閉じる
閉じる
×
この年の八月に、何と大阪の国立文楽劇場で上方歌舞伎会が行われ、最初の演目が、私が初めて見た文楽の演目と同じ『菅原伝授手習鑑』だったことで、私は、文楽に運命的なものを感じてしまった。
文楽は上演回数が多くない。たまに地方公演があるものの、六月に大阪の国立文楽劇場で公演したら、七月は東京の国立劇場でというように、一ヶ月ごとに大阪と東京の劇場で公演がある。
困った事に、と言うより嬉しい事に、大阪と東京では、違う演目が上演されるので、私は、丸三年、隔月で大阪に通うことになった。
文楽の人形は、大夫と三味線と人形遣いによって命を吹き込まれ、八重垣姫から狐の化身に変容したり、切腹した塩谷判官の亡骸から魂を抜くこともできる。
これは生身のどんな名優も敵わないし、生きている姿さえ、人形は人間より人間らしいのであるから、私の中で歌舞伎が文楽の上をゆくことはなかった。まず、歌舞伎には文楽レベルの大夫がい
この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
入会して購読
この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。