに難しいんです。自分で問題を作っていると、 その問題のことを長時間ずっと考えているので、だんだん易しく見えてくるんですよね。 挑戦した方が、

    「なんだ、あっけなく解けてつまらなかったな」

    と思われてしまうんじゃないかとドキドキします。

    解答者への評価とフィードバックは受付終了後に行うことにしているのですが、 いままでに提出された解答をちらちら見ると、 みなさんそれなりに楽しんでくださっているようなので一安心です。 問題を解く過程の中にストーリーというかドラマを見いだした方もいて 問題を作ってよかったなと思います。

    〆切は2013年8月5日ですので、もしあなたがプログラミングをなさる方なら、 ぜひチャレンジしてみてくださいね。 評価5の方から抽選で『数学ガール/フェルマーの最終定理』の コミックス最新刊をプレゼントいたします

     ◆星間飛行ルートを作ろう!
     https://codeiq.jp/ace/yuki_hiroshi/q411

     * * *

    最近はずっとMacBook Airを使っています。 新しい環境なので学ぶことも多く、ツイッターで他の方に教えてもらったり、 Webで検索していろんなやり方を見つけています。 そして、学んだことを自分なりにまとめてWebに書くようにしています。 たとえば、以下のように。

     ◆Macで以前のWindowを復帰させずに新たにファイルを開く方法(open --fresh)
     http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20130723/mac

     ◆Vimで三点リーダー周りで表示が乱れる現象を解決(ambiwidth)
     http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20130724/vim

    それはそれでいいんですが、こういうページ(これをするにはこうすればいいよ)を 書くときには「パターン」の技法に則って書くようにしています。 具体的には、

     前提、問題、解法

    という見出しを立てて、 「このブログエントリは《こういう問題を解決するものです》」 ということがわかりやすくなるように書くということです。

    自分がそこに至った経緯とか、 いろいろ試行錯誤したことなど、細かい苦労話はいったん忘れる。 そして、

     ・こういう問題がある
     ・それはこう解決する

    のようにドライに書くのです。 それは自分自身があとから読み返してわかりやすくするためでもありますが、 このようなパターンに乗せること自体がなんだか書いていて楽しいんですよね。

    という具合でしばらく書いていたのですが、 最近どうもこの「前提」というのがうっとうしく感じるようになりました。 もっとギュッと圧縮した形で書けないかな……。

    そこで前提、問題、解決というパターンではなく、 もっと短く「問い」と「答え」にして、次のようなエントリを書きました。

     ◆Macでスクリーンショットを撮るのはCommand + Shift + 3 や 4
     http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20130725/mac

     問い
     ・Mac OS Xでスクリーンショットを撮るにはどうしますか。
     答え
     ・Command + Shift + 3 で「画面全体」のスクリーンショットが撮れます。
     ・Command + Shift + 4 で「範囲指定」したスクリーンショットが撮れます。
     ・Command + Shift + 4 の後に Space で「ウインドウ」のスクリーンショットが撮れます。
     ・撮った画像ファイルはデスクトップに保存されるようです。

    あるいはまた、こんなエントリも書きました。

     ◆Macでコマンドラインからコピー&ペーストを行う(pbcopy, pbpaste)
     http://d.hatena.ne.jp/hyuki/20130729/mac

     問い
     ・Macでコマンドラインからコピー&ペーストを行うにはどうしますか。たとえばファイルの内容をクリップボードに入れたりしたいのです。
     答え
     ・pbcopyとpbpasteというコマンドを使います。pbはpasteboardの略のようです。

    問いが問題で、答えが解決です。 しばらくはこういうパターンで書き進めてみようと思っています。 そして気づいたのですが、このような「問い」と「答え」は、 まさに「対話」なのですよね。問いかけがあって、答えがある。 そのやりとりで問題が解決していく。そういう対話です。

    このような「問い」と「答え」のパターンは信仰問答集(カテキズム)にも見られます。 神学者のような人ではなく、一般の人や子供に対してキリスト教の教義を伝えるための文章ですね。 問いとそれに対する答えという「ミニマムな対話で教える」ということです。

    結城は以前、マルチンルターの信仰問答集を翻訳したことがあります。

     ◆マルチン・ルターの小信仰問答書
     http://www.hyuki.com/trans/smallct.html

    Macのスクリーンショットの撮り方を伝えることと、 神様の意味を伝えることはずいぶん次元が違うようですけれど、 「問い」と「答え」という「ミニマムな対話で教える」 というのはとてもおもしろいと思います。

     * * *

    問いと答えで思い出しました。

    ツイッターで先日、ある方から

     問い:
     数学ガールの設定やプロットの制作には
     どれくらいの時間をかけているのでしょうか。

    という質問をいただきました。 こういう質問はとてもありがたいです。

    というのはこのような問いかけに答えることによって、 この秋9月に刊行される書籍『数学ガールの誕生』の告知を行うことが できるからです(!)

