おはようございます。マクガイヤーです。
先日の放送「『ゴールデンカムイ』と世界変態列伝」は如何だったでしょうか?
基本的に原作漫画についての特集でしたが、もうすぐ第二期がはじまるアニメ版については那瀬さんやキリグラフさんに補足して頂き、充実した放送になったと思います。
本庶先生、ノーベル医学・生理学賞おめでとうございます! とるべき人がとったという感じですね。
ちょうど一年前、がんの解説に絡めて本庶先生や免疫チェックポイント阻害剤についてもお話したニコ生をやりました。興味ある方は今一度ご覧下さい。
マクガイヤーチャンネルの今後の放送予定は以下のようになっております。
○10月6日(土)20時~「最近のマクガイヤー 2018年10月号」
・最近のノーベル賞
・『夜の手塚治虫』打ち合わせに行ってきた
・『炎神戦隊ゴーオンジャー 10 YEARS GRANDPRIX』
その他、いつも通り最近面白かった映画や漫画について、まったりとひとり喋りでお送りします。
○10月27日(土)20時~「しまさんとマクガイヤーのビブリオバトル」
秋といえば食欲の秋、スポーツの秋、そして読書の秋。
マクガイヤーチャンネルでは編集者のしまさん(https://twitter.com/shimashima90pun)をゲストにお迎えして、ビブリオバトル形式でおすすめ本を紹介する番組をお送りします。
マンガ、フィクション、ノンフィクション……と幅広いジャンルからあまり知られていない本を紹介する番組になりますが、準備段階からしまさんの意気込みが圧倒的で、楽しい番組になると思います。
○Facebookにてグループを作っています。
観覧をご希望の際はこちらに参加をお願いします。
https://www.facebook.com/groups/1719467311709301
(Facebookでの活動履歴が少ない場合は参加を認証しない場合があります)
○トークイベント『夜の手塚治虫〜ここでしか語れない、黒くて妖しいオサムのこと。』に出演します
9/27~10/14まで、吉祥寺の街イベント「吉祥寺アニメワンダーランド2018」が開催されます。
今年のテーマキャラクターは生誕90周年を迎える手塚治虫です。
イベントの一貫として10/12にトークイベント『夜の手塚治虫〜ここでしか語れない、黒くて妖しいオサムのこと。』が開催されるのですが、自分も登壇することになりました。
参加メンバーが豪華すぎて、今から緊張しているのですが、ここでしか聞けない話が盛りだくさんのイベントになること間違いなしです。
おかげさまでチケットの方は完売したそうです。
山田玲司先生のニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」で配信予定ですので、ご期待下さい!
さて、今回のブロマガですが、『ゴールデンカムイ』の魅力について、ニコ生放送のまとめも兼ねて、改めて記させて下さい。
まず一点訂正させて下さい。
番組で紹介した2016年度マンガ大賞受賞時の画像↓なのですが、
東村アキコ(敬称略)から賞状を受け取っている左の男性は、野田サトル(敬称略)ではなく担当編集の大熊八甲氏でした。
「影武者なのかもよー!?」みたいなことを言ったりもしていたのですが、どうも野田サトルは顔写真も年齢もパーソナルなことは公表しない方針のようです。作風と同じく、徹底してますね。
●「和風闇鍋ウエスタン」とは?
