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マクガイヤーチャンネル 第13号 2015/5/4
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どうもマクガイヤーです。
先週の放送「『TAKESHIS'』からみる北野武」はいかがだったでしょうか?
ぶっちゃけると、今回はテーマ選択に迷いました
当番組は、時流に乗っかるというか、その時その時で話題になっているものをテーマにしようというスタンスでやっております。まず、放送日近辺で公開される映画の中から、自分がある程度喋れるテーマとして『北野映画』と『ワイルドスピード』の二つを選びました。
ただ、自分としては、映画評論の分野で結構題材となっていて、同じようなことしか語れない『北野映画』よりも、『ワイルドスピード』の方が、自分なりに語れる自信があったのです。
なによりも、実際観てみると、初期北野武ならまず撮らなかったであろう上質な喜劇といっていい『龍三と七人の子分たち』よりも、ヤサイニンニクマシマシなプログラムピクチャーであるばかりかポール・ウォーカーの遺作として200点満点な出来である『ワイルドスピード SKY MISSION』の方がどう考えても面白かったのです。
ところが、ディレクターもスタッフも「『北野映画』の方がいい」というわけですよ。番組でアンケートをとっても『北野映画』に軍配があがります。あろうことか、いつも番組を観てくれているイラストレーターの中村祐介先生にまで「楽しみにしています!」とtwitterでメンションされる始末ですよ!
そういうわけで、北野映画の中でも最も好きで、自分が語り易い『TAKESHIS'』について語ることにしました。
誤解して欲しくないのは、『TAKESHIS'』は北野映画の中で最も出来がいい映画というわけではないということです。
もしアンケートをとったら、おそらくほとんどの人は北野流アクションの到達点として『ソナチネ』、出来のいい青春(残酷)物語として『キッズ・リターン』、エンターテイメント映画として『座頭市』――この三作品のうちどれか一作を選ぶでしょう。あ、たけし流現代アートとして『みんな~やってるか!』や、笑いとバイオレンスの融合作として『アウトレイジ・ビヨンド』を挙げる人もいるかもしれませんね。
でも、自分が一番「好き」な北野映画は間違いなく 『TAKESHIS'』です。
『TAKESHIS'』がフェリーニの『8 1/2』の流れを組む映画であることは放送中に解説しましたね。
『8 1/2』は映画のテーマと私生活のゴタゴタと自分の果てしない欲望(主に性欲)に悩んだフェリーニが、
「この悩みそのものを映画にしてしまえ!」
「現実とおれの欲望(虚構)を混ぜこぜにしてしまえ! 現実と虚構の往還こそが映画なのだから!」
「そしてこんな映画を作ってしまえるおれ、おめでとう!」
……と、開き直って作ってしまった映画です。現実と虚構の混淆具合と、フェリーニのパンツの脱ぎ具合、そして最後の開き直りっぷりがあまりに凄かったので、後の映画に多大な影響を与えました。
ボブ・フォッシーの『オール・ザット・ジャズ』、ウディ・アレンの『スターダスト・メモリー』や『地球は女で回ってる』、スパイク・ジョーンズというかチャーリー・カウフマンの『アダプテーション』……TV版『エヴァンゲリオン』や『風立ちぬ』まで『8 1/2』の影響が取り沙汰されています。
それらは、例外なく作り手にとっての現実と虚構――悩みと欲望を描いており、すなわちパンツを脱いだ作品であり、最後に「こんなおれでもいいんだ! だって、おれはおれなのだから!」と開き直る映画です。
そして、それらは例外なく面白い映画です。『8 1/2』と同じ筋である『NINE』がつまらないのは、監督であるロブ・マーシャルがまったくパンツを脱いでいないからでしょう。
『8 1/2』の影響を受けている作品群の中でも『TAKESHIS'』の面白さは群を抜いていると自分は考えています。特に、現代を生きている日本人にとっては。
何故なら、我々日本人は、フェリーニよりもボブ・フォッシーよりもウディ・アレンよりもスパイク・ジョーンズよりも、そして庵野秀明や宮崎駿よりも、TVスターであるビートたけしこと北野武の人生をよく知っており、その価値観や生きざまをよく理解しているかです。