強くなりたくてプロ入り
キャリアも実績も関係なく、優勝すれば最強戦ファイナルへの道が開ける。それが全日本プロ代表決定戦である。予選会場には、他の代表決定戦にも出場したプロの顔もちらほら見える。182名参加の予選から翌日の代表決定戦に進むのは僅か8名。勝ち上がった選手の中に、プロ1年目の江崎文郎の姿もあった。
今年30歳の江崎。他のプロに比べやや遅いプロ入りである。
江崎「麻雀が強くなりたかったのでプロ試験を受けました」
サラリーマンと麻雀プロを両立させている大学の先輩。その存在に江崎は刺激を受けた。江崎のサラリーマン生活は6年目、土日祝日などの休日は確保できる。そこでリーグ戦が休日に開催されているプロ協会を受験し、合格した。だが合格後、江崎は先輩プロの麻雀に驚愕した。
江崎「今まで何となく感覚で打っていた自分の麻雀が如何にダメだったかを思い知りました」
そこで江崎は日常生活にメスを入れた。普段の仕事を効率的にこなし、できるだけ麻雀を打つ時間を作るようになる。週に一度は矢島亨プロ主催の研究会『やじ研』に参加。他の日も競技ルールのセット麻雀を積極的に行った。そして出られる大会は全て出た。その甲斐あって、江崎は全日本プロ代表決定戦の2日前に開催された大会で見事優勝を決めている。そして今回も厳しい通過率を突破して代表決定戦へ駒を進めてきた。
この日は運も味方した。トップのみ勝ち上がれる予選最終戦では、ダントツの打ち手がラス前で国士を放銃し、繰り上がった江崎がそのまま勝ち上がりを決めたのである。
裏ドラに賭けた理由とは?
翌日の代表決定戦、江崎は予選B卓に振り分けられ、秋葉啓之・藤井すみれ・荒木栄二の3名が相手となった。
そのB卓は藤井がリードする展開。
江崎はなかなか主導権が取れずに苦しんでいた。ラス前、荒木がハネ満をツモりトップが逆転。
江崎の目標は藤井となった。満貫差を逆転すべくオーラスへ臨む。
西家・江崎はタンヤオ含みの好配牌を手にし、4巡目にカン
待ちでテンパイした。
だが、リーチをかけても満貫にはツモって裏ドラが必要。さすがにリーチはかけられず打
でテンパイを崩す。が、その次巡で
を引き、今度はピンフのつくリャンメン待ちになった。
ここで江崎はリーチに踏み切った。一発以外は裏ドラ頼みになるが江崎はそこに賭けた。
実は、予選A卓でも似たような状況があった。予選A卓は日向藍子・古本和宏・須藤泰久・大島智の組み合わせ。
ラス目・古本は満貫ツモか2着の大島から5200直撃が必要だった。
ドラ1枚のテンパイを入れた古本は裏ドラに賭けてリーチ。そのロン牌が大島から出たが、待望の裏ドラは乗らず敗退した。
江崎「A卓の『裏ドラ乗らず』も見ていましたが、この時は特に頭にはよぎりませんでした。手替わりについては、マンズが変化してもそこからさらに条件がつくため、本当に欲しいのはマンガンが確定するだけです。その1種類だけのために裏ドラ条件の出アガリを放棄し、他家を自由に打たせるのは見合わないと思いました」
この待ちが、同じく満貫条件の秋葉から出た。ゆっくり裏ドラ表示牌をめくる江崎の手に注目が集まる。開かれた牌は*四だった。これで荒木・江崎の決勝進出が確定した。
荒木の追い込みを完封し優勝
決勝は、日向・荒木・大島・江崎の並びで始まった。
実力・実績からすれば荒木が抜けている。
その前評判通り、東3局までは荒木が場をリードしていた。だが、そこへ江崎の一撃が飛び出した。
東4局 東家・江崎のアガリ(すっげぇ一打参照)
このアガリで大きくリードを広げた江崎は、ここで優勝を意識したという。
江崎「自分の選択がいい方向にハマった! と思いました」
南入後、最大の関門である荒木の親では、10巡目に荒木のリーチがかかるが、江崎は荒木に一度もツモらせずにアガりきる。
南2局 西家・江崎のアガリ
だが、親が落ちた荒木もラス前で満貫をツモって、オーラスを迎えた。江崎と荒木の点差は5200点。トップめ江崎が親なので1局勝負だ。ただ、荒木の条件も重くないため、江崎ものんびりと流局を待つわけにいかない。自力決着をつけるべく、食いタンに走る。一方の荒木はツモがなかなかかみ合わず、12巡目でイーシャンテン。
荒木の手牌
だが、次巡に
を引いた瞬間、状況が一変した。
を暗槓した荒木の手は
を引いてテンパイ。しかもカンドラが
になり、文句なしの逆転手に化けたのだ。半ば諦め気味だった荒木自身も一気にテンションが上がる。当然、即リーチだ。待ちの
が山に1枚生き。だが、荒木は一回のツモすら引けず勝負が決着した。
江崎のアガリ
まさに金本大会委員長のテーマ「高速エレベーター」を実現させた瞬間だった。
江崎「一番嬉しかったのが、『やじ研』のメンバーからの祝いの言葉でした。競技麻雀について数多くのことを教えていただいた研究会に優勝報告出来たのが本当に本当に嬉しいです」
12月、再び同じ報告ができるように江崎はファイナルへ臨む。
すっげぇ一打
決勝戦 東4局7巡目 東家 江崎文郎 27600(2着目)
親でドラ2のテンパイを入れた江崎。が、ここで江崎はリーチでもヤミでもなく、打*
のテンパイ崩しに出る。その意図はどこに?
江崎「打点的には十分でも、カン待ちのリーチには全く自信がない。ソーズの多メンチャンかピンズの上の変化をみました」
打
を選んだのは、
ツモの
待ち以外に、
ツモでのカン
待ちも想定していた。前巡に捨てた
により、通常のスジ待ちより出が期待できるのだ。結果、江崎は
ツモで打
のリーチ。
一発ツモの親ハネで優勝に大きく前進したのだ。
東4局 東家・江崎のアガリ(すっげぇ一打参照)