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前回と今回の2回にわたり早稲田大学の鎮目教授と小屋との対談をお届けいたします。
■個人の信用がお金を持っている以上の価値に?
小屋:お金と信用の話をしていて、現代は違う形の信用が価値を持つようになってきたのかなと思いました。
ネットやスマホの普及によって、例えば、小屋個人の信用や人的なネットワークがものすごく可視化されやすくなってきましたよね。
個人の信用が定量化されることで、お金を持っているという価値以上のものが生まれているのではないかと。
鎮目:それは興味深い視点ですね。
小屋:身近な例でいうと、最近、クラウドファンディングをやる友人、知り合いの経営者がたくさんいまして、僕もお金を出すのですが、商品や企画に惹かれる以上に、その人個人を信用して参加している気がします。
つまり、個人がちゃんと信用作りをしていると、それがお金にも換えやすい時代になったと思うんです。
鎮目:その支援をするときの通貨は円ですよね。だとすると、円というインフラの上に個人の信用を構築し、価値を表現する仕組みができてきたと言えますね。小屋さんがある人を信用して「100万円出資しよう」と考えたとき、そのインフラとして円を使う。これは円に一定の信用があるからです。
仕組み上はビットコインを使ってクラウドファンディングすることも可能ですよね。でも、そこでビットコインを選ばないとすれば、その理由はビットコインの価値が大きく変動するからかもしれませんね。もし、暴落したら……と考えると、価値を表現する仕組みとして使いづらいわけです。
その点、円は日銀、民間の銀行も含め、相当なインフラ投資が行われています。銀行の窓口に行けば、きちんと銀行券が手に入り、偽造できない技術革新も常に行われていて、1億人以上が商売に使っているわけです。
その信用があるから、クラウドファンディングをするときのベースとして多くの人が円を使っている。
ですから、小屋さんの言う個人の信用とインフラとしての円の信用が組み合わさって、新たな価値が生み出されているのかもしれませんね。
小屋:今後はさらに個人の信用が重視される流れになっていくという予感がします。
鎮目:たしかに今は、ネットワークのテクノロジーがものすごく発達してきましたから、昔に比べると物理的な距離と関係なく支援し合うことができます。
言わば、日本だけでなく、全世界の人たちから「いいね」を集めることができるわけですが、その際の単位をどうするかですよね。
小屋:個人の信用のスコアが計測されて、やりとりするような仕組みになるのかもしれません。
鎮目:例えば、日本の村では昔から、何か行事があったとき、みんなが総出で手伝うことがありました。屋根の葺き替えを手伝いましょう、とか。一人ひとりが労働力をサービスとして提供して、それはお金に換算されず、「あの家の○○はよくやってくれる」といったコミュニティの中での暗黙の了解として価値が蓄積されていく。そんなお金では表されない信用のやりとりは昔からあったわけですよね。
でも、別の村、別のコミュニティとやりとりするときには、暗黙の了解が伝わりにくい。そのようなときに便利な道具として使われてきたのが、お金、貨幣です。
藩札もそうで、藩というまとまりの中で信用をやりとりするのに適した道具でした。
それを国単位に広げたのが、円であり、ドルであり、ポンドです。けれど、この先は別に国家が単位である必要はないとも言えます。
Facebookが構想を発表した仮想通貨「Libra(リブラ)」のように、国境を超えて通用するものを作りましょうというプロジェクトは今後も出てくる可能性があると思います。
将来のことはわかりませんが、さまざまな試みが行われ、数多くの失敗があり、いくつかの成功がある。そうやって今の私たちの暮らしを支えるお金の仕組みができあがってきたわけですから、今後もお金に関して新たな仕組みができたとしても不思議ではありません。
■お金は使わないと価値にならない。だから使い方が大切
小屋:お金は支払いの手段であり、価値や信用を表すツールのはずなのに、お金そのものが目的化しやすい傾向があります。
うちのクライアントさんにしても、お金そのものを増やし続けることに執着
する人、減ってしまうことに恐怖を感じる人がいます。
これはどうしてだとお考えですか?
