子供の頃に読んだ(あるいは読み聞かされた)「アリとキリギリス」という絵本にずっと違和感があった。夏の間一生懸命に働いて食料を貯えたアリとそれを横目に見ながら毎日バイオリンを弾いていたキリギリスがともに冬を迎え、蓄えのないキリギリスだけが飢え死にするというイソップの寓話だ。

 僕が子供の頃の親たちは「良い大学を出ないと良い会社に入れない」というのが口癖だった。さらに僕のような団地暮らしの親たちの多くが長男には「良い会社に入って結婚して早く孫の顔を見せてね。親も同居できる庭付きの家を建ててね」と望んでいた。当時は当たり前のように
(中にはプレッシャーで非行に走ったりノイローゼになったりした同世代もいたけれど)受け取っていたこの人生観の根っこには幼児期に刷り込まれた「アリとキリギリス」の教えがあったような気がしてならない。今思えば。