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礼讃・第74回「大人のパーティ」①
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礼讃・第74回「大人のパーティ」①

2015-02-19 13:00

     私が風俗嬢と話して印象深かったのは、ヘルス嬢が性的サービスを受けず、会話だけする客に対して怒りや屈辱のような気持ちを抱いていたのに、ソープ嬢の沙也さんは、

    「ソープで最高のお客さんは、本指名で電話予約をして来店して、切り返しでダブルに延長して、その間、楽しい会話をするだけで、十万単位のチップをコンパニオンと男性従業員にまで渡して帰る粋な人よ。そういう男性がコンパニオンから一番慕われるの。店からも大事に扱われるし、店の女の子たちからも尊敬されるわ」と、言っていた。

    もし、大学生のヘルス嬢の話を先に聞いていなければ、楽してお金がほしいだけでしょうと思ったかもしれない。しかし、沙也さんの言葉から、私はヘルス嬢が頑なに、自分が商品として売っているもの以外は決して売りたがらないことは、自分に払われる金額からくる感情ではないかと思った。ヘルス嬢は自分を卑下していないように見えて、体を売ることに対して軽蔑や差別感を強く持っている。素股はするけれど本番はしないことが一つのプライドにもなっている。

    何より客が払う金額が安いから、客層もそれなりで、それが自分につけられた値段と価値になることを認めたくないから、私が売ってるものはこのサービスだけです、と明確にしたいのだろう。

    ヘルスの客が性的サービスを受けず、女性と話をするだけで何十万もチップをはずんで帰ったなんて話は聞いたことがない。

    ソープランドには、稀ではあるけれどそういう客が必ずいる。トップクラスのソープ嬢は、銀座のクラブでホステスが務まる程度の美貌と教養と高い接客態度を兼ね備えている。セックスだけでお金を貰っているわけではないという自負があるから、セックスせずに帰る客を最高のお客さんと言い切れる。高額なチップを払う男性に選ばれることが、自信になる。

    社会的地位のある大金を稼ぐ男性の時間は高い。そんな彼らの貴重な時間を、私と過ごすことで有意義だったと感じてもらえることは、恩寵のように私は思う。

    男性を尊敬する気持ちと、女としての気位の高さを両立するには、安い男性と寝ないこと。女は付き合う男性によって格付けされ、人生も変わってしまうものだから。

    デリヘルに多くの需要があるように、女性と触れ合い、とにかく射精したいという男性の欲求を女性が理解し、コミュニケーションによってより良いセックスを探求するカップルが増えたら、世の中はもっと平和になるはずだと思う、

     

    シティホテルのスイートルームで開かれた大人のパーティで、私は何人かの女性と知り合った。仲良くなったわけではない。

    パーティー自体は楽しいと思ったが、女性同士の人間関係の煩わしさに嫌気がさして数回でやめた。

    一人だけ気の合う女の子がいた。典子ちゃんは、女子大で社会学を専攻している大学院生だった。私がパーティにはもう参加しないわと伝えたら

    「花菜ちゃんて、女らしいのに考え方は男っぽいよね」と、典子ちゃんは言った。

    「私、今まで男の人とセックスして花菜ちゃんみたいに褒められたことなんて一度もないよ。男の人たちにチヤホヤされてるのに、やめるなんて信じられない」

    「そういう恩恵やメリットのために女性との面倒な人間関係を我慢したくないの。それが嫌だから、もう行かない」

    「そういうところが男性的だよね」

    と、典子ちゃんはまた私を男らしいと言った。

    「それのどこが男性的かわからないわ」

    「女性同士のこういう付き合いって社会的な関係じゃないからドライに進まないところがあるでしょう。その女性グループに何らかのメリットを感じているから、撤退するのって自分が負けたような気がしてなかなかできないんだと思う」

    「話し合っても事態が解決するとは思えないから、私は去る」

    典子ちゃんは笑って、そういうところが男っぽいとまた言った。私は彼女に、

    「久美ちゃんはクラブでホステスしてるけれど、愛人のお手当ての方が多いって言ってたでしょう。瞳ちゃんはイベントコンパニオンをしてるけれど、収入が少ないからパーティに出て稼いでいるって話していたわよね。私は女友達を作るために参加したわけじゃないけど、セックスワークをしている女同士、連帯感が生まれたり、共感できることがあるんじゃないかと思ってたの。でも、実際はひどかった。私は彼女たちから直接、悪口を言われ、陰口を叩かれた。ちょっとショックだったのよ。まさか同性からそういう見方をされるなんて。パーティーの控室がまるで不妊治療クリニックの待合室みたいなんだもの。びっくりしちゃった」

    と、溜息混じりに言った。

    「不妊治療クリニックの待合室?」

    典子ちゃんはきょとんとして私を見た。

    「知り合いに不妊治療を受けている人がいて、治療より、待合室の人間関係が辛いって聞いたことがあるの。三十代か四十代か、一人目不妊か二人目不妊か、治療にいくらお金を使えるか、夫が協力的か、周囲からのプレッシャーの多寡みたいな違いで、優越感を持ったり、劣等感を嫉妬や憎しみに変えて、おぞましい女の情念が渦巻いているんですって」

     
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