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こんにちは。株式会社ZUUの冨田和成です。
これまでに富裕層の海外移住について何度か書かせて頂きました。
今回も海外移住関連の記事になるのですが、関心をお持ちの方も多い「子女教育」という観点から、アジアでのグローバルな教育事情、またあまり伝えられることのないその教育システムの課題などについて、私自身の東南アジアでの経験なども交えてお届けしたいと思います。
■増加傾向の海外居住者
まず日本人の海外移住のトレンドについて、統計情報を参考に振返ってみましょう。
1990年には20万人強だった邦人の海外永住者数は、2011年には30万人以上になっています。そして、特に近年は増加のペースも上がっています。2009年-2010年の対前年比増加率は1%強だったのですが、2011年は前年比で3%の増加となりました。
また、地域別に見ますと、45万人いる北米が最も多いのですが、アジアも33万人で2位となっています。アジアで暮らす邦人は5年前に比べて19%増加しており、これは全体平均の11%を上回っているため、特にアジアへの移住がトレンドであるといえそうです。
■増えるアジアで教育を受ける子供達
そもそも、富裕層の方々が海外移住を考える場合、その理由は高過ぎる日本の税金対策という面が大きいのですが、子女に良質な教育を受けさせたいというのもその理由の一つです。
そして、そのような観点で米国やカナダ、それにオーストラリアやニュージーランドなどの英語圏は、高い人気を誇ってきました。
しかし、近年の教育という観点からの人気に移住先に変化が起きているといわれています。
まず、英連邦加盟国のマレーシアなど、準公用語として英語がビジネスの場でも使われている国は、近年留学先としても人気を集めるようになってきています。
現在、アジアで学ぶ日本人の子女は急激に増えてきており、平成17年(2005年)に北米を抜き首位になりました。
■急発展するアジアの教育事情
また、アジアの国々も、海外からの生徒の受け入れを含めて、教育には力を入れています。
例えばマレーシアでは、シンガポールに面していて車で30分ほどの距離にあるジョホールバル(マレーシア第2の都市)を大規模に開発する、イスカンダル計画が進行しています。
そして、このイスカンダル計画では、石油化学や電子産業の様な従来型の産業だけではなく、金融や教育に特に大きな力を注いでいるのです。その中で教育では、特区(Edu City)を整備し、一流の教育機関を世界中から誘致する動きが進んでいます。
2012年秋には、英国の名門校マルボロカレッジのマレーシア分校が誕生しました。マルボロカレッジは170年続く英国でのエリート養成の名門校なのですが、分校を作るのは170年の歴史の中で今回が初めてなため、大変な注目を集めています。
なおマルボロカレッジがマレーシアに分校を作った理由ですが、同校は「21世紀に相応しいグローバル人材に育つための教育を行うには、成長著しいアジアの中に学校を作るのが良いと思われるため」と説明しています。
マレーシア国内の王族や各国の貴族、富裕層の子女が既に通っており、その環境による人脈の形成や、質の高い教育プログラムに惹かれ、入学を希望・検討している日本人の子女やその親御様も多いとの事です。
■余り知られていない、シンガポールの苛烈な教育環境
ここまでは、アジアでの教育のポジティブな側面について触れてきました。
ここから、私なりに感じたアジア圏、特にシンガポールの教育事情に関しての疑問や感想などもお伝えしてみたいと思います。
まず、シンガポールにて我々日本人が取ることができる教育の選択肢は、日本人学校やインターナショナルスクール、そして現地の公立学校など複数に分かれます。しかし、私が知り得る限り、現地のシンガポール人の多くは子供を公立学校に通わせます。
そしてこの公立学校ですが、日本人の一般的なイメージとは裏腹に、その内部で行われる競争の苛烈さというと信じ難いものがあります。
この国ではほぼ無条件に、どの子供も3歳くらいの小さいうちからプレスクールに通います。そして英語や中国語、また数字などの読み書きに関する事が日中のカリキュラムにしっかり組込まれています。
そんなにも早くから勉強をさせなければいけない理由ですが、中学に上がる段階で全国一斉試験が行われるからです。そして、その成績に応じて入れる学校が 振り分けられてしまうのです。つまり、日本のように私立の入試ではなく公立の学校に入るために、上から下まで順位付けされてしまうというシステムです。
■科挙制度の伝統?忙しいシンガポールの子供達
上記のような制度と教育に熱心な国柄のため、この国の子供達のスケジュールは驚くほど多忙です。大体朝6時過ぎには家を出て、夕方帰宅後にも習い事があるというのが一般的ではないでしょうか。
シンガポールでのプライベートバンカー時代、お子様に対して、スイミング、科学、数学、ピアノとそれぞれの教科で家庭教師をつけている方が私のお客様にもいました。また別のお客様のお孫さんは、3歳の頃から英語と中国語に加えて日本語も勉強しています。
