大学の授業中もずっと立ったままであちこち動き回り、コピーも人に頼まず自分でするという京都大学名誉教授の森谷敏夫さん。肥満のメカニズムについても研究している森谷教授は、日頃からちょこまか動くことを実践されているとのこと、さすがです。

「森谷筋肉塾」夏期集中講座。前回は「筋肉は健康的に生きるために不可欠」であることを教えていただきました。第2回は「ラクしてやせる方法はないか」という、直球の質問をぶつけてみます。

第2回まとめ

「体脂肪を減らすこと」こそ、正しいダイエット。 一日の消費カロリーは、「体重×時間×METs※」で計算できる。 1kgの脂肪を落とすには、7,200kcalのエネルギー消費が必要。

※1METs=1.05 kcal。計算上1kcalとしてもOK。

正しいダイエット=「体脂肪」を減らすこと

──健康的に生きるために必要な筋肉。その筋肉をキープするために運動が大事なことはわかりましたが、なかには苦手な人もいます。運動しないで、ラクしてやせる方法って……。

森谷塾長(以下、塾長)

あるわけないだろ(怒)! そんなのが多いから、「〇〇〇を食べればやせる!」というような安直なダイエットが流行るんだ。

現代人は、終戦翌年よりも低いカロリーしか摂取していない。それなのに太るのは、一日中動かないで、じーっと座っているから。食べすぎではないのに極端に摂取量を減らしたり、偏った食事をしたりすることは、健康を害する危険な行為だとしっかり認識しないといけない。

だいたい体重ばかりを気にする、この風潮がおかしいんだ!(さらに怒)。

──体重を気にしちゃいけないとなると、何に気をつければいいんですか?

塾長

気にすべきは体重ではなく「体脂肪」。見た目はスリムなのに体脂肪率が高い「隠れ肥満」の人が増えていることが、最近問題になっているでしょ。

女性だと体脂肪率30%以上、男性は25%以上を、隠れ肥満の目安と考えればいいと思いますが、隠れ肥満は、肥満の人と同様、糖尿病などの生活習慣病にかかるリスクが高いので、見逃せない問題。

ダイエットとは、そもそも体重ではなく体脂肪を減らすためにやるべきこと。隠れ肥満、隠れ肥満予備軍の人は、すぐに体脂肪を減らす本気のダイエットを始めたほうがいい。

歩くと3倍、ジョギングなら7~8倍のカロリーを消費

──体脂肪を減らすダイエットをするには、どうすればいいか教えてください。

塾長

その前に、かしこくダイエットをするうえで覚えておいたほうがいい「消費カロリーの計算方法」について、お話ししましょう。

運動生理学では、安静時の代謝を「METs(メッツ:Metabolic Equivalents)」という単位で表します。

人間は、体重1kgあたり1分間に3.5ml、1時間に換算すると210 mlの酸素を使って、全身にエネルギーを供給しています。1Lの酸素はだいたい5kcalのエネルギーに相当するので、〈1METs=0.21L×5 kcal=1.05 kcal〉ということになる。

──「1METs=1 kcal」、体重1kgあたり1時間に1kcal使う、と考えればいいですね。

塾長

それでオッケー。計算しやすくするために安静時の代謝は「1METs=1kcal」と考えましょう。エネルギーの消費量は「体重×時間×METs」で計算できます。

たとえば、体重60kgの人が一日まったく動かない場合、〈60kg×24時間×1METs=1440 kcal〉が消費カロリー。つまり、生きているだけで消費する基礎代謝は1,440kcalということです。

──たしか、歩くと3倍エネルギーを使うんでしたね。

塾長

そう、歩行時のエネルギー消費は3METs。体重60kgの人が30分歩けば、60kg×0.5時間×3METs=90 kcal1時間歩けば180 kcalを消費します。

安静時は1METs、歩行時は3METs、ジョギングなら7~8METsで、1kmを6分のペースで走ったらだいたい10METs。

「体重×時間×METs」で、一日の消費カロリーが自分で計算できるようになります。

「体脂肪」を10%減らすには

──消費カロリーの計算がわかったところで、いよいよ本題のダイエットの方法を。たとえば、体脂肪率を10%下げるためには、どうしたらいいんでしょう。

塾長

体重60kg/体脂肪率30%の人が、体脂肪率20%を目指す場合を考えてみましょう。

図1A現在の体脂肪の重さ体重(60)kg ×体脂肪率(30)%=(18)kgB現在の筋肉、骨などの重さ体重(60)kg−A=(42)kgC目指すべき体重B ÷(80)%=(52.5)kg (※)D目指すべき体脂肪の重さC × 体脂肪(20)%=(10.5)kgE落とすべき体脂肪の重さA−D=(7.5) kg

※体脂肪率20%を目指す=現在の筋肉、骨などの重さが将来の体重の80%ということ。15%を目指す場合は85%にする。

塾長

この場合、体脂肪20%にするには、体脂肪を7.5kg落とさないといけない。1kgの脂肪は7,200 kcalのエネルギー消費で燃焼するので、7.5kg落とすには54,000 kcalを消費しなければならない、ということです。

──54,000 kcalだなんて、気が遠くなりそうです……。

塾長

体脂肪を減らすダイエットは、時間がかかるもの。その代わり、簡単にリバウンドしたりしません

「毎日1時間のウォーキング(60kg×1時間×3METs=180 kcal)」+「食事を一日100 kcalだけ減らす」、これで一日あたり280 kcal余分に消費することになるので、54,000 kcal÷280 kcal=192.8日。

約6か月半じっくり時間をかけて取り組めば、目標の体脂肪10%ダウンは達成できるし、誰が見ても「やせた!」とわかるほどスッキリするはず。

正しいダイエットは頭を使って、コツコツやるしかない。ラクしてやせる方法なんてないんだよ!

【今日の宿題】「体脂肪を減らす」正しいダイエットの計画を立ててみよう!

図1の( )内に自分の体重や体脂肪率を入れて、[落とすべき体脂肪の重さ]を割り出しましょう。 1で出した[落とすべき体脂肪の重さ]×7,200 kcal=あなたが[消費すべきカロリー]です。 実践できそうな運動や食事制限から、[一日あたりの追加消費カロリー]を算出。

☞ 2[消費すべきカロリー]÷3[一日あたりの追加消費カロリー]=いつ目標達成できるかがわかります!

効率よく体脂肪を減らしましょう

1日たった5分で体の流れを整えていける「スゴレッチ」はすごかった!

ぽっこりお腹を徹底的に凹ます! 腹筋集中エクササイズ10選

森谷敏夫(もりたに としお)教授
1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、Ph.D.)。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、カロリンスカ医学研究所国際研究員(スウェーデン政府給費留学)、米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授。2016年から京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学で、生活習慣病の温床になる肥満のメカニズムに関する研究や運動ができない人々のための骨格筋電気刺激研究などを精力的に進めている。

image via shutterstock

RSS情報:https://www.mylohas.net/2019/07/194199sp_muscle_moritani02.html