その哀し過ぎる学名に取り憑かれたのは10年以上前のことだ。オートバイでひとり海を見に行ったとき、気まぐれで立ち寄った新江ノ島水族館で目にした熱帯魚の水槽に記されていたのが「死滅回遊魚」という世界一悲しい運命を背負わされたような名前だった。

 熱帯で生まれ育った彼らはちょうど今ぐらいの暑い季節、黒潮に乗って日本の太平洋岸に流れ着き、水温が下がる冬に子孫を残すことなく死んでしまうことから死滅回遊魚と呼ばれている。僕が暮らす三浦半島では漁港や水深が十センチにも満たない潮溜まりにいることもある。近海では珍しい熱帯魚であることから近年では葉山の海に潜るダイバーたちにも人気だそうだ。