また、上記の成績に基づくエリート養成プログラム的なものは高校や大学、さらには国費留学へとつながる道です。これらは成績が優秀な人同士で戦うことが多いため、日本で言うところの内申書で差をつけるためにボランティア活動までやっていたりもしています。
当然、裕福な家庭ほど教育にお金をかけます。教育はお金で買えるという側面はやはり存在します。
しかし、中国の科挙制度ではないですが、このような一斉試験的なプロセスのフェアなところは、一応どんなに家庭が貧しくても勝ち上がれるチャンスがあるということかもしれません。
■教育の成果に対して、「プライベートバンカー」「ビジネスパーソン」として感じた不満
ではこの教育の成果ですが、疑問を感じることもあったというのが素直な感想です。
確かにシンガポールのエリートは非常に優秀で、そういった人たちは政治家の職や国の関連機関で働かれています。
しかし、通常の企業で働く現地の方に対しては、日本のオフィスワーカー、事務をしてくれるアシスタントであれば必ず気づくであろうことも、教えてあげな ければいけません。例えば正しい電話の受け答えの仕方などが最たる例です。いわゆるEQというものに対して、訓練される機会や試される機会が無かったのか もしれません。
また、シンガポールは経済の調子は大変良いといえども、創業者やオーナーという人物の割合が極めて少ない国です。企業の多くが政府系、または2代目の経営者が取り仕切る会社ばかりです。
加えて、自国民が300万人ほどいるにも関わらず、有名なスポーツ選手も出てきていません。これは確率の問題では無いはずで、早い時期からスポーツに打ち込める環境が無いためではと推測しています。
(実際にこの話題を友人にしてみても、「水泳は盛んだけども(軍隊における必須科目)他のスポーツはあまりやらせないなあ」という返答を受けました。)
以上、個人的な経験や感想も交えてアジアでの子女教育についてお伝えさせて頂きました。
もちろん、アジアといっても一括りにできるものではなく、国によって事情は様々です。
子女教育という切り口でアジアへの移住を検討される場合も、事前の情報収集や詳細の検討には力を注いで欲しいと思います。
冨田和成
株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO
株式会社ZUU
冨田和成プロフィール
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
これまでに富裕層の海外移住について何度か書かせて頂きました。
今回も海外移住関連の記事になるのですが、関心をお持ちの方も多い「子女教育」という観点から、アジアでのグローバルな教育事情、またあまり伝えられることのないその教育システムの課題などについて、私自身の東南アジアでの経験なども交えてお届けしたいと思います。
■増加傾向の海外居住者
まず日本人の海外移住のトレンドについて、統計情報を参考に振返ってみましょう。
1990年には20万人強だった邦人の海外永住者数は、2011年には30万人以上になっています。そして、特に近年は増加のペースも上がっています。2009年-2010年の対前年比増加率は1%強だったのですが、2011年は前年比で3%の増加となりました。
また、地域別に見ますと、45万人いる北米が最も多いのですが、アジアも33万人で2位となっています。アジアで暮らす邦人は5年前に比べて19%増加しており、これは全体平均の11%を上回っているため、特にアジアへの移住がトレンドであるといえそうです。
■増えるアジアで教育を受ける子供達
そもそも、富裕層の方々が海外移住を考える場合、その理由は高過ぎる日本の税金対策という面が大きいのですが、子女に良質な教育を受けさせたいというのもその理由の一つです。
そして、そのような観点で米国やカナダ、それにオーストラリアやニュージーランドなどの英語圏は、高い人気を誇ってきました。
しかし、近年の教育という観点からの人気に移住先に変化が起きているといわれています。
まず、英連邦加盟国のマレーシアなど、準公用語として英語がビジネスの場でも使われている国は、近年留学先としても人気を集めるようになってきています。
現在、アジアで学ぶ日本人の子女は急激に増えてきており、平成17年(2005年)に北米を抜き首位になりました。
■急発展するアジアの教育事情
また、アジアの国々も、海外からの生徒の受け入れを含めて、教育には力を入れています。
例えばマレーシアでは、シンガポールに面していて車で30分ほどの距離にあるジョホールバル(マレーシア第2の都市)を大規模に開発する、イスカンダル計画が進行しています。
そして、このイスカンダル計画では、石油化学や電子産業の様な従来型の産業だけではなく、金融や教育に特に大きな力を注いでいるのです。その中で教育では、特区(Edu City)を整備し、一流の教育機関を世界中から誘致する動きが進んでいます。
