夕焼けに感傷を抱くのはどうしてなんだろう。

 日没とともに命の危険を伴う闇が訪れていた時代の名残りだという人がいる。世界を飲み込むような山火事を連想するからだという人がいる。太古のDNAが脈々と受け継がれているからだと。
 
 自身の青春期の記憶が呼び覚まされるからだという人もいる。

 一方で、平安時代に「もののあわれ」という言葉で明文化された無常観という文化を植え付けられて来たからだという人もいる。

 夕陽を見て感傷的になるのは先天的なものか後天的なものか。あるいはそのどちらもなのか。

 何の知識も先入観もなく生まれてきた娘は「もののあわれ」をまだ知らない。思い出すような青春期の記憶もない。その彼女は5歳の今、夕陽を見て何を感じているのだろう。生まれたばかりの頃には「黄昏泣き」と言われている生理現象があった。夕方になると決まって泣く。お腹が空いているわけでもない。おむつが濡れているわけでも