Vol.191 結城浩/何をねらって本を書くか/読者を置いてけぼりにしない/正当な評価 - 仕事の心がけ/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2015年11月24日 Vol.191

はじめに

おはようございます。 いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

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月刊群雛の話。

先週もお伝えしましたが、 結城浩は『月刊群雛』という電子雑誌の12月号(11月24日売)に、 ゲストコラムを寄稿しました。タイトルは、

 「セルフブランディングで大切にしていること」

です。この文章は、 これから売り出すクリエイタさん向けに書いたもの。 ちょうどこの結城メルマガが届く日に、 電子書籍ストア各店から配信される予定です。

 ◆群雛ポータル
 http://www.gunsu.jp/p/books.html

なお、編集長から転載許可を得ていますので、 もしかしたら「結城メルマガ」に結城のこのコラムを、 後日掲載することになるかもしれません(未定です)。

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書店さんの話。

先日はSBクリエイティブ営業さんの案内で、 書店さん何件かへご挨拶にうかがいました。 結城浩の本を読者さんに届けてくださることに感謝し、 新刊『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』のお願いのためです。 お忙しい中、お時間を取ってくださった多くの方々に感謝します。

主にプログラミング関連書籍と数学・理学関連書籍のコーナーをまわりました。 店長・副店長さんへのご挨拶はもちろんのこと、 書店員さんに直接お礼を言えたのがうれしかったですね。 読者さんのようす、結城の本を買ってくださる方々の話など、 現場でなければわからないことを多々うかがいました。

書店員のみなさんはとても本が大好きで、 みなさんそれぞれに熱く自分の現場のことを語ってくださいました。 わたし自身もすごくいい刺激を受けましたね。 結城は著者として、読者さんのことを注目しているつもりですが、 書店員さんの目というのは、また独特です。大変勉強になりました。

ある書店員さんは、結城の本のことを熟知していて、 わたし自身が圧倒されるほどでしたよ。 わたしの本がいつ、どれだけ売れてるか、詳細に把握しているのです。 『暗号技術入門』の動きにはみなさん口々に驚いておられました。

結城は多くの仕事の時間を一人で過ごしますが、 今日のようにわたしの本をていねいに・熱心に取り扱い、 売ってくださる書店員さんの話を聞くのは非常に良い経験でした。 その信頼に応えるため、しっかり書かなくては! と心を新たにしています。 今回座持ちをしてくださったSBクリエイティブの営業さんにも感謝します。

ところで、ジュンク堂書店池袋本店さんでは、 ずっと「結城浩書店」という企画を行ってくださっています。 とっても強く「結城推し」してくださり、たいへん感謝です。 「結城浩書店」コーナーでは、結城の本はもちろんのこと、 さまざまなジャンル(プログラミング、数学、絵本……)で、 結城がオススメする本が並べてあります。

今回お邪魔したときに、色紙とPOPを書かせていただきました。 実はここには、結城が10年前に書いた色紙もあるのです(!)。 びっくりですね。

以下のツイートでは、結城の書いた色紙の写真がありますが、 そこでは「2005年4月」と「2015 11/6」という日付も見えますね。

 ◆ジュンク堂書店池袋本店さんの色紙写真ツイート
 https://twitter.com/junkudo_ike_pc/status/662551826336604161

本を書く仕事をしている身として、 結城はいつも書店さんに深く感謝をしています。 何しろ、読者さんに本を渡す「アンカー」の役目を果たしているわけですから。

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営業さんの話。

先日、上でお話ししたように、 SBクリエイティブの営業さんと書店さんに行き、 書店員さんの話を聞いたり、書棚を巡ったりしました。

そんな中、本のPOP(宣伝用の小さな紙の広告)が倒れていたり、 平積み本が斜めになっていたりすると、 営業さんはそれをこまめに直していることに気付きました。

書棚の間を結城とおしゃべりしつつ、 営業さんは倒れたPOPを立て、本を揃えていきます。 とても自然なしぐさで、おそらく無意識に。 たとえ、斜めになっているのが他社の本であっても。

とっても素敵ですね。

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誤植の話。

誤植がゼロという本は恐らくほとんどないと思います。 結城の本は誤植がかなり少ない方ですけれど、 残念ながらゼロにはならないですね。

誤植が多い本は読むのがつらいものです。 先日、ある数学系の参考書を読んでいて、 誤植が多くてつらい思いをしました。

本を読んで「内容」に集中したいのですけれど、 少しの間隔をあけて誤植が見つかるので、 頭がそのたびに「校正モード」に切り替わってしまうのです。

特に、今回ひっかかった本は、 本全体のテーマに関わるキーワードを著者がコピペミスしていて、 しょっちゅうまちがった単語が登場するのです。 これは、読んでいてかなりつらい体験でした。

 ◆誤植が多い本を読んでいるときの結城(イメージ図)

2015-11-07_mistake.jpg

誤植が多いと読みにくいのはもちろんですが、 テキストに関する信頼が落ちる難点もあります。 読者が、入り組んだ文章を読み解いたり、 細かい数式を追うためには、本に対する「信頼」が必要なのです。

