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世界文学のアーキテクチャ 終章 時間――ニヒリズムを超えて|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 2ヶ月前
1、近代小説に随伴するニヒリズム一八八〇年代に書かれた遺稿のなかで、ニーチェは「ニヒリズムが戸口に立っている。このすべての訪客のうちでもっとも不気味な客は、どこからわれわれのところへ来たのであろうか」と書き記した。ニーチェによれば「神が死んだ」後、人間の基準になるのはもはや人間だけである。しかし...
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世界文学のアーキテクチャ 第一四章 不確実性――小説的思考の核心|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 2ヶ月前
1、不確実性を思考する本連載もそろそろ終わりに近づいている。私はここまで、世界文学の中心を占める小説を、広義の人類学的対象として捉えてきた。人類の諸文化がそれぞれ世界理解の型をもつように、小説もいわば特異な人工知能として、世界を思考し、解釈し、再構成する力をもつ。人類と小説はドン・キホーテとロシ...
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第十三章 人間――悪・可塑性・人種|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 5ヶ月前
6、可塑性を利用する芸術家――オーウェルの『一九八四年』架空の全体主義国家オセアニアを舞台とする『一九八四年』では、戦時下の党を率いるビッグ・ブラザーが、テレスクリーンを用いて社会の全体をくまなく監視している。真理省記録局に勤務するウィンストン・スミスは、過去の文書の改竄に従事しているが、やがて魅...
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第十三章 人間――悪・可塑性・人種|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 5ヶ月前
1、悪の発明――ラス・カサス的問題文学にとって世界とは何か。私は歴史的な見地から、その問いを初期グローバリゼーションと紐づけた。世界とはたんに空間的な広さを指す概念ではなく、異質なものとの接近遭遇がたえず起こる場である。異なる歴史、異なる習俗、異なる人間との関係の集合体としての〈世界〉――その成立に...
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第十二章 制作――ハードウェアの探究|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 6ヶ月前
6、制作の哲学――他者性のオン/オフ制作者は、素材=ハードウェアとしての他者を象る。これは他者性の創設である。しかし、この被造物が制作者と合一するとき、他者性はむしろ打ち消される。制作者にとって、素材の他者性はときにオンになり、ときにオフになる。さらに、制作者自身も自らの制作物の魅力や恐怖に屈する...
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第十二章 制作――ハードウェアの探究|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 6ヶ月前
1、読むこと、見ること、作ること私は前章で、近代小説の主体性の源泉が「読むこと」の累積にあることを示した。一八世紀の書簡体小説では、登場人物たちが大量の手紙を送受信し、相手のテクストにエントリーし続ける。手紙はいわば瞑想用のアプリケーションであり、心(主観)の状態をその揺らぎも含めて、きわめて詳...
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第十一章 主体――読み取りのシステム|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 7ヶ月前
6、教師あり学習――ゲーテのビルドゥングスロマンもっとも、セルバンテス以降もピカレスクロマンの影響力は持続し、一八世紀のヨーロッパではときに女性のピカロも登場した。デフォーの『モル・フランダース』にせよ、サドの『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』にせよ、その主人公はいわば不良の女性である。特に、...
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第十一章 主体――読み取りのシステム|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 7ヶ月前
1、一か二かルソーが自伝文学『告白』の冒頭で「わたしひとり。わたしは自分の心を感じている。そして人々を知っている。わたしは自分の見た人々の誰とも同じようには作られていない」と大胆不敵に宣言したことを典型として、近代ヨーロッパの文学は唯一無二の創造物である「私」の探究に駆り立てられてきたように思え...
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第十章 絶滅――小説の破壊的プログラム|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 8ヶ月前
6、倒錯的な量的世界――スウィフト『ガリヴァー旅行記』『ロビンソン・クルーソー』への自己批評と呼ぶべき『ペスト』からほどなくして、一七二六年にスウィフトの『ガリヴァー旅行記』の初版が刊行される。この奇怪な旅行小説は、一八世紀の初期グローバリゼーションを背景として、人間の可変性や可塑性を誇張的に示し...
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第十章 絶滅――小説の破壊的プログラム|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 8ヶ月前
1、冒険の形式、絶滅の形式小説をそれ以前のジャンルと区別する特性は何か。この単純だが難しい問いに対して、ハンガリーの批評家ジェルジ・ルカーチは『小説の理論』(一九二〇年)で一つの明快な答えを与えた。彼の考えでは、小説とは「先験的な故郷喪失の形式」であり、寄る辺ない故郷喪失者である主人公は「冒険」...
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第九章 環境――自然から地球へ|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 9ヶ月前
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ6、環境文学のビッグバン――フンボルトの惑星意識以上のように、ルソーやワーズワースが《自然》と心を同調させる歩行の技術を定着させたことは、文学史上のブレイクスルーと呼ぶべき事件であった。レベッカ・ソルニットが示唆するように、この技術は二〇世紀のモダニズム文学にまで...
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第九章 環境――自然から地球へ|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 9ヶ月前
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、物質ともつれあった心の生成近代文学が生成したのは、環境に心を創作させる技術である。物質的な環境(自然)の記述が、心的なものの表現として利用される――この心と自然の共鳴現象が、近代文学を特徴づけている。例えば、小説における風景描写はたんなる記録という以上に、語り...
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第八章 超‐感覚的なものの浮上――モダニズムの核心|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 10ヶ月前
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ6、感覚の雪崩――ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』 ヴァージニア・ウルフの一九一九年のマニフェスト的な評論「現代小説」には、その重要な手がかりが記されている。ちょっとの間、普通の一日の普通の心を調べてみよ。心は無数の印象を――些細な、とてつもない、はかない、あるいは...
