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―<金の卵>は<金の卵>であったか?-


■少子高齢化はプラス

 今回は、日本経済に対する悲観論の根拠としてよく登場する少子高齢化についてお話します。

 たしかに、現在の人口構成を見れば、今後の日本の少子高齢化はほぼ間違いありません。
 しかし、少子高齢化は欧米先進国はもちろんのこと、アジアをはじめとする新興国の多くでも抱える問題です。特に、南朝鮮(大韓民国)の少子高齢化は日本をはるかに上回るスピードで進行しており、近いうちに少子高齢化の度合いで日本を追い抜くはずです。
 また、チャイナはようやく中進国の仲間入りをしたばかりなのに、すでに労働人口が減少を始めつつあります。つまり、チャイナや南朝鮮(大韓民国)は経済 がまだ十分成熟する前(先進国入りする前)に、少子高齢化に直面せざるを得ないので、その将来ははるかに日本より暗いということです。


 しかも、発想を変えれば、日本は「高齢化先進国」であるわけですから、その医療や介護に関する先進ノウハウでグローバルなビジネスを展開できます。日本 の「おもてなしの心」は、「日本ブランド」の形成に大いに役立っていますが、高齢者向けのビジネスではその心遣いがさらに重要です。

 また、世界中で若年失業者の増加が懸念され、欧米では一般失業者の2倍程度の比率(一般失業率が10%であれば、若年失業率が20%)に達しており、深刻な社会問題となっています。スペインでは若年失業率が50%を超えるという驚くべき事態です。

 それに対して、日本の失業率は欧米に比べてきわめて低い水準です。また、少子高齢化が進行しているため若年失業率を緩和している部分があります。

 さらに、日本での今後の若年労働力確保において、移民政策はその副作用の強さから推進すべきではないと考えますが、日本には眠れるすばらしい労働力があります。女性です。

 日本の女性の社会進出度合いは、先進国としてはかなり低い水準にあります。彼女たちが他の先進国並に活躍するだけで、少子化による若年労働力の不足という問題にはほとんど対処できます。


■金の卵は金の卵であったか?

 そして、思い出さなければならないのは、日本が「高度成長」と呼ばれる輝かしい時代を謳歌していた時は「人手不足」であったことです。
 当時は、国内で急速に工業や商業が発展したことや、親の世代では少数派であった高校・大学への進学が一般化したことで、工場や商店での単純労働を担う労働者の不足が深刻化したことが社会問題になっていました。
 ですから、雇用主による中学卒業生の争奪戦はすさまじく、マスコミが彼ら中卒を極めて貴重な存在であるという意味で「金の卵」と称したというわけです。


 しかし、彼らが「金の卵」と呼ばれることはもうありません。
 なぜなら、「人手不足」という深刻な問題に直面したメーカーを中心とする日本企業が、ロボットによる自動化に真剣に取り組み、それを成功させたからです。現在では「金の卵」と呼ばれていた労働者が行っていた単純作業の多くがロボットにとってかわられています。

 つまり「人手不足」こそが、日本のロボット産業の発展を促したというわけです。

 それに対して、同じ時期の欧米では日本のような深刻な人手不足は存在せす、むしろ「移民」という手軽で安い労働力(少なくとも当時はそう見えた)が大量に流入したため、工場生産のロボット化・自動化は大幅に遅れました。


■こずかいを増やせば勉強するか?

 マスコミを含む多くの人々が、マイケル・ポーターがいうところの【要素条件】(例えば石油などの資源・安い労働力・政府の支援など)を満たせば産業が発展するという幻想を抱いていますが、それは全くの間違いです。

 例えば、産油国の中できちんと産業を発展させたのは米国(輸出量でなく産油量では世界のトップクラスです)くらいのものです。
 ナイジェリア、ベネズエラをはじめとするその他の産油国の政治・経済は混乱していますし、サウジアラビアなどではオイルマネーをばらまいて、何とか政権を維持しています。

 また、スイス・ドイツ・イタリア・北欧諸国・シンガポール・香港・台湾など、戦後発展を遂げた国々の大部分は要素条件に恵まれていません。


 企業や国家の【競争力の本質】というのは大きなテーマですので、機会を改めて論じたいと思いますが、確実に言えることは、『子供に立派な勉強机や高価な 参考書を買い与えたり、(やる気を高めると称して)こずかいの額を増やしたりしても、それだけで成績が良くなるわけではなく、むしろ逆効果になることが多 い』ということです。

 「あれとこれを買ってくれたら、勉強するからさあ・・・」と言われて、何かを買い与えてもまずうまくいきません。もし買い与えるなら、勉強の結果を出し てからにすべきですし(バフェットも企業経営者や従業員の報酬に関して同じことを言っています)、そもそも、勉強をすることが自分自身の将来にとって重要 だということが分かっていないようではどうしようもありません。

 「俺、会社の経営頑張るからさあ・・・若くて安い労働力を十分用意しといてくれる?」と国(親?)にねだるような、三流経営者を物事の基準にする必要は ありません。世の中には、親や先生に言われなくても自分の将来のために勉強を自ら行う学生は十分いますし、他人(国)に頼らず自らの力で経営課題を解決し ようとする志の高い経営者も決して少なくありません。

 そして、そのような志の高い経営者・従業員を擁する企業こそが、産業や国家の競争力となるのです。志の低い企業(個人)に何を与えても効果が無いどころか甘えを助長させて腐敗させるだけです。


 日本は少子高齢化という難題を事実上世界で最初に突き付けられましたが、それを解決すれば世界に誇る圧倒的競争力を獲得することになりますし、たぶんそれを実現するでしょう。

 ただし、課題を解決するためには、高い志と能力が必要ですから、日本のように1300年以上にわたって文化を蓄積し幾多の困難を乗り越えてきたわけではない国々が、日本と同じように課題を解決できるかどうかは未知数です。


■高度人材の受け入れ

 欧米で過去行ってきた低賃金労働者(移民)の受け入れの結果がどうなったかは、ここで述べるまでもありません。そもそも、外国人であるというだけで、低賃金の労働をするのが当然という考え方が間違っています。
 移民第一世代は、本国での苦しい生活を体験していますから、移民できたことに少なからず感謝しているはずですが、第二世代・第三世代にとっては、移民先 こそが故郷です。たとえ国籍を持たない外国人であっても、国民意識を持つようになります。もし、国籍を取得したらなおさらのことでしょう。

 反対に、低賃金労働者を受け入れた欧米諸国は、彼らがそのままでいることを望みますがそうはいきません。しかもシンガポールのように、入国の際に移民からパスポートを取り上げて、必要が無くなったら強制送還するというような荒療治もできません。

 そしてその結果、テロの嵐を招くことになります。

 したがって、日本の過去・現在の制限的な移民政策は極めて正しく、誤った開放的な移民政策を行ってきた欧米諸国はこれから高いつけを払っていくことになります。

 ただし、高度人材と呼ばれる、高い教育を受け高度な知識を持つ人々に関してはこの限りではありません。ドラッカーが指摘するように、現在は「知識」こそが重要な生産要素であり、この知識をどのように獲得するのかが競争力を決定づける重要なものだからです。

 例えば、シリコンバレーのように、世界中のトップクラスの頭脳が集積する場所が、日本国内に多数できるのが理想です。

 そして、治安が良く高い文化レベルを維持している日本は、このような高度人材にとって望ましい移住先の一つであるはずです。


(大原浩)


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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)