改めて、小川洋子という作家の才能の豊かさにまいっている。
 初めて『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んで、独特の世界を描き、世界で数百万部売れても驚かないと書いた。
 『ミーナの行進』はその逆である。多分翻訳したいという外国の出版社はでてこないのでないか。あまりにも地味である。芦屋の富豪の会社社長に預けられた12歳の女の子の出来事をたんたんと書いている。しかし、逆にこの作家の力量を見せつけていると思う。
 作家は「恋」や「死」という思いテーマに関心がある。しかし、それらはちらりとしか出てこない。
 少女と従妹ミーナの、恋心ともいえないような、ほのかな気持ちを書いている。
 社長も浮気している。ちらっと出てくるだけである。
 死は次々にあらわれる。 

 まず主人公の父がなくなっている。

 何十年と使えた女中(といっても実質家の中心)もなくなり、ミーナの祖母もなくなっている。

 この家に買われていたカバもなくな