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第八章 超‐感覚的なものの浮上――モダニズムの核心|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 10ヶ月前
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、五感に根ざしたリアリズム 小説の台頭は、それ自体が世界認識のパラダイムの変化と結びついている。私はここまで、それを初期グローバリゼーションと植民地の拡大という政治的な観点から説明してきたが、そこに心理的な次元での変革が関わっていたことも見逃せない。例えば、英...
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第七章 海の象形文字――シェイクスピアからメルヴィルへ|福嶋亮大(後編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 11ヶ月前
福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ7、愚かさを拡大する新世界――デフォーの『モル・フランダーズ』 シェイクスピア劇においては、しばしば二つの異質の世界が交差する。それを象徴するのが、地中海世界の中心であるヴェニスにアウトサイダーとしてやってくるアフリカの黒人オセローであり、ミラノから退出して新世界...
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第七章 海の象形文字――シェイクスピアからメルヴィルへ|福嶋亮大(前編)
コメ0 PLANETS Mail Magazine 12ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。国家/個人としての主権の存在を宣言したとして発明的な出来事だったアメリカ独立宣言。ある種の「文学」とも言えるこの文書に潜む、ヨーロッパ文学の財産とは?福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、世界文学としてのアメ...
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第六章 長い二日酔い――一九世紀あるいはロシア(後編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 13ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。前回に引き続き、19世紀ヨーロッパの社会思想について分析します。「アジアからヨーロッパへ」という単純な図式に収まり切らないアメリカやロシアを、当時の知識人たちはどのように捉えていたのでしょうか。 前編はこちら。福...
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第六章 長い二日酔い――一九世紀あるいはロシア(前編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 13ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。今回は19世紀ヨーロッパにおける社会思想について分析します。アメリカ独立戦争やフランス革命の反省から、個人の人権尊重への意識が高まった前半期から、自然科学が優勢となった後半期にかけてどのような思想の変遷があった...
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第五章 エスとしての日本(後編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 15ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。 日本で最初の著述家と言われる曲亭馬琴の作品には、中国文学からの影響がありました。彼がどのように中国文学を捉えていたかを通...
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第五章 エスとしての日本(前編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 15ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。今回は日本文学が受けた中国小説からの影響について分析します。あくまでも傍流的立ち位置だったという「小説」が隣国の文化に何をもたらしたのか、18世紀に国学を興した本居宣長の研究から明らかにします。福嶋亮大 世界文...
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第四章 オルタナティヴな近代性――中国小説の世界認識(後編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 16ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。『水滸伝』や『三国志演義』といった作品がどのように読み解かれたのかを通じて、近世の中国文学と批評のあり方について分析します。前編はこちら。福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ5、一六世紀のコミュニケーション革命...
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第四章 オルタナティヴな近代性――中国小説の世界認識(前編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 16ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。歴史書を基礎とする古代の中国小説が、やがて一般化した「小説」とどのように異なるのかを分析し、近世の小説のあり方を捉え直します。福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、二つの文学ウイルス 本章および次章では、主に...
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第三章 他者を探し求めるヨーロッパ小説――初期グローバリゼーション再考(後編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 17ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。一八世紀、初期グローバリゼーションによって生じた「他者とのつながり」に文学作品はどう向き合ったのか、『ロビンソン・クルーソー』を象徴的な作品として分析します。 前編はこちら。福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ6...
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第三章 他者を探し求めるヨーロッパ小説――初期グローバリゼーション再考(前編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 17ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。小説史を研究するうえで暗黙の前提となっていたヨーロッパ中心主義を批判すべく、アジア圏の作品がヨーロッパ文学に与えた影響について解説します。福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、ヨーロッパ中心主義をいかに解体す...
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第二章 小説の古層――ゴシップ・ガリレイ的言語意識・百科全書|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 17ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。小説の「起源」を探るべく、人類が言語以前から持ち続けていたコミュニケーション様式を振り返りつつ、言語と小説の進化史について考察します。福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、ゴシップの人類学的意味 小説の起源を...
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第一章 世界文学の建築者ゲーテ――翻訳・レディメイド・ホムンクルス(後編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 18ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。 郵便システムができあがり、書物として「思想」までもが商品として扱われるようになった近代に、文学作品はどのようなかたちでコミュニケーションの対象となったのか、その歴史を振り返ります。福嶋亮大 世界文学のアーキテ...
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第一章 世界文学の建築者ゲーテ――翻訳・レディメイド・ホムンクルス(前編)|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 18ヶ月前
本日のメルマガは、批評家・福嶋亮大さんの連載「世界文学のアーキテクチャ」をお届けします。 19世紀の出版革命以後、文学作品の急激な民主化が起こった時代に「世界文学」はどのような概念として持ち出されたのか、その歴史を辿ります。福嶋亮大 世界文学のアーキテクチャ1、ヴァイマルの文芸ネットワーク 序章で述...
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【新連載】世界文学のアーキテクチャ はじめに――世界・小説・商品|福嶋亮大
コメ0 PLANETS Mail Magazine 19ヶ月前
本日より批評家・福嶋亮大さんの新連載「世界文学のアーキテクチャ」が始まります。グローバルに流通する文学作品の研究において、「世界文学」の概念が用いられるようになりました。もともとは産業革命期の19世紀に誕生したこのワードを手がかりに「小説」と「資本主義」の構造的な類似を分析しながら、「世界文学」と...