おはようございます。マクガイヤーです。
前回の放送「最近のマクガイヤー 2018年10月号」は如何だったでしょうか?
思わず本庶先生についての話が長くなったり、『仮面ライダージオウ』について喋ったりしたのですが、話したいことを一通り話せて満足しております。『ザ・プレデター』は他人事と思えない映画でしたね!
マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。
○10月27日(土)20時~「しまさんとマクガイヤーのビブリオバトル」
秋といえば食欲の秋、スポーツの秋、そして読書の秋。
マクガイヤーチャンネルでは編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をゲストにお迎えして、ビブリオバトル形式でおすすめ本を紹介する番組をお送りします。
マンガ、フィクション、ノンフィクション……と幅広いジャンルからあまり知られていない本を紹介する番組になりますが、準備段階からしまさんの意気込みが圧倒的で、楽しい番組になると思います。
○11月10日(土)20時~「ピコピコ少年が猫背を伸ばして『ハイスコアガール』」
9月25日、「月刊ビッグガンガン」で連載されていた押切蓮介のマンガ『ハイスコアガール』が最終回を迎えました。また、アニメ版『ハイスコアガール』も7月から9月まで放送され、続編となるOVAが来年3月に発売されることも発表されました。
『ハイスコアガール』は90年代に多感な時期を過ごした自分のような元ゲーム少年であるおじさんにとっては無視できないマンガですが、同時に押切蓮介の自伝的作品『ピコピコ少年』や『猫背を伸ばして』の方が当時の雰囲気や状況をきちんと伝えているのではないかと思ったりもします。
そこで、『ハイスコアガール』を関連作や90年代ゲーム文化と共に解説し、本作の魅力に迫るニコ生をお送りしたいと思います。
アシスタントとして、声優の那瀬ひとみさんが(https://twitter.com/nase1204)に出演して頂く予定です。
○11月17日(土)18時~「放送100(+α)回記念 ヨーロッパ旅行報告会&オフ会」
早いもので、ニコ生放送も100回を越えることとなりました。
これを記念して……というわけではないのですが、9月にフランス・スイス・イタリアを巡るヨーロッパ旅行を行いました。せっかくなので、同行した友人のシロたん(http://erosion-soft.com/)をゲストにお迎えして、写真と共に旅行をふりかえる報告会をしたいと思います。
いつもより放送時間が早まっていますのでご注意下さい。
また、100回を記念して、いつもより観覧客を多めに受入れる形でオフ会も開催します(無料)。その後、飲み会(有料、割り勘で3000-4000円くらいになると思います)も開催予定です。
オフ会とその後の飲み会に参加希望の方はFacebookのグループに参加し、参加表明をお願いします。
https://www.facebook.com/groups/1719467311709301/
(Facebookでの活動履歴が少ない場合は参加を認証しない場合があります)
○12月前半(日時未定)「最近のマクガイヤー 2018年12月号」
詳細未定。
いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
○Facebookにてグループを作っています。
観覧をご希望の際はこちらに参加をお願いします。
https://www.facebook.com/groups/1719467311709301
(Facebookでの活動履歴が少ない場合は参加を認証しない場合があります)
○トークイベント『夜の手塚治虫〜ここでしか語れない、黒くて妖しいオサムのこと。』に出演します
9/27~10/14まで、吉祥寺の街イベント「吉祥寺アニメワンダーランド2018」が開催されます。
今年のテーマキャラクターは生誕90周年を迎える手塚治虫です。
イベントの一貫として10/12にトークイベント『夜の手塚治虫〜ここでしか語れない、黒くて妖しいオサムのこと。』が開催されるのですが、自分も登壇することになりました。
参加メンバーが豪華すぎて、今から緊張しているのですが、ここでしか聞けない話が盛りだくさんのイベントになること間違いなしです。
おかげさまでチケットの方は完売したそうです。
山田玲司先生のニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信予定ですので、ご期待下さい!