『ゴールデンカムイ』は一言で説明し辛いマンガです。
本作は、日露戦争直後の北海道で元兵士とアイヌの少女が出会い、アイヌの隠された黄金を巡って多数の勢力と争い合う「サバイバルバトルマンガ」として始まりました。
しかし、すぐに狩猟を題材に人間と自然の向き合い方を問う「狩猟マンガ」になり、そして自然の恵みを美味しくいただく「グルメマンガ」になり、動物性愛者や快楽殺人者や人皮加工アーティストといった変態たちがシートンやヘンリー・リー・ルーカスやエド・ゲインといった実在人物のパロディとして登場し、更には『用心棒』や若山富三郎(あるいは勝新太郎)や仲代達也(が演じたキャラ)のオマージュやパロディキャラが登場する――シリアスな物語とギャグやコメディがすんなり同居する唯一無二のマンガ作品となったのです。
先に名前を挙げた担当編集の大熊氏は、『ゴールデンカムイ』を「和風闇鍋ウエスタン」と紹介しました。
https://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20160331/E1459358943264.html?_p=2
「闇鍋」は、「狩猟、グルメ、ギャグ、冒険、サバイバル、アイヌ文化、歴史ロマン(戊辰戦争・日露戦争・ロシア革命)など、とにかく面白いと思うものを全部ぶっ込んで、何が出てくるかわからない面白さ」、「○○ウエスタン」は、「ウエスタン」は、「マカロニ・ウエスタン全盛時の、切った張ったのカッコいいエンターテインメントのイメージ」だそうです。
確かに、これほど『ゴールデンカムイ』という作品の本質を一言で紹介する言葉もないでしょう。
●山田風太郎的引用
もう一つ、『ゴールデンカムイ』の魅力には(「闇鍋」とかぶる部分もあるのですが)「山田風太郎的引用の豪快さ」というものがあります。
本作には永倉新八や石川啄木など、実在の人物が出てきます。それどころか土方歳三のような史実ではその時期に生存していなかった人物や、白石由竹や牛山辰馬などモデルとなる人物があからさまなキャラクターも出てきます。更には、日露戦争、北鎮部隊、(元)新撰組などの歴史的事件、集団も重要な要素として登場します。
つまり、歴史的事実はなるべく曲げずに(曲げるとしてもエンタメ的に面白い方向に曲げて)、「この人とこの人がもし出会っていたら?」「この人がもし生き延びていたら?」「この人がこの事件に居合わせていたら?」という大胆な仮定を織り交ぜて物語が作られているのです。
このような手法は山田風太郎が『魔界転生』や忍法帖シリーズで大活用したことで有名ですが、本作には山田風太郎作品と同じ種類の魅力がある……
……ということを本作のアイヌ語監修を務める、千葉大の中川裕教授(https://www.buzzfeed.com/jp/ryoyamaguchi/golden-kamui)や、ロマン優光さん(http://bucchinews.com/subcul/5674.html)が語っていますが、自分も全くの同意見です。
山田風太郎を知らない若い読者には、「歴史的事実を素材としたスパロボ的if要素やクロスオーバー」と表現すれば伝わるかもしれません。
怖るべきはロマン優光さんの眼力で、
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まあ、それでも、のっぺらぼうやキロランケが、ラスプーチンの部下、あるいはロシア共産党のテロリストとかいう展開だったら大丈夫そうですけどね。
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……と、2016年の時点でキロランケの出自を見抜いています。ラスプーチンが出てきても全くおかしくありませんね。ラスプーチンが来た!
●野田サトル
ただ、自分が『ゴールデンカムイ』最大の魅力と感じるのは、杉本がアシリパを通じて感じることになる北海道の自然や文化への敬意です。
マンガ大賞の授賞式で野田サトルは「この作品のカテゴリーを一言で言うと?」という問いに対し、「恋愛マンガ」と答えたそうです。
https://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20160331/E1459358943264.html?_p=3
「作品からもっとも遠いと思われる回答に会場内は爆笑の渦」
……だったそうですが、自分には野田サトルが半分冗談・半分本気で答えたように思えてなりません。
本作の主人公杉本佐一は元軍人で、日露戦争の生き残りです。日露戦争は南北戦争や普仏戦争で限定的に使用された機関銃が初めて大量使用された戦争であり、大量の死者が出ました。その数、ロシア側4.3万人に対して日本側11.6万人、日本が勝利したにも関わらず、日本の方が死者が多かったのです。これはロシア側が性能に勝るマキシム機関銃を使用していたことと無関係ではないでしょう。