「ここにはきっと大事なことが書いてあるはず」や、 「この数式を追うことには意味があるはず」と思って読者は読む。 でも、誤植があちこちに見つかると、 読者の心には「ほんとにちゃんと校正したのかなあ」や、 「数式にまちがいがあったらいやだなあ」という思いが浮かびます。 もちろんこれらの思いは読み進める意欲を落としてしまいますね。

今回は、あまりにも誤植が多かったので、 途中から「この本を校正してやろう」という気持ちに切り換えました。 すると、意外に理解が進むこともわかりました(苦笑)。

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本と旅の話。

村上春樹の『遠い太鼓』が電子書籍化予定とのことです。 異国で暮らしながら作品を書く、ギリシャとイタリアの滞在記ですね。 結城はこの本、すごく好きです。何度も読み返しました。

どうしてこの本が好きなのか、うまく説明できないんですが、 郷愁を感じるというのか。旅情を感じるというのか。

 ◆『遠い太鼓(講談社文庫)』(村上春樹)
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B01710YP4I/hyam-22/

そういえば、妻からよく「あなたはどこででも仕事できるんだから、 海外を旅しながら仕事をしてもいいわけよね?」と言われる。

確かに理屈はそうだし、 「海外を旅しながら文章を書いて生活する」 なんて生活ができたらいいのかもしれないけれど、 なぜか毎日同じカフェの同じ席で文章を書いている。

判で押したように同じ生活の方が、 文章の微妙な手触りを明確に感じ取れるというのだろうか。 自分でも、よくわからない。

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旅といえば。

つい先日、町を歩いていて外国から来た方とおしゃべりした。 観光で東京に来ている若いご夫婦だ。 スイスから来たという。 スラッとした奥さんとひげもじゃの旦那さん。

そのときのきっかけは、 道路で奥さんの方がカメラを構えていたので、 結城がちょっと立ち止まったことだった。 結城はそういうことがよくある。

結城は、 「日本はいい国でしょう? ぜひ楽しんでくださいね。 外国からのお客様を歓迎していますよ!」 と拙い英語で言う。

ご夫妻のほうも拙い英語で、 「ありがとう、 この国はとっても素敵だよ。安全だし、明るいし、 みなさん優しいし!」 と答える。

たったこれだけの会話だけど、 小さいながらも大切な外交ではないだろうか。 と思った。

これだけのちょっとしたやり取りでも、英語だ。 スイスの若夫婦と日本の文章書きを繋ぐのは、英語だ。

学校で学んだ英語で小さな外交ができる。 異国の人とちょっぴり話し合って、握手ができる。 これはすばらしい「言葉の力」ではないだろうか。

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理解と説明の話。

いつも思うし、結城メルマガにも何度も書いていること。 「本を書く」のは、自分が学ぶいい機会である。 本を書くということは、知らない人にもわかるように説明しようとすること。 そして、真剣に説明しようと試みてはじめて、 「自分がほんとうには理解していなかった」と気付くことになる。 ひとは、自分が理解してないことを本に書くことはできないからだ。

『数学ガール/フェルマーの最終定理』を書いてはじめて、 「互いに素」を理解したような気がする。

『数学ガール/ガロア理論』を書いてようやく、 線形空間(ベクトル空間)と「お友達」になれた感覚がある。

『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』を書いてはじめて、 「形式的体系」や「証明可能性と真偽の差異」を理解したかもしれない。

『数学ガール/乱択アルゴリズム』を書いてはじめて、 確率分布が腑に落ちた感じがする。

「数学ガール」シリーズに登場する高校生の「僕」は、白い紙が好きだ。 『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』で「僕」が、 いとこのユーリに言ってたことを思い出す。

 ほら、ここに白い紙がある。
 ここに図を描いて説明してごらんよ。

そうやって「僕」はユーリに cosθの説明をうながす。 白い紙を渡され、何も見ずにそこに書けたことだけが、 あなたの理解していることなのだと言わんばかりに。

結城はいつも自分に対して、同じように言い聞かせている。 本を書いてみよ。そこに書けたことだけが、 自分の理解していることなのだよ、と。

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手紙の話。

私はこの「結城メルマガ」を手紙のような感覚で書いています。 もちろんメールなんですから、 あたりまえといえばあたりまえなんですが。 「あなた」への手紙という感覚で書いていると、 何だかとてもしあわせな気持ちになるんです。

手紙といえば、よく使われる表現として「未来への手紙」 というフレーズがあります。 でも、考えてみるとすべての手紙は「未来への手紙」ですよね。 「過去への手紙」を出すのは極めて困難ですから!

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さて、それでは、 そろそろ今週の結城メルマガを始めましょう。

あなたへの手紙、未来への手紙を、 どうぞ、ごゆっくりお楽しみください!

目次

  • はじめに
  • 何をねらって本を書くか - 本を書く心がけ
  • 読者を置いてけぼりにしない - 文章を書く心がけ
  • 正当な評価 - 仕事の心がけ
  • お絵描きマイブーム
  • おわりに