こんにちは、小屋です。


 今回も経済評論家の山崎元さんとの対談をお届けいたします。


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 ベストセラー「難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!」(文響社)やテレビの情報番組への出演など、投資運用の初心者に向けたわかりやすい解説に定評のある経済評論家の山崎元さん。
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 東京大学経済学部卒業後、三菱商事、野村投資信託、住友信託銀行、メリルリンチ証券など計12社を渡り歩き、現在は楽天証券経済研究所客員研究員、国家公務員の共済年金を運用する国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」)の運用委員も務めるなど、ファンドマネージャー、アナリスト、証券マンといった面々もアドバイスを求めるプロフェッショナルでもあります。

 機関投資家、個人投資家のどちらの実情もよく知る山崎さんは、経済評論家として独立した当初、ファイナンシャル・プランナーに対して否定的な見方をしていたそうです。
 しかし、ここ10年ほどでその印象は変化。
 現在は、小屋さんも講師を務める「FPの学校」というプロジェクトにも携わっています。

 対談は「良いファイナンシャル・プランナーとは?」「個人投資家の高齢化問題」などをテーマに進んでいきました。


【老年期の資産運用、お金との付き合い方】


小屋:三菱商事、野村投資信託、住友信託銀行、メリルリンチ証券……という山崎さんのキャリアを見ると、独立されるまでは機関投資家側でいたわけですよね?

山崎:その通りです。

小屋:そこから個人の運用に軸足を移したのは、先程、言われていた自分をどうマーケティングしていくかを考えての結果ですか?

山崎:80年代、90年代は投資信託や年金運用のファンドマネージャーの仕事をし、彼ら向けの専門書を書くようなこともしていました。
 その頃の主たる仕事は年金運用で、今後もきっと大きくなるし、重要性も増すだろうと思っていたわけです。
 ところが世の中は変化するもので、企業にとって企業年金が負担になり、低金利にもなり、代行返上するケースも出てきて、年金運用はマーケットとしてあんまり儲からない場所になってきたんですよね。
 そこで、山崎元商店としてはどうするか。投資信託や年金運用のプロを相手にする商品だけを扱うのではなく、一般の人たちに投資の情報を届ける仕事も加えたほうが面白いんじゃないか。マーケティングについて言えば、そこに専門家としてのニッチが空いている、とも思いました。それが2000年くらいのことです。

小屋:機関投資家の運用と個人の運用で一番違うなと思ったところはどこですか?

山崎:一番違うなと思ったのは、年金基金などはキャッシュフローが決まっているから比率で考えられるんですよ。
 日本株が25%で、外国株が18%で、債券が……考え、比率で計算する癖がついていました。
 だから、私が最初に個人向けに書いた本を見てみると、ある一定の元本を決めて、その中で比率を考えさせようとしていて、リスク拒否度なんて数字も出てきます。
 でも、実際にやってみると、どうもしっくりこない。個人の場合、動かせる金額で考えた方がいい。
 絶対額でどれくらいのリスクを取ることができて、その計算のもとにこのくらいのリターンが期待できる対象をどれくらい持つのがいい、と決めていった方がいい、と。比率ではなく、金額でということがわかるまで10年くらいかかっています。
 一方で、機関投資家のロジックが使える部分もありました。たとえば、年金基金は1社だけが運用しているわけではなく、複数の運用会社に委託しています。そこで問題になるのは、どこにどれだけ割り振るか、です。これを企業年金の世界では「マネージャー・ストラクチャー」とか、立派気な言葉で言うんですけど、これは個人の運用に当てはまるな、と。
 たとえば、楽天証券に口座があり、銀行にも口座があり、NISAがあり、iDeCoがあり、個人の運用にも複数の運用先があります。
 それをどう割り振り、調整していけばいいのか。そこはマネージャー・ストラクチャーの考え方と同じだから、それはそのまま使えるな、と思いました。

