2018年2月24日(土)に公開した映画『ナチュラルウーマン』。今年のアカデミー賞外国語映画賞候補でもあるこの作品は、トランスジェンダーの女性・マリーナが恋人の死をきっかけに差別や偏見と戦いながらも、愛する人への想いを支えに前向きに生きる姿を描いています。

今回はマリーナを演じ、ご自身もトランスジェンダーであるダニエラ・ヴェガさんに、作品のことや生きる上でのポリシー、支えになっていることなどを伺いました。

主人公・マリーナの強さのもとになっているのは愛情

(C)mitsuhiro YOSHIDA/color field

――ダニエラさんはトランスジェンダーの女性を演じる上で、彼女と似ているところや違うところを意識することはありましたか?

演技をするときには性別は全く関係なくて、おそらく他の俳優たちがしているように、自分の経験をもとにして役作りをしています。この映画の主人公・マリーナのベースには尊厳と打たれ強さ、粘り強さと反逆性があると考え、その上に自分なりのキャラクターを構築しました。

――作品の中では、マリーナが自分らしく生きる上で、恋人であるオルランドの存在というのが大きかったように感じました。

オルランドとカップルを演じたシーンは本当に美しいのですが、この愛情物語を美しいと感じるのはあっという間に終わってしまうからです。オルランド役のフランシスコ・レジェスはチリの大スターなので、そういう名俳優と共演できたという点においても彼の存在は大きなものになりました。

『ナチュラルウーマン』より©2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

――一方で、登場人物の中には、マリーナに失礼な態度をとったり、偏見丸出しで接してきたりする人たちもいました。そういうことにめげないマリーナの強さというのはどこからくると思いますか?

マリーナは他人の立場で気持ちを考えられる存在なので、彼女はオルランドの元妻や息子がなぜ自分にきつく接してくるのかも分かるんですね。彼らにとって、マリーナは怖い相手です。だからひどい態度もとりますが、それは間違いだと感じている。そういう気持ちをマリーナは分かっています。でも彼女にはオルランドに最期の別れを言いたいという目的がありました。そのためだけに強い想いをもって、前に進み続けるわけですね。

時代に変化を与えることで、次の世代の道を作りたい

『ナチュラルウーマン』より©2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

――ダニエラさんご自身のことについて伺いたいのですが、生きる上でのポリシーがあれば教えて下さい。

授賞式などでいつも言う言葉があるのですが、私の人生に大切なものは、反逆性と抵抗と愛です。この3つを持ち合わせていれば人生は良くなるし、他の人たちも同じ想いを持ってくれたら社会は良くなっていくと思います。

なぜかと言うと、今、私たちは前の世代が作ってきた時代を生きているわけで、次の世代に残すもの、つまり、私たちは変化を生み出さなければいけないんです。私たちが新しい認識を作っていかないと次の世代が通る道がなくなってしまうかもしれない。その道を作るために、私たちが時代に変化を与えなければならない。そういうことを常に思っています。

――ダニエラさんご自身が強いポリシーを持ちながら、自分らしく生きていくうえで心がけていることや支えになっていることがあったら教えてください。

私の支えになっているのは、家族とアートです。私は大学を出ていませんし、歌も個人教授で学んだため、オフィシャルな肩書は持っていません。ですから、社会に出たときに何かしたいと思っても、当時はすべての扉が閉ざされていたんです。だから、誰の許しを得ることもなく、窓から入ったというわけです。

――窓から入ってみていかがでしたか?

反逆児ですから、窓から入り、ほしい物をつかみました。

『ナチュラルウーマン』を見て、自分の今の想いを確認してほしい

『ナチュラルウーマン』より©2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

――この映画を通して、日本のお客さんにどんなことを伝えたいですか?

自分自身がどれだけ多くの人の想いに共感できるようになっているか、それを確認してほしいと思っています。さまざまな人のアイデンティティや、新しいものの見方や考え方、愛情のあり方など、どこまで受け入れられるようになっているかを自分に問うてみてください。また、どの登場人物の立場で作品を見ていたかということも思い出してもらいたいです。

――すでに次回作も決まっているようですね。本作では感情を押し殺し、表情もあまりないような役柄でしたが、次は今日見せていただいたような笑顔やいろいろな表情が見られるでしょうか。

次はすごくエネルギッシュな女性で、トランスジェンダーではなく、ストレートの女性です。お酒の強い弁護士役で、今回とは全く違うコメディタッチの映画です。

――そちらも楽しみにしています。本日はありがとうございました。

ナチュラルウーマン

シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中

©2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

配給:アルバトロス・フィルム

RSS情報:https://www.mylohas.net/2018/02/naturalwoman.html