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 万葉の世において去りゆく季節を惜しむのは春と秋だけだったという。しかし、現代詩の世界では夏もまた消えゆく影を惜しむものとなっている。海へ山へと人々が行動するようになったことで夏が深い記憶を刻む季節になったからだそうだ。
 

 8月最後の海でビールでも呑もうと、週末の午後、葉山の一色海岸まで散歩した。台風10号の接近を予感させる曇空の浜辺はローカルだけで寂寞としている。皆が眺めているだけの海では忙しさから解放されたライフセーバーたちが今年最後の海を味わい尽くそうと力強く泳いでいる。潮風で体を冷やさぬようパーカーを羽織ると、ビーサンを手に裸足で歩いた。最初は足裏にひんやりと冷たいのに身体の芯にはじんわりとした暖かさを伝えてくれる晩夏の砂が心地良い。灼けるような太陽の記憶を足下の砂までもが惜しんでいるように感じられた。