東京の青山通り沿いに年に数回訪れるスペイン料理店がある。「エル・カスティリャーノ」すなわち「Theスペイン語」と名付けられたその店は、かつては闘牛士を目指していたというガルシアさんが1977年にオープンした老舗レストランだ。スパニッシュギターの生演奏を聴きながら、伝統的な家庭料理を食べさせてくれる。働いているのもスペインの方ばかりなので注文もスペイン語でする方がスムーズだったりする。だから小さな店内はいつも日本在住のスペイン人で賑わっている。話によるとスペインの有名なサッカー関係者も遠征のたびに訪れるらしい。僕はサッカーより闘牛の方が好きなので、その名前を聞いても分からなかったけれど。

「パエージャは男の料理なんだ」

 そう教えてくれたのも、ガルシアさんだ。

「男が女を休ませる日に作る料理なんだ。だから必ず男が女に取り分けるんだ」 

 何人かで一緒に食事をしていたときのこと。同じテーブルの女性がパエージャを取り分けているのを見たガルシアさんに、僕らはそう窘められたのだった。

 そんなガルシアさんに以前「この店では出さないんですか?」と訊ねたのが、