高齢化社会が到来した。老人が増えていることが日々実感される。老人しか見ない日さえある。老人ホームにいるためかもしれない。
 今日も妻のいる介護棟に行った。老人ホームの一般棟に夫婦で入居していたが、妻の認知症が進んだのだ。
 それまで一回の食事に二時間はかかるようになった。噛むにも呑み込むにも時間がかかるのだ。妻が一人になるのを不安がるため数分でも部屋を空けられず、散髪に行くのも人に会うのも妻を連れて行く。わたしに腰痛が出ると何日も風呂に入れてやれず、安眠できない日が続いた。
 わたしに悲壮感も負担感もない。 
週刊文春デジタル