蝉時雨の小径を歩いていたときのことだ。突然思い出したように娘が言った。
「つむちゃんだけ、夜に起きたんだけどね、ママもパパも眠ってて、怖かったの」
 強い西日に照らされたぼくらの影がアスファルトに映っていた。目眩がした。目に映る影が蜃気楼のように揺れ、ぼくと娘のものから父とぼくのものになったような錯覚に陥った。ぼく自身にも覚えがあった。子どもの頃、真夜中に目を覚ましたときのことだ。両親の寝顔を見て、彼らが二度と目を覚まさなかったらという不安に駆られた。なんとも得体の知れない底無しの不安だった。暗闇の中で彼らが息をしているのかどうか確かめようとした。微かに上下する掛け布団を見てようやく安堵して眠りについた。だから娘の「怖かったの」という言葉に込められた不安が手に取るように分かった。
「そっか、パパも子どものときそういうことあったよ」
「パパも?」
「うん」
 娘が落ち込んでいるとき、困っているとき、気