小屋:私も山崎さんの著作はたくさん読ませてもらっています。20代から30代、40代、50代と働く世代に必要なお金と投資運用の知識が本当にわかりやすく解説されていますが、一方で、最近は「老年期を迎える人たちへの情報が足りない」という問題意識を持たれているとも聞きました。

山崎:2025年には、戦後の第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれたい「団塊の世代」が75歳を迎え、後期高齢者になります。
 認知症の患者数は2012年の段階で462万人、現在は600万人を越えているという推計があります。
 私は経済評論家として、個人の資産運用と機関投資家の考え方をある程度融合して、だいたいの概略ができたかなと思っていたんですが、最後に1つ解けない問題が残りました。それが老年期の資産運用であり、お金との付き合い方です。
 「合理的に運用すれば、こうなります」という話が通じれば、それでいいわけですが、仮に自分が認知症になって、合理的な判断ができなくなったときは、どうしたらいいんだ? と。

小屋:たしかに、その不安を保たれるかたは増えています。

山崎:率直に言って、日本でお金を持っているのは高齢者です。だからこそ、難しい。たとえば、銀行に行き、ATMで預金を引き出そうとしてキャッシュカードの暗証番号を忘れ、何回か押し間違え、カードを吸い込まれてしまう。認知症の症状があるとなると、家族が呼ばれ、「後見人をつけてください」と言われます。
 「後見人をつけるってどうすればいいんですか?」「家庭裁判所に申請します。息子さん、あなた自分が推薦してもいいんですよ」と。
 これは「成年後見制度」のうち、「法定後見制度」と呼ばれるものです。
 子どもが親の代わりに意思決定を行い、財産を管理できるようになります。ところが、家裁が申請を鑑定する現場では、息子や娘が「自分が親の成年後見人になります!」と申し立てても、後見人に選ばれないケースが多々あるのです。

小屋:そうなんですか。

山崎:では誰が選ばれるかというと、「専門職後見人」と呼ばれる弁護士や司法書士です。
 この判断は、不正防止のためとされていますが、一旦、専門職後見人が決まると、たとえ家族であっても、後見を受ける親の財産の処分はできなくなります。
 しかも、年間一定額の報酬を彼らに支払わなければいけません。
 その額は後見を受ける親の預金額と連動していて、1000万円程度で月2万円、5000万円くらいあると月5万円ほどの費用が発生します。
 年間にすると、数十万円です。しかも、後見人が決まってしまえば、本人や家族は財産を自由に使うことができません。

小屋:大きいですね。

山崎:弁護士、司法書士が誠実な仕事をする人だけならば問題ありませんが、現実には30分もあれば作れるような書類をエクセルで作り、家庭裁判所に提出。専門職後見人になったら親身な仕事はせず、年間数十万円の報酬を受け取る。
 高齢者の資産が、残念な士業の人たちの飯の種にされるケースもあり、こうした状況があることをもっと世の中に広め、制度を改善していかなければいけないと思っています。


【彼は善き人だから悪い商品は勧めないはずだ、の落とし穴】


山崎:また、高齢者向けに「年をとったら株はやめて、債券の比率を増やしなさい」「分配金が出る商品、株の配当などで暮らせるようにするといいですよ」とアドバイスするファイナンシャル・プランナーもいます。
 でも、インカムゲインを求める思考は高齢者がろくでもない商品を売り込まれる原因になっているし、そもそもリスクを下げる必要があるかという問題もあります。
 たとえば、亡くなるまでの10年、15年。それだけの運用期間があって、資産が数千万円あるなら本人のためにも相続人のために運用した方がいいわけです。金融庁は「貯蓄から投資へ」と一生懸命行っていますが、リスクを下げ、インカムゲインを求めることで、資産を持っている高齢者のお金がどんどん現金に回るという逆回転も起こってしまいます。

小屋:60代、70代で意識しておくべきことはありますか?