さて、今回のブロマガですが、久しぶりに藤子不二雄Ⓐ作品、それも『愛ぬすびと』について書かせて下さい。
●藤子不二雄Ⓐの最高傑作とは
「藤子不二雄Ⓐの最高傑作はなにか」
この問いに答えるのは、実のところかなり難しいです。
「藤子・F・不二雄の最高傑作はなにか」という問いならば、答えるのは簡単です。『ドラえもん』と答えておけば間違いありません。勿論、『モジャ公』や『エスパー魔美』や沢山あるSF短編のどれかを推す声も挙がるでしょうが、『ドラえもん』は長期連載作であり、『大長編ドラえもん』のおかげでバリエーションも多く、深刻なマンネリにも陥らず、『モジャ公』や『エスパー魔美』やSF短編の要素も内包しているからです。アニメ化も映画化もされ、知名度や後のマンガやアニメ、サブカルチャー全体に与えた影響も大きいです。
「Ⓐの代表作はなにか」という問いならば、答えられます。『怪物くん』、『ハットリくん』、『笑ゥ(黒い)せぇるすまん』等々……『プロゴルファー猿』や『まんが道』を挙げる人もいるでしょう。出版点数が多く、アニメ化や映画化された作品を挙げれば良いのです。映像化されていませんが、『魔太郎がくる!!』でも良いかもしれません。自分が最も好きなⒶ作品は『魔太郎』です。
しかし、これらの作品は「最高傑作」と呼ぶことには躊躇してしまいます。どれも長期連載作故に、連載も中盤になるとマンネリに陥るのです。このことに誰よりも気づいているのはⒶ自身でしょう。どの作品にも、これまで培ったパターンを敢えて崩したり、新しいキャラクターを入れてみたりと、工夫やテコ入れの跡がみられるのですが、「鳥人間」、「銃や武器への偏愛」、「変コレクション」、「恐ろしい子供や少女」、「ギャンブル」、「旅行」、「変身」等々、Ⓐ作品全体からみるとその工夫やテコ入れそのものがマンネリだったりもします。
「後の世に与えた影響」という観点からみたら、どう考えても『オバQ』と『笑ゥせぇるすまん』になります。『オバQ』は「人外キャラとの居候マンガ」、『笑ゥせぇるすまん』はブラックユーモアというというジャンルをマンガにおいて確立しました。
しかし、『オバQ』はFとの共作であり、厳密な意味でのⒶ作品ではありません。両作とも前述したマンネリズムの問題もあります。
マンガへのドキュメンタリータッチの導入という点で『劇画 毛沢東伝』を挙げる人もいるかもしれませんが、『オバQ』や『笑ゥせぇるすまん』ほどの人気を獲得することはできず、多くの読者が楽しめるエンターテイメントでもありませんでした。
よって、「『まんが道』の『立志編・青雲編』」とか、「60年代の最高傑作は『シルバークロス』と『フータくん』」「70年代の最高傑作は『夢トンネル』」……といったように、前置きをつけて、限定的に答えるしかありません。
そして自分は、「マンガ作品としてのクオリティ」「(その時点においての)革新性」という2点に絞って考えるという前置きをつけるならば、Ⓐの最高傑作は『愛ぬすびと』ではないかと思うのです。
知名度は全くありませんが。
●『愛ぬすびと』とは
『愛ぬすびと』は1973年に「女性セブン」に連載された大人向けマンガ、いわゆる劇画です。
旅行会社に勤めるサラリーマン「愛 誠」はどことなく子供っぽい仕草や愛嬌、心の余裕が魅力的な好青年です。様々な女性たちが誠の魅力に惹かれ、恋に落ちます。しかし、誠の正体は難病の妻・優子の治療費を稼ぐための結婚詐欺師だったのです……というのが『愛ぬすびと』の紹介文になるでしょうか。
「女性セブン」は「女性自身」、「週間女性」等と並ぶ女性週刊誌の一つです。今更説明するまでもないと思うのですが、その名の通り女性を読者層と想定していながらも、20代から70代までの幅広い年代をターゲットとしており、芸能人の交際・結婚・離別等の芸能ニュース、日々の生活と関連の多い食品・美容・年金などの社会ニュース、結婚や恋愛に関連する占いなどの記事が載っています。特に、幅広い年代の女性の年代が興味を惹かれる恋愛・結婚・離婚ネタが紙面の多くを占めます。
マンガ雑誌以外の雑誌、それも女性週刊誌や総合週刊誌におけるマンガ作品は、コラムや小説とならんで読者を繋ぎとめる主食のようなものです。まず、「一見さん」の読者は芸能界や皇室や大企業のスクープやゴシップに惹かれて週刊誌を手に取ります。その読者が次号も次々号も、毎週雑誌を買い続ける「常連」になるかどうかは、マンガやコラムといった連載作品を次も読みたくなるかどうかが決めるのです。
故に、女性週刊誌や総合週刊誌は連載作品に力を入れています。必ず他のジャンルで活躍した実績のある書き手に依頼し、その雑誌でしか読めない作品の連載をお願いします。文章よりも入り口が広くなるマンガ作品なら尚更です。