鎮目:数値で表されるので一喜一憂しやすい面はありますよね。
小屋:例えば、うちのお客さんで資産が3億円、4億円という人がいます。
使用する価値から言うと、1億円は誤差みたいなもので、そんなにいっぱい使い切れないとも言えるわけです。
鎮目:お金って、使わないと価値にならないんですよね。
小屋:さらに資産が増え、10億円、20億円となってくると、数値は増えても一般的な日常生活の中での使用価値は下がっていきますよね。
鎮目:そうですね。私たちはそんなにたくさん食べられないですし、1日は24時間しかないですしね。
小屋:客観的に見て、一生のうちに使い切れない。でも、数値に執着しがちになってしまう人は多い。
この思い込み、縛りをどう解いていけばいいのかなと悩むことがあります。
鎮目:なるほど。商品貨幣説に対して信用貨幣説を唱えた人たちの中に、19世紀に美術評論家であるとともに社会・経済・政治問題についても幅広く論陣を張ったジョン・ラスキンという人がいます。
彼は、「貨幣は、いわば財産の権利証書であり、仮にそれが失われても財産自体がなくなるわけではなく、その財産権の所在が問題となるに過ぎない」と述べているんですね。
お金は単なる権利証書でしかないから、お金が消えてなくなっても世の中の人たち全体としてみれば貧しくなるわけではない。ただ、そのお金の配分が変わるだけなんだよ、と。
小屋:総体、全体は変わらない。
鎮目:全体の価値は変わらないし、使えるものも変わらない。お金というのは誰がそれを持っているかという持ち分証だというわけです。
だから、自分の持っているお金自体に価値があると執着してもあまり意味がないとも言えます。
それと、数字で表されると価値があるように見えてくるわけですが、本当は1億円なら1億円、10億円なら10億円の資産で何をするか、何をしたかが価値なんですよね。
会社で言えば、株式の時価総額が出ますよね。それは会社の価値の一端を示してはいます。けれど、その額の大小がそこに勤めている人たち、関わる人たちの幸福度、満足度と一致するわけではないですよね。
小屋:なるほど。
■預金の残高や資産の額を数えていて、本当に楽しい?
鎮目:例えば、渋沢栄一は第一国立銀行を設立した後、いろいろな会社に投資していきました。
そのとき投資する会社を選ぶ基準は、必ずしも「儲かるから投資する」ではなかったんですよね。世の中の役に立つと考えた会社を選んでいった。だから、潰れたところもたくさんあります。
だけど、全体として見ると、日本が近代化していくのを支えた会社がいくつもあるわけです。
それで渋沢栄一自身がいつも儲けていたかと言うとそうでもなくて、儲かる会社の株式を途中で手放してしまったケースもあったわけです。
それでも自分が育てて成長した会社が価値あるものを生み出していることに喜びを感じていたんです。
預金の残高や資産の額を数えていても本当の楽しさはないのかなと思います。
そのお金を使ってどんなことができて、自分が生きがいを感じられるのかどうか。そこに目を向けることに意味があるのではないかと思うんですよね。
小屋:お金は生きがいを感じるためのツールになるけど、それを持つこと自体が目的化してしまっている、と。
鎮目:ただ貯め込むのは、すごく高いゴルフのクラブを買ってきて、部屋に飾って「いいクラブだろう」と言っているのと一緒で、やっぱりプレーして楽しまないとね。飛距離300ヤード打って、松山英樹みたいに優勝できたら最高でしょう。
小屋:よくわかります。ただ、お客さんの資産運用のアドバイスをする仕事していて難しいなと思うのは、1,000万円を分散投資してもらったとして、そのお金が具体的にどう世の中の役に立っているかは見えにくいし、わかりづらいんですよね。
そうすると、どうしても1,000万円が1,100万円になったとか、900万円に減ったとか、目先の数字の動きに目がいってしまいます。
鎮目:課題ですね。
小屋:役立っているというリアル感をどう感じてもらうか。
鎮目:1つ思うのは、自分が持っている資産の使われ方が目に見えるといいのかな、と。
例えば、同じ100万円を投資するにしても、何も知らない会社に儲かりそうだからとアドバイスされて投資するのと、自分が普段使っている鉄道会社に投資して、改札やトイレがきれいになったり、橋ができたり、地下化が進んだりして、「ああ、ここに使われているんだな」と実感できるのとでは、何かが違う気がします。
資産運用の一部をそういう目に見えやすいところに回していく。
アドバイザーがそういう提案をするのもいいんじゃないでしょうか。
「この会社はこういういいことをしていて、それがこういうふうに世の中の役に立っています。その結果、会社の価値が上がっているんですよ」と。
小屋:今、盛んになってきているESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のこと。ESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つと言われている)なんかは、そういう方向性の1つの試みかもしれませんね。
鎮目:お金は道具でしかありませんから、それを使って価値のあるものを生産し、世の中に提供し続ける仕組みをどう作っていくか。そこに一人ひとりがどう参加し、関わっていくか。そんなことを考えながらお金を使うこと。それが大切なのかなと思います。
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)
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