山崎:75歳以降の後期高齢者となる前の準備期に大事なのは、「年をとって引退するとき、自分の場合はいくら持ってなきゃいけないのか?」「自分は何歳まで働く気があり、逆に働かなければいけないのか?」をはっきりさせることです。
 これで老年期の資産運用の方針が決まります。
 次に75際から80歳くらいまでのまだ頭がしっかりしている時期は、とにかくカモられないこと。
 というのも、一人暮らしで資産を持っていると、金融機関の営業が足繁く通い、「おばあちゃん、ちょっとここに名前書いてハンコを押してくれたらいいから」というような形で商品を勧めてきます。
 そのとき、自分で意思決定できるとかえって危ないんですよね。

小屋:あの銀行の営業の人は親切だし、ちゃんと話を聞いてくれる。
 彼は善き人だから悪い商品は勧めないはずだ、と。これは相談の現場でもよく聞く話です。

山崎:うるさいこと、厳しいことを言う我が子よりも、「おじいちゃん、おじいちゃん」と近づいてくる営業マンを善き人と思いたい心理はあるでしょう。
 ただ、そこで勧められる商品が問題です。
 たとえば、投資信託ですと、奇数月に分配金が払われるあざとい商品があります。なぜ、奇数月かと言うと、偶数月には公的年金が入るから。
「毎月、お金が入ると安心ですよね? うれしいですよね?」と。
 一見、いい話のようですが、分配金が出る投資信託は信託報酬も購入手数料も高く設定されています。
 仮に2000万円のお金を分配型の投資信託に入れておくと、信託報酬だけで数十万円払っている計算になります。
 だから、奇数月に受け取る分配金は1回あたり5万円の手数料がかかるATMから、自分で自分に小遣いを払っているようなもの。
 冷静に考えれば、それはやめた方がいい。
 自分で運用して、計画的に取り崩す選択をするだけで、分配金型の投資信託を選ぶよりも毎年数十万円節約できるわけですから。
 良いファイナンシャル・プランナーなら確実にそうアドバイスしてくれます。
 でも、善き人に見える営業マンは絶対に教えてくれません。

小屋:金融機関には一応、80歳を超えたらリスク商品の勧誘はしていけないとしないという内規があります。
 逆に言うと、75から80歳の間は狙われやすいと言えるかもしれませんね。

山崎:顧客がどんどん高齢化していく状況は金融機関にとっても問題なのです。
 金融機関を猟師に例えると、顧客の高齢化は、お金をくわえた鴨が群れをなして禁漁区に飛んで行ってしまうのを、指をくわえて見ているような状況です。
 それでも、高齢者の資産を狙った営業はあの手この手で行われますが、相手が高齢になると、営業しにくくなることは間違いない。
 一方、国にとっても、高齢になって運用を止める人が増えたり、相続で資産が現金化されて投資されなくなることは大きな問題です。
 そして、何より高齢者自身にとって、高齢後期の運用をどう適切に行うかは大きな問題です。
 年を取ったら運用をやめなさいというわけではありません。ウォーレン・バフェットは90歳ですから。
 ただ、外に飲みに行き、「今日の払いは高かったな」「タクシー代ももったいなかった」と反省しても、出ていった額は数万円で、後悔すれば済みます。ところが、お金の運用は判断を間違えると何百万円単位で損をすることになります。
 資産を計画的に取り崩すフェーズで、その間違いが起きると後悔だけでは済まないダメージがあります。
 もし、自分の合理的な判断力に不安を感じるようになったら、子どもやファイナンシャル・プランナーと協力して運用できるような仕組みを考えていきましょう。
 小屋さんが、現場で高齢者の相談に乗っていて、一番困るのは、どういうところですか?

