久し振りの夏日だった。浜辺はこの陽気を待ち望んでいたと思しき海水浴客で賑わっている。例年と変わらない夏の光景だ。なのにどうしてだろう。目に映る空は晴れ渡っているのに心は昨日までの厚い雲に覆われたままだ。去年まではなかったものがあって、去年まではあったものがないからだろうか。去年までの夏と今年の夏を間違い探しをするみたいに心の中で見比べてみる。神社の境内のお囃子の練習。宵祭りの提灯の下を駆け回る子供たちの笑顔。神輿とともに海に入っていく担ぎ手たちの威勢の良い声。季節感を彩る地元の風流なものはすべて影を潜め、東京のビーチハウスが提供するバーベキューやジェットスキーに興じる観光客というどこか味気ない経済の賑わいだけがある。春に失われたものを取り戻そうと人々が必死になればなるほど、何か大切なものが置き去りにされているようなセンチメンタルな気分になる。遅れた勉強を取り戻す為に夏休みも返上して授業に取り組んでいる教室でも似たような光景が繰り広げられているのだろうか。
草の根広告社
「夏のベランダで、娘が小さなくしゃみをした。」
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