2012年秋には、英国の名門校マルボロカレッジのマレーシア分校が誕生しました。マルボロカレッジは170年続く英国でのエリート養成の名門校なのですが、分校を作るのは170年の歴史の中で今回が初めてなため、大変な注目を集めています。
なおマルボロカレッジがマレーシアに分校を作った理由ですが、同校は「21世紀に相応しいグローバル人材に育つための教育を行うには、成長著しいアジアの中に学校を作るのが良いと思われるため」と説明しています。
マレーシア国内の王族や各国の貴族、富裕層の子女が既に通っており、その環境による人脈の形成や、質の高い教育プログラムに惹かれ、入学を希望・検討している日本人の子女やその親御様も多いとの事です。
■余り知られていない、シンガポールの苛烈な教育環境
ここまでは、アジアでの教育のポジティブな側面について触れてきました。
ここから、私なりに感じたアジア圏、特にシンガポールの教育事情に関しての疑問や感想などもお伝えしてみたいと思います。
まず、シンガポールにて我々日本人が取ることができる教育の選択肢は、日本人学校やインターナショナルスクール、そして現地の公立学校など複数に分かれます。しかし、私が知り得る限り、現地のシンガポール人の多くは子供を公立学校に通わせます。
そしてこの公立学校ですが、日本人の一般的なイメージとは裏腹に、その内部で行われる競争の苛烈さというと信じ難いものがあります。
この国ではほぼ無条件に、どの子供も3歳くらいの小さいうちからプレスクールに通います。そして英語や中国語、また数字などの読み書きに関する事が日中のカリキュラムにしっかり組込まれています。
そんなにも早くから勉強をさせなければいけない理由ですが、中学に上がる段階で全国一斉試験が行われるからです。そして、その成績に応じて入れる学校が 振り分けられてしまうのです。つまり、日本のように私立の入試ではなく公立の学校に入るために、上から下まで順位付けされてしまうというシステムです。
■科挙制度の伝統?忙しいシンガポールの子供達
上記のような制度と教育に熱心な国柄のため、この国の子供達のスケジュールは驚くほど多忙です。大体朝6時過ぎには家を出て、夕方帰宅後にも習い事があるというのが一般的ではないでしょうか。
シンガポールでのプライベートバンカー時代、お子様に対して、スイミング、科学、数学、ピアノとそれぞれの教科で家庭教師をつけている方が私のお客様にもいました。また別のお客様のお孫さんは、3歳の頃から英語と中国語に加えて日本語も勉強しています。
また、上記の成績に基づくエリート養成プログラム的なものは高校や大学、さらには国費留学へとつながる道です。これらは成績が優秀な人同士で戦うことが多いため、日本で言うところの内申書で差をつけるためにボランティア活動までやっていたりもしています。
当然、裕福な家庭ほど教育にお金をかけます。教育はお金で買えるという側面はやはり存在します。
しかし、中国の科挙制度ではないですが、このような一斉試験的なプロセスのフェアなところは、一応どんなに家庭が貧しくても勝ち上がれるチャンスがあるということかもしれません。
■教育の成果に対して、「プライベートバンカー」「ビジネスパーソン」として感じた不満
ではこの教育の成果ですが、疑問を感じることもあったというのが素直な感想です。
確かにシンガポールのエリートは非常に優秀で、そういった人たちは政治家の職や国の関連機関で働かれています。
しかし、通常の企業で働く現地の方に対しては、日本のオフィスワーカー、事務をしてくれるアシスタントであれば必ず気づくであろうことも、教えてあげな ければいけません。例えば正しい電話の受け答えの仕方などが最たる例です。いわゆるEQというものに対して、訓練される機会や試される機会が無かったのか もしれません。
また、シンガポールは経済の調子は大変良いといえども、創業者やオーナーという人物の割合が極めて少ない国です。企業の多くが政府系、または2代目の経営者が取り仕切る会社ばかりです。
加えて、自国民が300万人ほどいるにも関わらず、有名なスポーツ選手も出てきていません。これは確率の問題では無いはずで、早い時期からスポーツに打ち込める環境が無いためではと推測しています。
(実際にこの話題を友人にしてみても、「水泳は盛んだけども(軍隊における必須科目)他のスポーツはあまりやらせないなあ」という返答を受けました。)
以上、個人的な経験や感想も交えてアジアでの子女教育についてお伝えさせて頂きました。
もちろん、アジアといっても一括りにできるものではなく、国によって事情は様々です。
子女教育という切り口でアジアへの移住を検討される場合も、事前の情報収集や詳細の検討には力を注いで欲しいと思います。
冨田和成
株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO
株式会社ZUU
冨田和成プロフィール
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)