小屋:やはり配当金や分配金など、老後のキャッシュ・インに固執するかたは多いですね。
 もちろん、不利な商品のデメリット、リスクは説明しますが、でも、チャリンチャリンと毎月入ってくるリターンを求める気持ちはなかなかなくなりません。
 そこで、上場投資信託(ETF)を組み、純粋に配当金をもらうような長期運用を提案します。
 それでも資産を1.5倍、2倍にするようなことは追わないけれど、残高をキープしながら配当金や分配金をもらいたいニーズは根強いです。

山崎:そのニーズを狙って、高齢者向けに営業マンが売りやすく、運用会社が儲かる商品は次々開発されていく。
 私や小屋さん、良いファイナンシャル・プランナーがせっせと情報を発信し、「本当はこうすることが得なんですよ」と広めていかなければいけません。
 チープな商売をやっている連中が稼げなくなるようにしていき、金融マンの競争のレベルを上げ、真っ当な商品が残るようにしていく。
 これは高齢者だけに限らず、すべての個人にとっていいことですから。
 ファイナンシャル・プランナーの付加価値がどこにあるんだ? と考えると、自分の仕事を「お金を入口に顧客の人生の全般に目を配る総合的なサービス業」だと捉えられるかどうかにかかっていると思います。
 客の側は、「これはお金の問題」と思っていたとしても、話を聞くうち、不安の原因は健康や人間関係にあるかもしれません。
 そして、そこにお金の問題が絡み合っているわけです。
 ファイナンシャル・プランナーはお金を媒介として、顧客の人生の助けとなるアドバイスができる立場にいます。

小屋:私たちの提供するサービスには、資産運用だけではなく、顧客の不安と向き合うことも含まれている。
 その重要度は、顧客が年齢を重ねるにつれて高くなっていくのでしょうね。

山崎:金融的な合理性だけから考えると、人生相談みたいなアドバイスの部分で手数料を取るのはいかがなものかとも思います。
 しかし、不安の相手をしてくれる他人を必要とする人は確実に増えていきます。そういった高齢者の方々を放置しておくと、不安に付け込まれるわけです。 ですから、善良な人、善良なファイナンシャル・プランナーの存在は、これからますます大きくなっていくはずです。

小屋:山崎さんはまさに善良な評論家として意義のある情報を発信し続けています。
 でも、「思うように知識が広がっていかない」というモヤモヤを感じることもあるのではありませんか?

山崎:モヤモヤ感はおおありですよ。たとえば、バランスファンドという商品があります。株と債券の両方が含まれ、その比率を運用する側が考えてあげます。
 あなたはそこのバランスを考えなくてもいいので初心者向けの商品です、と売り手は言っているんですけどね。
 でも、この商品には大きな問題があります。
 それは投資している本人が、自分の資産が今どうなっているのかを把握できないこと。
 また、株なら株のファンド、債券なら債券のファンドを別々に買った方が手数料も安く、中身もはっきりわかってコントロールできます。
 何も難しい話ではないですよね。
 ところが、「初心者は気軽に始められるバランスファンドで」「何も運用しないよりもバランスファンドでも買った方がいいんじゃないですか」と言うクズなファイナンシャル・プランナーがいるわけです。
 価値を正しく精査せず、「存在する商品には意味があるんだ」と考えてしまう専門家が減らないのは残念ですよね。
 運悪く一般の方が、その影響を受けてしまうわけですから。

小屋:情報発信に息切れを感じることはありませんか?

山崎:それは大丈夫。まだまだやっていこうと思います。
 書籍で言えば、共著者を変えてみるとか、マンガにしてみるとか、アプローチを変えると今まで伝わらなかった層に届くケースもありますから。
 たとえば、「難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!」(文響社)は、私が先生役をやって、インタビューに来た青年と対話する形式で40万部くらい売れました。
 それくらいの数になると、反響も変わってきて、若い人、まったくの運用の初心者の人からTwitterで質問がきたりするようになるんですよね。
 でも、そこに書いてあること個人の資産運用に対する考え方の中核は変っていません。
 損得は合理的に考えましょう、算術で損得を計算しよう、金融の基本はこうです、利害関係のない相手に相談しましょう、お金の世界では人を信じていいケースとよくないケースがあります……と。だから、何回も何回も届けなきゃいけないんですよ。
 学校教育の中にお金のアドバイザーを持つことのメリットや運用の知識が入っていくよう働きかける必要もありますし、これまで以上に社会人にお金のことを伝えていきたいし、高齢者とその子どもたちにも役立つ情報を届けたい。
 だから、息切れをしている場合ではないんですよね。


株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)


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