     答え:
     半年から一年くらいです。
     数学ガールの執筆にご関心があるなら、
     この秋に刊行の書籍『数学ガールの誕生』をお見逃しなく!(^^)

    こういう質問はありがたいですね。

     * * *

    別の話題。

    家内がきゃあきゃあ声を上げておもしろがった「動き出す塗り絵アプリ」の話。

    要するにいわゆるAR(Augmented Reality, 拡張現実)のアプリで、 iPhoneやAndroidのアプリのカメラで紙に描かれた鳥や飛行機を写すと それが立体的な動画になって動き出すというものです。詳細は以下に。

     ◆「ここにぬりえがあるじゃろ?」
     http://togetter.com/li/537683

    話に聞いたりテレビで見たりするのと違い、 いつも使っているiPhoneの手元で動き出す感覚はなんともいえず楽しいです。 しかも、このアプリは紙に描いた絵にじぶんで色を塗ると、 その塗り絵が立体になって動き出すのです!

    そういえば今年の5月にロッテのアイス「爽」のパッケージの上で ももいろクローバーZがライブを行うというARのコラボレーションもありました。

    何とも楽しい時代になりましたね。

     * * *

    そして先週最大のニュース(結城の中で)がこれです。

     ◆Knuth先生から小切手をいただきました!
     http://www.hyuki.com/d/201307.html#i20130726235959

    Knuth先生(クヌースせんせい)というのは、コンピュータ科学者・数学者で、 アルゴリズムに関する決定版的な書籍The Art of Computer Programmingを 執筆なさっている方です。 Knuth先生はまた数式を含んだ文書を組版するときに全世界で使われている TeXというソフトウェアを開発した方でもあります。

    このKnuth先生はたいへんな完璧主義で有名でして、 自分の書籍の誤りをできるだけなくそうと考え、 読者が書籍の誤りを指摘した場合には$2.56の小切手をプレゼントしましょうと 呼びかけています。 ただし、そのためには「世界で最初にその誤りを指摘する」のが条件です。

    でも、そんな呼びかけをするほどの完璧主義者の先生が書いた本の 誤りを見つけるのは容易なことではありません。ということで、 「Knuth先生の小切手をもらった」というのはコンピュータに関わる人にとっては たいへん名誉なことなのです。いわばアルゴリズマー垂涎のプラチナチケットです!

    結城は1997年に一度、Knuth先生の乱数アルゴリズムのパラメータに条件が 抜けているのを発見して連絡しました。しかし、そのときはすでに先に指摘をした人がいて、 残念ながら小切手をゲットすることはできませんでした。

    しかし今回、Knuth先生の最新刊The Art of Computer Programming,Vol.4Aでの 誤りを見つけ、めでたく(?)世界で最初に指摘することができたのです。

    ところでこの小切手は、実は本物の小切手ではありません。 数年前からセキュリティ上の理由により、本物の小切手ではなく、 架空のBank of San Serriffe(サンセリフ銀行)のものになっています。

    実際のところ、Knuth先生のプラチナチケットをゲットした人で、 それを換金するなんて人はほとんどいません。 換金してもたった $2.56 にしかならないんですから、 それよりは知り合いに自慢した方がいいですよね!

    なので、実は本物の小切手である必要はまったくないのです。 ということで、サンセリフ銀行の口座はWeb上に掲示されています。 Hiroshi Yukiもちゃんと掲載されていますよ!

     ◆The Bank of San Serriffe
     http://www-cs-faculty.stanford.edu/~uno/boss.html

    Knuth先生、 「書籍の誤りを見つける」というだけのことを これだけ楽しく盛り上げるユーモアというか茶目っ気というか、 なかなかすごいですよね! このサンセリフ銀行のロゴマークは奥さんのジルさんがデザインしたらしいです。 楽しんでるなあ。

    TwitterやWeb日記でこの「Knuth先生の小切手もらった話」をしてから、 その意味をよくわかっている方々からお祝いのメールやメッセージをたくさんいただきました。 結城のWeb日記も、最近ではめずらしくたくさんのはてなブックマークがつきました。 とてもうれしいです。みなさんありがとうございます。

    ちなみに、盛り上げるという意味ではうちの家内も一役買っています。 家に帰ったとき、ふだんは何もない床の上に、ぽつんと封筒がひとつ。 私はそれを「これ、何だろう……」と思って拾い上げます。

     めずらしいな、海外からの封筒……どこからだろう。
     ん、Stanford?……お?
     こ、これは、おおおおおおおっ!!!

    という感じで、一人玄関で盛り上がっていました。 封筒をそんな風に置いたのは家内の演出です。 リビングに行ったら、家内はすました顔で、

     「驚いたでしょ?」

    と一言。驚きました。

    実はKnuth先生に誤り指摘のメールをしたときに、 奥さんにちらっと話したんですよ。ここが気になるからメール送るよって。 誰も換金しない小切手の話とかも合わせて、その意味を説明して。 話したのはずいぶん以前のことなのに、 Stanfordから封筒が届いたとき、家内は「ははん、これか」と思い出したんですね。

    「よく思い出したね」と私が言うと家内は「ふふ。当然でしょ」という顔でした。

     * * *

    さてさて、そんなところでそろそろ結城メルマガを始めましょう。 今日はフロー・ライティングのコーナーで「月に託す」というお話をお送りします。

    それから「文章を書く心がけ」では、 先週のWeb連載『数学ガールの秘密ノート』で公開した「金属でできた変なサイコロ」の 作ったときの裏話をお届けします。

    それでは、どうぞお読みください!

    目次

    • はじめに - マルチン・ルターとスクリーンショット
    • フロー・ライティング - 月に託す
    • 文章を書く心がけ - 変なサイコロを作る
    • 次回予告 - 教えるときの心がけ
     
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