私は2009年に、検事と検察事務官と、取調室でセックスのことについて何度か語り合ったことがある。

私が留置場から出入りするとマスコミが騒ぐからと、埼玉の大澤検事と千葉の大西検事は、私がいる警察署まで取調べに日参した。

本当に毎日来た。どちらも片道一時間以上かけてやって来た。大澤検事は事務官の伊藤君が運転する車で、大西検事は事務官の藤森君と電車で来た。

警察署の駐車場には、私が出掛けるのを待ち構えて、二十四時間、報道陣が泊まり込んでいた。毎日、私の接見に来る弁護士は、車を降りると囲まれ、事務所の前でも待ち伏せされ、取材依頼の電話がこない日はないという。

大澤検事は「今日もメディアの人がたくさんいましたよ。毎日、通ってるのに、俺達が木山さんに会いに来てるって気付かれないんだよね」と、苦笑した。

報道関係の人たちは、検事と刑事の区別もつかないらしい。検事っぽい刑事という人は見たことがないし、刑事のような検事という人もいない。彼らは相容れない性質を持っている。生ビールと発泡酒ぐらい違う。ロマネ・コンティとボージョレヌーボーぐらい違うかもしれない。

埼玉の大澤検事はメンズノンノのモデルから俳優になった阿部寛似のルックスで、ニューヨーカーのスーツを着ている四十歳の男性だったから、彼が来ると、女性警察官が色めき立った。

「あんなカッコイイ人に毎日、会いに来てもらえて羨ましい」と、よく言われた。

「三高ってあんな男性のこと言うのよね」

と、浮き立つ女警に

「サンコーって何ですか」と、私は訊いた。

「えーっ知らないの? 高身長、高学歴、高収入で三高よ」

まさか警察官にものを教わるとは思わなかった。

「木山さんの取調べ検事はカッコ良くて、事務官の男性もV6の岡田准一そっくりで可愛いって、署内で超噂になってますよ」

と、護送の若い女性巡査に言われた。

私は女警達の言葉を要約して伝えたら、二人は照れていた。

「高収入って言うと、大澤検事の年収はどの位なんですか?」

私が尋ねると

「どの位だと思う?」と、聞き返された。

司法試験に受かった四十歳男性……。

「二千万位ですかね?」

「おい、伊藤君聞いたか。二千万だってよ」

と、検事は事務官の方を見て

「そんなにもらえたらいいよなあ」と言った。

伊藤君の月給を聞いた時は気の毒になった。