地獄の戦場で人を殺して生き延びた経験は、杉本という男の価値観を徹底的に変えました。
そんな杉本はカネを求めてやってきた北海道で、アイヌの少女アシリパに出会います。
全てのものに神(カムイ)が宿ると同時に、
「カムイと人間は対等」
「狩猟はカムイの方から弓矢に当たりに来る」
「人間に招待されて肉や毛皮を与えるかわりに、カムイは人間しか作れない酒や煙草やイナウ(木弊)が欲しい」
「私たちはカムイを丁寧に送り返し、人間の世界はいいところだと他のカムイにも伝えて貰わなきゃならない」
「ひどい扱いをすればそのカムイは下りて来なくなる」
と考えるアイヌの価値観は、実際のところ狩猟と殺人を厳密に区別する考え方でもあります。
「かつてアイヌの先祖はお互いに食いあいをしていたが、カムイが道具を与え食人を禁止した」
という伝承も示唆的です。
「人間を殺せばカムイ(ヒグマ)も地獄行きになる」
というアイヌの言い伝え、を通り越した世界観を聞かされた杉本は、当初は「それなら俺は特等席だ」と開き直ります。
一方で、杉本はアシリパに対して紳士的を通り越した敬意を持った態度でつきあいます。常に「さん」をつけ、年上の大事な友人のようにつきあいます。アイヌは和人から長い間差別的扱いを受けていました。また、明治はMetoo運動が鼻で嗤われる男尊女卑的社会であり、長幼の序が尊ばれる年功序列社会でもありました。杉本はアシリパに対して「差別」「男尊女卑」「年功序列」という3種の精神的障壁を乗り越えて、敬意を持っているわけです。
このことについては、杉本の家族が結核に罹り差別された経験があったこと、狩猟についてはアシリパが師匠であることが説明されますが、この二点以上の理由があるように自分には思えてなりません。
野田サトルは23で上京し、10年間のアシスタント生活後、『スピナマラダ!』の連載を始めました。念願の初連載です。北海道でとりわけ盛り上がるスポーツであるアイスホッケーを題材としたそれは、単行本6巻で打ち切りとなりました。
『スピナマラダ!』がつまらないマンガだったわけではありません。徹底した取材に基づくリアリティ、元フィギュアスケートの主人公が身につけたスケーティングテクニックがアイスホッケーでは異能となる考え抜かれた設定、「上」を目指すために家族や親友や大事なものが犠牲となる厳しさ、二瓶コーチや紅露キャプテンといったキャラの面白さ、シリアスなストーリーとギャグの同居……いま読み直しても、面白い部類に入るマンガです。
ヒットしなかった原因としては、日本全体ではアイスホッケーがメジャーなスポーツではないこと、大学生から若い社会人を想定読者とした「ヤングジャンプ」では高校生を主人公としたスポーツものは厳しいことなどが考えられますが、原因をはっきりさせることはなかなか難しいです。ともかく、『スピナマラダ!』は読者の熱狂的な反応を得ることはできませんでした。初連載作の打ち切りは野田サトルにとって大きなショックとなったそうです。
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「あの悔しさは、次作が売れなければ癒やせない。絶対にヒットさせて見返してやる」。それが野田さんの原動力になった。
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http://www.asahi.com/area/hokkaido/articles/MTW20170110011620001.html
●北海道の自然と文化に癒される杉本と野田サトル
単行本第3巻では、鹿を狩りにいった杉本とアシリパさんの姿が描かれます。
杉本が撃った銃弾は急所を外れ、手負いのまま鹿を逃がしてしまいます。傷を負いながら賢明に生きようとする鹿に、「戦争」という傷を負いながらも生きる自分自身をみた杉本は、鹿を撃てなくなってしまいます。
短刀で鹿に止めをさしたアシリパは杉本を「最後まで責任持てないなら最初から撃つな」と叱り飛ばすものの、解体途中の鹿の内臓に両手を入れるよう薦めます。
「鹿は死んで杉本を暖めた
鹿の体温がお前に移ってお前を生かす
私達や動物たちが肉を食べ
残りは木や草や大地の生命に置き換わる
鹿が生き抜いた価値は消えたりしない」
鹿を調理し、白石と共に酒を飲みながら食卓をかこみ、夜をすごす三人。
もうオナカいっぱいとうっかり口をすべらせた杉本に、酔ったアシリパさんは熱弁します。
「懸命に走る鹿の姿
内臓の熱さ肉の味
全て鹿が生きた証だ
全部食べて全部忘れるな!!
それが獲物に対する責任の取り方だ」
思わず感じ入ってしまった杉本は、笑いながらアシリパさんに問います。