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小説『神神化身』第十八話 「集合談話の夜明け前」
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小説『神神化身』第十八話 「集合談話の夜明け前」

2020-09-18 19:00
    Twitter公式アカウント(@kamigami_keshin)にて連載中の小説『神神化身』本文アーカイブです。


    小説『神神化身』第十八話

    「集合談話の夜明け前

     「あーっ、櫛魂衆めちゃくちゃ話題になってる! うわー、マジでか! えー、嬉しい……潤うわぁ……
     比鷺がスマホを握りしめながら、嬉しそうに足をぱたぱたとさせる。スマホに向き合っている比鷺は難しい顔をしているか、真っ青な顔をしているかの二択なので、ご機嫌なのは珍しい。三言にはインターネットのことはよく分からないが、比鷺が幸せそうなのはいいことだと思う。
    「エゴサでこんなにハッピーな結果になるなんて久しぶり~! はあ、櫛魂衆楽しみだって。素直に応援されるのって幸せな気分だよねー!」
    「お前は覡になってまずやることがそれなのか。回線ごと千切るぞ」
    「はー? そりゃ遠流みたいな芸能人は心が潤ってるかもしれないけどさあ! こっちはエゴサで心を満たすしかないの! 俺の趣味なんだからほっとけよ」
     比鷺が不服そうに唇を尖らせる。
    「ていうか俺の部屋に集まってる癖に文句言うなよ。俺が自分の部屋で何しても関係無いだろ」
    「お前が『外は人目があって怖いし家に帰りたい』って言ったんだろ。これからの予定も合わせなくちゃいけないのに」
    「予定を合わせるったって、基本的にお前のアイドル活動と稽古との兼ね合いだろ。俺は全然予定無いし」
    「そんなことない。比鷺には実況があるじゃないか。その予定も合わせないと」
    「ああうん……三言が善意でそれを言ってくれてるのが物凄く伝わるから、正直胸が痛い」
    「こいつの実況は気にしなくていいよ、三言。どうせすぐに燃え尽きるから」
     そう言って遠流が三言に微笑みかける。その背後で、比鷺が悲鳴を上げた。
    「ちょっとちょっと何勝手なこと言ってんの!? 俺は実況を続けつつ大祝宴で勝ち上がって、カミにはしっかりお願いごとを叶えてもらうんだから。はー、悩むなあ、何叶えてもらお。ワクワク動画公式チャンネル……いや、ワクワク超パーリィに招待……ていうか登録者数百万人の実況者にしてもらえば全部叶うんじゃ……」
    「もう駄目だ、回線を千切ろう」
    「そういう八谷戸遠流くんは何をお願いしてるんですかねー? さぞや立派なお願いごとをしてるんでしょうよ、世界平和? 地球温暖化防止? 絶滅しそうなアメリカオオサンショウウオの保……いだっ! ぶった!」
    「僕は三言を大祝宴に連れて行けたらそれでいいんだよ」
     遠流が一語一句噛みしめるように言う。それを聞いて、比鷺がぐう……と呻き声のようなものを発した。ぐうの音くらいは出るということかもしれない。
     ──遠流は一貫して、自分を大祝宴に連れて行くことしか願いを口にしていない。そのことは、素直に嬉しいことだ。しかし、遠流は舞奏自体にそれほど情熱があるようには見えなかった。少なくとも、三言の視点ではそうだ。それなのに、本願成就にも興味が無いとくれば、遠流はどうして覡として活動をしてくれるのだろうか。それが本当に自分への友情からくるものなら、ありがたいとは思うのだけれど。
     それとも、遠流には何か『別の目的』があるのだろうか。
     どこから出てきたかも分からない三言の考えは、比鷺の声で遮られた。
    「ていうかよくよく見ると、ネットでも遠流の話題ばっかじゃん。なんだよ、八谷戸遠流の人気ヤバくない? 遠流をディスったくじょたんのところには未だにお叱りのコメントが来るしさぁ。謝罪放送だってしたのにさあ!」
    「あれを謝罪放送だって呼べる面の皮がどうかしてるぞ」
    「古参の観囃子は三言のことばっかり話してるし、俺は……なんていうか九条家の弟の方みたいな扱いだし。納得いかねー! 九条比鷺くんに期待しろよ! ていうか闇夜衆ってのも何? 俺らより先に参加を決めてたっぽいけど」
    「闇夜衆のことは社人の久賀田さんが言ってたな。今回の中で参加表明自体は一番早い」
     三言が言うと、比鷺が何か言うより先に遠流の方が反応した。
