何もないんじゃない。余計なものが何もないんだ。そのことがとても心地良かった。自分が普段どれだけ余計なものに囲まれて生きているかを改めて実感させられた。島民の方々にとっては足りないものもたくさんあるのかもしれないけれど。

 そんなことを考えながら、雨上がりの青空の下、車を走らせた。曲がりくねった山間の一本道。ロベレニーの葉の隙間から眼下のマリンブルーが見え隠れする。カーラジオの入りはすこぶる悪い。けれど大好きな音楽さえも今は邪魔に思えた。吹き込んでくる風の感触。深い緑の匂い。何も聞こえない音。五感に次々と飛び込んでくる新鮮な感動と沸き上がる思いをひとつずつ確認するだけで精一杯だった。
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