そのような理由から、当時『魔太郎』『黒いせぇるすまん』などのヒットでノリにノりつつ、『恐喝有限会社』や(タイミングとしてはほぼ重複していますが)『番外社員』や『戯れ男』等のサラリーマンを主人公とした劇画と漫画の中間的作品を描いていた藤子Ⓐに漫画作品の連載が依頼されたのでしょう。当時の週刊女性では、四コママンガや軽いギャグで笑いをとるマンガは連載されていても、シリアスな話で読者の心をえぐるような大人向けの劇画は、まだ連載されていいませんでした。
そして、Ⓐが描いたのはずばり恋愛や結婚や離婚を主テーマとする結婚詐欺師の話でした。
●恐るべき完成度
『愛ぬすびと』は恐るべき完成度を誇るマンガです。1話約20ページ、全12話から成る作品ですが、『魔太郎』や『喝揚丸ユスリ商会』といった他の連載作品を抱えながら『愛ぬすびと』を週一で描いていたのが信じられないくらいの完成度です。
まず第1話「愛の1 北山昌子(33歳)の場合」、婚期を逃したOL昌子の視点で主人公の愛誠が描かれつつ、基本的な設定が紹介されます。最後に結婚詐欺師であることが判明するのですが、第1話の時点で誠が本業である旅行会社のサラリーマンに加えてサイドビジネスとして結婚詐欺師を行っている動機が、難病の妻 優子の治療費を稼ぐためであることが明かされます。冒頭の他人の結婚式に参加するシーンや場面転換の入り口、セックスシーンや正体が分かりショックを受けるシーンなどは通常とは異なる線の多いシリアスなペンタッチで描かれ、おまけに極太の黒い枠がコマを包みます。後の話では黒目が描かれなかったりもします。これらは、『シルバークロス』で開発され、『黒ベエ』や『黒いせぇるすまん』などのブラックユーモア短編で熟成されたⒶお得意の手法です。
第2話「愛の2 鳥羽範子(28歳)の場合」では、さらに結婚詐欺師としての誠の生活の詳細が描かれます。
妻の病気が「僧帽弁狭窄兼閉鎖不全」という難病であり、更にリウマチも併発し、入院と手術に200万円必要であるという具体的な金額が明かされます。
面白いのは、引用の形式で結婚詐欺師に必要な資質が語られることです。
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「いくらうまいことをベラベラしゃべっても
心がこもっていなくては相手に空々しく聞こえるだけです
嘘をつくときはまず
自分にそれが真(まこと)だと思いこませるのです
自分が信じていったことばがはじめて相手の心をとらえるのです
<ある結婚詐欺師の手記より>」
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具体的な書名が書かれていないので、おそらくこの文章は『愛…しりそめし頃に… 満賀道雄の青春』で引用される詞と同じくⒶの創作だと思われます。引用の形式でドキュメンタリーのような雰囲気を出し、ナレーションの野暮ったさを消しているわけです。これは、『カムイ伝』に源流がありつつも、様々なブラックユーモア作品でⒶが試した結果、遂に二年前に連載した『劇画 毛沢東伝』でⒶが確立した手法でもあります。
引用文の通り、真面目だけれど鬱屈した心情を抱え込むメガネOL鳥羽範子を真剣に口説き、真剣に愛し、真剣な言葉を口にした誠は、遂に範子から20万円を寸借詐欺することに成功します。
しかし、真剣であるが故に、自分でもそれが詐欺かどうか一瞬分からなくなってしまうのです。
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「自分の口からでた嘘が
自分で真のように信じられ
ホンモノの涙が自由に流せるようになったら
結婚詐欺師としては一人前だという
しかし 仕事に成功した愛誠がこのときに流した涙は嘘か……真か……
本人にもわからなかった!!」
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この描写は、誠にも相応の心理的ダメージがあることを示しています。
そして、この描写が後々の展開への伏線にもなっているのです。
●驚くべき後半の展開
6話までは、婚期を逃したり、真面目すぎたり、美人すぎてとりつくしまのない女性の心の隙をつき、結婚詐欺を働く誠の姿が描かれます。いま読んで印象的なのは、「婚期を逃したオールドミス」といっても最年長が第1話の昌子33歳であることです。73年当時は20代中盤が結婚適齢期とされていたことを頭に入れておく必要がありますね。
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