    「闇夜衆が一番早かったのか」
    「俺はよく知らないけど、既に注目されているらしい」
    「なーにが闇夜衆だ。なんかこっちも芸能人いるっぽいじゃん? 萬燈夜帳とか。あと、皋所縁も芸能人でしょ。こいつテレビで観たことあるもん。あと『絶対推理 サウザント・ナイト・マーダー』のCMに出てた」
    「『絶対推理 サウザンド・ナイト・マーダー』って?」
    「俺から出る聞き慣れない固有名詞は注釈が無い限りゲームのタイトルだと思っておいて」
    「皋所縁は職業探偵だ。芸能人ってわけでもないと思う。求められてワイドショーとか未解決事件系の番組には出てたようだけど。そして、神懸かった推理を披露してみせた」
     遠流が顎に手を当てながら、小さく呟く。切れ長の目が細められて、彼の方こそ探偵のように見える。アイドルを目指した遠流だからこそ、芸能界には詳しいのかもしれない。
    「それじゃあ、萬燈夜帳は?」
     三言が好奇心からそう尋ねると、遠流は少しだけ表情を固くして言った。
    「萬燈夜帳には会ったことがある」
    「そうなのか。遠流はすごいな!」
    「何なら共演したこともあるよ。音楽番組で一度、あとはヴィヴァルディを特集した番組で一度。萬燈夜帳は基本的に大人数の収録には顔を出さないんだけど。たとえばバラエティとかはよっぽどのことがないとNG
    「へー、お高く止まってんじゃん。アーティストっぽい」
     比鷺がわざとらしくぱちぱちと手を叩く。
    「いや、NGにしたのは制作側。僕もよく知らないけど、番組の性質が変わるから出禁になるんだとか。使いにくそうだよな」
    「……何したらそんなことになるんだよ。やばー」
    「その頃から舞奏競には興味がありそうだったのか?」
     三言が更にそう尋ねると、遠流はしばらく黙った。遠い記憶を遡っているかのような顔だ。萬燈夜帳と出会ったのは、そんなに昔なんだろうか。ややあって、彼の口が開く。
    「舞奏には興味がありそうだった。でも、覡になるとは思ってなかったな。元々はカミの伝承についてを調べていたはずだ。本人がわざわざ表舞台に出ることはない」
     番組で会った時に、そういうことまで話したのだろうか。それとも、遠流の出身地が舞奏で有名な浪磯であることを知って、そういう話を振ってきたのだろうか。どちらにせよ、遠流にとって萬燈夜帳の参加は意外のようだった。あっちはあっちで遠流が覡になると知って驚いたのかもしれない。
    「じゃー、知名度で俺が勝てそうなのって昏見しかいないじゃん。こいつ普通の人っぽいし、これはいけるでしょ。くじょたんパワーで勝てる。実況者名義明かしてないけど」
    「舞奏で勝てよ、可燃ゴミ」
    「勝つ、勝つって。絶対勝って最終的に俺のコラボキャラを各ゲームに出してもらう。はー、期間限定ピックアップキャラSSRくじょたん見たいな~!!」
     闘志らしきものを燃やす比鷺に対し、遠流が大きな溜息を吐く。
     舞奏競が開かれるのだから当たり前だが、他にも舞奏に向き合っている人間がいる、という事実は、三言に新鮮な驚きをもたらした。今までは自分だけが立っていた舞台だというのに、今やたくさんの覡が集おうとしている。これなら、さぞかしカミも喜ぶことだろう。三言の舞奏は、ただカミに向けられたものだ。地元を力づけたいとか、多くの期待を背負っているというのもあるけれど、突き詰めれば「カミ」への供物としての舞に帰結する。
     カミを喜ばせなければならない。その為にもっと頑張らないと。
    「そうだな、比鷺。俺達も頑張ろう。というわけで、明日も舞奏社に行かないか? 勿論、遠流の予定が大丈夫ならだけど」
    「当然。三言の為ならいくらでも空けるよ」
    「えー、俺明日ガチャ更新だからひたすら回す動画上げないと……あ、すいません。なんでもないです」






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    著:斜線堂有紀

    この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



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    ©神神化身/ⅡⅤ

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